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キーホルダー戦記タクヒナ!  作者: フィーカス
キーホルダー・ハンター
16/45

夕暮れの街

『まあ、これくらいインパクトがないと起きないんだよ』

 悠が寝ているそばで、タクが自慢げに言った。

『おお、なるほど、悠たんはおっぱいが好きなんだね。じゃあ私も……』

 そういうと、しばらくヒナはネタを考えてみる。そして、そっと悠に呟いた。

『ロリ系貧乳少女の私生活、公開まであと十二時間』

 しかし、しばらくたっても悠は反応しない。カリカリと学生が板書をノートに書き写す音が、無常に響き渡る。

『え、何? 乳なら何でもいいんじゃないの? 貧乳は拒絶? ねえ拒絶?』

『ははは、まあ好みは人それぞれだからねぇ』

『むむ、悠たんめ、こしゃくな。なら、これでどうだっ!』

 ヒナは再びいろいろと考えると、また囁くように言った。

『平坦なスクール水着少女の生着替え、公開まで後一時間』

 だが、やはり悠はピクリとも反応しない。

『ひ、酷い! やっぱりまな板娘はダメなの? ねぇ、これが胸囲の格差?』

『え、えっと、僕に言われても……』

『ええい、こうなったら……』

 ヒナは次々に似たような文章を考え、悠につぶやきつづけた。


 一限九十分、丸々二限の授業を終えると、学生たちはそれぞれ机の上を片付け、講義室から出て行った。

『どうして? 私のセンスがダメなの? ねえ、私のセンスが悪いの?』

『いや、さすがに巨乳爆弾とか、乳魔道師クエストとかは意味わかんないよ』

 悠のかばんで揺れるヒナとタクが、今日の悠への口撃について言い合う。

『おのれ悠たんめ、次は性癖を突き止めてすごい勢いで起こすからね!』

『すごい勢いで起こすって……しかも聞かれてるし』

 当の悠は、オレオと話しながら講義棟から外に出るところだ。しかし、ヒナたちの話は聞いてない様子である。

 寒いほど冷房が効いたの講義室から出ると、暖かい空気が出迎える。さらに講義棟から出ると、強い日差しに温められた熱い空気が容赦なく襲い掛かる。

「……にしても暑いなぁ。この暑さはどうにかならないかねぇ」

 日光をさえぎるように、悠は額の上に手を当てた。

「まあ、夏だから仕方ないよ」

「夏だからこそ涼しくなるべきだ! くそ、太陽は俺にいやがらせをしているに違いない」

「あぁ、なるほど、僕らはそれの煽りを受けているわけか。つまり悠のせいで暑いってことだね」

「なんでそうなるんだよ!」

「え、悠の言う通りだとそうなるでしょ? それはともかく、悠はこの後何か用事はあるのかい?」

 オレオが話をそらすと、悠は「うーん」とうなった。

「いや、特に……あ、待て、ちょっと用事を思い出した」

「あらら、せっかくカラオケにでも行こうと思ったのに」

 カラオケ、と聞いて悠は少し迷ったが、首を横に振った。

「せっかくだが、また今度にしよう。じゃあ、この辺で」

 駐輪場に着き、自分の自転車まで行くと、悠は自転車のロックを解除し、すぐさま走り出した。

「……何であんなに急いでるんだろう。まさか、氷田さんとデート?」

「ちげーよ!」

 オレオが呟くと、遠くから悠の叫び声が聞こえた。

「あれ、何で聞こえたかなぁ」

 オレオが不思議がる中、悠は大学の入口へと消えていった。


 夕方の中心街は、夕食の買い物をする主婦たちで賑わう。その中に混じるように、近くの高校生の生徒や、小さな子供たちの元気な声が響く。中には老夫婦の声も混ざっていた。そんな声の波の中、悠はそれを聞き流しながら街中を進んでいく。

『マスター、こんな時間からキーホルダーハンター探し?』

「まあ、帰るついでだし。人が多いっていったらここらへんだからな」

 見渡す限り、専門店や量販店が立ち並ぶ。その間の道路を走る車のエンジン音が、あたりに響き渡る。

『たしかにそうだけど、こんな目立つところで、盗みなんかすると思うの?』

 汗だくになる悠に、タクは尋ねる。

「まさか。だけど、目立つところの裏には、こういうところもあるからね」

 大通りに立ち並ぶ建物と建物の隙間の小道に差し掛かると、悠はその間へ入っていった。先ほどとは打って変わってほとんど人通りのない、狭い道だ。時々、学生が歩いてくるのが見える。

『なるほど、こういうところなら人通りが少ないから、何らかの事件があってもおかしくないよね』

『でも、こんなところって、どんな人が通るのかな』

 前カゴで揺れるヒナは、ほとんど人通りの無い道を見て、疑問に思う。

「たとえば、この先にこういう建物があれば……」

 小道を途中で曲がり、そこを抜けると、店が集まる広場に出た。

『あ、コンビニ』

 抜けた先の右側には、コンビニが一軒あり、高校生らしき制服を着た男女が何人かたむろしていた。

「この道は高校生が近道として結構使ってるからな。特にここのコンビニに寄る生徒が、この道を通って帰ることが多いのさ」

『なるほど、さすがマスター、女子高生をチェックしているだけあるね』

「ふっ、まあな……って、何故そうなるんだよ!」

 タクに突っ込みを入れながら、悠はコンビニの自転車置き場に自転車を止める。たむろしていた高校生が数人コンビニに入ると、悠も店内に入り込んだ。

『おや、マスター、ここで女子高生チェックかい?』

「のどが渇いただけだ。ちょっとジュースをな」

 冷たい空気が流れ、悠のかばんのキーホルダーが静かに揺れる。悠は迷うことなく飲料コーナーに向かうと、ペットボトルを一本取り、すぐさまレジで精算した。

『あれ、男の子はエッチな本のところに立ち寄るんじゃないの?』

「……」

 ヒナは悠に話しかけたが、悠は黙ったまま店内を出ていった。

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