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私の王子様  作者: 美鈴
20/21

変わりゆく日々

あれから四年が経っていた。

私はおじさんの予言通り世界で活躍している。

最初は言葉の壁や文化の違いで苦悩して、辛くて信や龍に連絡を取りたくなった時もあった。

でも、そんな姿を見せたくも無かったし、挫けていられなかった私は必死で勉強して学んでいた。

その甲斐あって今では、有名アーティストからオファーをもらうほどバックダンサーとして有名になっている。

日本でも活躍を取り上げられ知らない人はいない程になっていた。

そして……信と龍からはあれから連絡が一度も来ていない。

きっと私の考えを分かってくれたんだと勝手に解釈している。

圭や美雨からは勝手に行った事を散々怒られてしまった。

でも二人はずっと応援してくれている。

二人から信と龍の話しは無いけれど、二人なりに気を使ってくれているのかもしれない。

優奈とは相変わらず頻繁に連絡を取っている。

出会いがないらしく、英語ができないのに外人を紹介して欲しいと言われる始末だ。

優奈はモテないわけではない。

ただ理想が高いだけだ。

本当に誰かを紹介しないと優奈の恋路が心配になってくる。

NYでの生活はだいぶ慣れていた。

親しみやすい事もあっていろんな人と仲良くなっていた。

中にはこんな私に好意を持ってくれた人も居た。

優奈には「いけいけ!」と言われていたけれど、そんな気にはなれなかった。

離れれば忘れられると思っていた気持ちはなかなか消えずにいたからだ。

まだ時間が必要なのかもしれない。

信はと言うと、変わらずの人気を誇っていると優奈から聞いていた。

ドラマがヒットし、海外ファンも更に増えNYでも一度取り上げられたことがある。

そのとき久々に信の顔をテレビ越しに見ていた。

信は元気そうにしていた。

もちろん、圭と美雨も信のバックダンサーとしてずっと頑張っている。

「空さんは、なぜ一人の歌手に固定されないのですか?」

取材を受けると必ずと言っていいほど、この質問がくる。

「特に理由はありません、ただ……この人だ!というビビっとくるものが無いだけですかね」

いつも無難に答えていた。

でも本当の事を言うと、信よりも良い歌手が居なかったからだった。

ダンスにおいても私のやり方と合わない人も居た。

歌やダンスが上手でもその人自身を表現する人がいなかった。

おじさんの言っていた意味が今になって分かっていた。

おじさんは変わらず優しい笑顔をしている。

だけど仕事になるとその笑顔が怖いと感じるほどだ。

NYでは何かと力になってくれていた。

おじさんがいなかったら私はここまでこれなかったと思う。

「空さん、実は日本の会社からオファーがありまして、受けるのであれば来週には日本へ行かなくてはいけません。 どうしますか?」

おじさんに言われて迷っていた。

正直、日本へ帰るのは怖い。

なぜなら信達に会うかもしれないからだ。

もし遭遇すれば、きっと気持ちが揺らいでしまう。

私は考える時間をもらう事にした。

メールで優奈に話すと「早く会いたい!」と優奈は喜んでいた。

――もし信に会ったらどうしよう

――もう告白しちゃいなよ

優奈のメールは衝撃的だった。そんな怖い事できる気がしない。

――もし振られたとしてもその方が諦めつくんじゃない?

