二人目のキーマスター2
だんだんと高く昇っていく太陽が、徐々に涼しい日陰を奪っていく。それにつれて現れる日なたが、さらけ出している素肌をじりじりと焼いていく。
「とにかく、今日という今日は生かしておけん! 氷点、勝負だ!」
悠は片手と片足を突き出し、戦闘態勢に入った。
「はぁ、仕方ないわねぇ。またフルボッコにしてあげるわよ」
『おい悠、また零ちゃんの冷気弾でやられたいのか? お前は本当Mだよな』
「零ちゃん言うなこのストロングマゾが!」
サクの言葉に、思わず氷点がぺしぺしとサクのキーホルダーを叩く。
『ひぃぃ、もっとぉぉ!』
『はは、サク、キーホルダーに痛覚なんてないよ』
サクと氷点のやり取りに、タクが呟いた。
『わ、わかってるよ、気分よ気分! それくらいタクなら察してくれると思ったんだがなぁ』
『あいにく、僕はそういう空気は読み取れないからね』
タクがそう言うと、氷点は「はいはい」と話を切った。
「さて、冗談はこの辺にしておいて、勝負するなら容赦しないわよ、悠!」
悠の構えに応え、氷点も戦闘の構えを見せる。とはいっても、両手をそれっぽく構えただけで、先ほどまでの状態から大きな動きはない。
『はぁ、結局こうなるのね』
『え、タクたん、何が始まるの?』
『二人のバトルだよ。キーマスター同士のね』
『え、バトルって、二人で戦うの?』
『そう。キーマスターはキーマスター同士で戦わなければいけない運命にあるんだ』
タクはトーンを落とし、真剣にしゃべる。
『えぇっ、そんな過酷な運命が……』
『ってマスターが言ってたけど』
『な、なんだ、やっぱりタクたん、中二病なんだね』
『まあ、それがマスターだから仕方ないよ』
ハハハ、とタクは笑っているが、ヒナははっと思い返した。
『って、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 早く止めなきゃ!』
『大丈夫だよ。バトルって言ってもたいしたことないから。多分』
『えぇ、多分って』
『今までが今までだったからね。それより、ヒナも準備しておいてね』
『え?』
突然タクの口から出た「準備」という言葉に、ヒナは言葉が詰まる。
『わ、私、何をすればいいの?』
『マスターのサポートさ。まあ、すぐにわかるよ』
わけが分からないまま、ヒナは悠と氷点の様子を伺う。決して冷たいとは言えない風が、それでも悠と氷点の二人の体を通り抜ける。
『……あれ、でも氷点たんってどこかで見たような……』
ふと、ヒナは氷点の体をじっと見つめた。顔は覚えていないが、どうも見た覚えがある体つきをしてる。
「いくぞ氷点! わが必殺技を受けてみよ!」
悠は構えた手を集中させる。
『え、うわっ!』
突如、ヒナは全身から力が抜けるような感じがした。同時に、悠の手には赤い塊が生成されていた。
『ああ、感じたかい? マスターたちキーマスターは、キーホルダーをエネルギー源としてバトルをするんだよ』
『え、エネルギー源って、私の体力、吸われちゃうの?』
『えっと、少し違うけど、似たようなものかな……』
タクが説明していると、悠の手にあった赤い塊がかなり大きくなっていた。
「タク、アレ行くぞ」
『ああ、アレね。はいはい』
タクが力ない返事をすると、タクの体から湯気のようなものが立ち上った。タクの言う、エネルギーが放出されているようである。
「赤く燃え上がる紅蓮の槍よ、憎き欲女を貫け! 獄火灼炎槍!」
悠が謎の厨二呪文を唱え終わると、赤い塊から無数の小さく鋭い炎の槍が飛び出し、氷点に襲い掛かる。しかし、その槍をあっさりと氷点は次々かわしていく。
『わわ、そんなの撃ったら街が壊れちゃう!』
『大丈夫だよ。この攻撃はキーマスターのイメージでしかないから、キーマスターと僕たちキーホルダーしか見えないし、当たり判定もないのさ』
氷点がいた場所の先を見ると、先ほど氷点が避けた炎の槍はどこにもなく、消えていた。
『周りの人には見えないし、当たらないのさ。だから……』
タクが言うと、ヒナとタクは後ろを見た。後ろには、親子が歩いている。
「おかあさん、あのおにいちゃんとおねえちゃん、なにしてるの?」
「ダメよ、見ちゃ。きっと、私たちに分からないような儀式をやっているのよ」
母親は子供の手を引き、あわてて歩き去ってしまった。
『……周りから見ると、二人して奇妙なことをしているように見えるのさ』
『これは人がいないところでバトルしたいね……』
二つのキーホルダーが話している間に、悠の手にあった赤い塊は小さくなり、やがてなくなって赤い槍を発射しなくなった。あれだけあった槍を、氷点は全てかわしたようだ。
「まったく、何も変わってないわね」
はぁ、と両手を広げながら氷点はため息をつく。
「さてと、次はこちらの番かしら。サク、行くわよ」
『はいはい、じゃあ、いっちょいきますか』
そういうと、氷点は右手の人差し指を天に向けた。それを見て、悠は身構える。
「行くわよ!」
氷点の指先に、小さな氷の結晶のようなものが集まってくる。その指先には、徐々に青白い塊が生成されていく。
『え、え、何が始まるの?』
ヒナはその青白い塊を見て、悠に尋ねる。しかし、悠は答えようとしない。
『来るよ、マスター』
タクが警告すると、悠は「わかってる」と怒鳴った。