優奈はいつも芯を突いてくる。

四年経っても変わらない気持ちを断ち切るには、ちゃんと終わらせることが必要なのかもしれない。考えた挙句、私はやっと日本に帰る事を決めていた。


そして当日、私はおじさんと一緒に日本へ帰っていた。

空港に着くと多くの報道陣とファンが詰めかけていた。

ファンサービスをした後、車に乗り込みホテルへと向かう。

時間は夜十一時を過ぎていた。

夜ご飯を食べるためホテル内のレストランへ入るとお客さんは一人も居なかった。

この時間だから当たり前だ。むしろそのほうがゆっくりできてありがたい。

料理を食べるとなんだか懐かしい味がしていた。

ご飯を楽しみながらおじさんとスケジュールの確認をしていく。

そこへ一人の男がホテルの従業員を連れてレストランに入って来る。

どうやらホテルのオーナーのようだった。

オーナーは私に背を向けるように座り仕事の話をしている。

側にいる従業員は緊張の面持ちでオーナーの顔色を伺っていた。

料理が運ばれると、オーナーは次々と文句を言っている。

「味が濃すぎる」や「綺麗に飾れていない」など褒めることなく言いたい放題だった。

その声は私達にまで聞こえ、気になっておじさんの会話が入ってこなくなっていた。

一生懸命作ったシェフは怒られて委縮している。

「あの、こっちまで聞こえているんですけど」

腹が立っていた私はつい声を出していた。

オーナーは私達に気付いていなかったらしく、すぐに頭を下げ謝って来た。

急に謝られると罪悪感が襲ってくる私。

「あの、そういうつもりじゃないんですけど……」

顔を上げたオーナーを見ると、見覚えのある顔だった。

「あれ!? どうして店長が?」

それはアルムの店長だった。

「空さんじゃないですか!」

久々の再会がこんな形になっていた。

「どうしてここに居るんですか?」

「あぁ実はここ、私のホテルなんです」

話を聞くと、店長は多数のホテルを経営する鈴木財閥の御曹司だった。

そして既にいくつものホテルを任されている社長だ。

私は驚きで言葉が出てこなかった。

ホテルの料理を確認する為に試食をしていたらしい。

私は全ての謎が解けていた。

アルムの経営が大丈夫なのもそういうことのようだ。

「アルムは私の趣味で始めたんです」

料理好きの店長は、自分の店を持つことが夢でそれを叶えるために建てたと言っている。

ホテルの仕事が忙しい為、有名になるのを避けるためあの場所にしたとも言っていた。

「それにしても、あんな風にダメだしをしていたら従業員は逃げちゃいますよ」

そう言うと店長は驚いていた。

従業員の為と思って言っていたらしく何がダメなのかがわかっていなかった。

「従業員も人間です。 褒める所は褒めないと全てにダメ出しをされちゃあ、やる気もなくなって失敗しての悪循環になりますよ」

「なるほど、そうだったのか」と店長は納得しすぐに従業員に謝っていた。

「私はこの料理おいしかったですよ!」と従業員に言って微笑むと「ひどいなぁ」と店長は慌てていた。

またアルムで会う事を約束して店長と別れると、おじさんとの話し合いを仕切り直していた。

明日はオファーした相手先に行く事になっている。

部屋に戻ると私は店長との再会で昔の事を思い出しては微笑んでいた。


翌日、おじさんと仕事へ向かい着いた場所はまさかのCORE事務所だった。

「ここがオファーしてくれたんですよ」と言っておじさんは微笑んでいる。

社長室へ行くと金沢社長が待っていた。

「久しぶりだね!」

金沢社長は変わらず人柄の良さが溢れている。

「実は今回、悠仁のバックダンサーをお願いしたいんだ」

「悠仁だったんですね! 楽しみです」

社長と話していると悠仁がやって来た。

「空! 久しぶり!」

悠仁は相変わらずファッションセンス抜群で更に格好良くなっていた。

「格好良くなったでしょ?」

ナルシストも健在だ。

そこへまた誰かが入ってくる。それは舞だった。

「舞ちゃん!」

私は嬉しくて笑顔になっていた。

「あの後、空さんの手紙を読んで、舞に会いに行ったんだ」

金沢社長が舞に会いに行くと、舞は泣きながら反省していたらしい。

その姿を見て金沢社長は「もう一度チャンスを与えることにした」と言っている。

私は嬉しくて舞に抱きついていた。

「あんたに感謝なんかしてないから!」

そう言いながら微笑む舞をみてすごく嬉しかった。

舞は復帰後、悪女の役や今で言う【ツンデレ】風のヒロイン役などをこなし、同姓からの支持が増えていた。

私は三カ月の日本滞在が決まり、その間前住んでいた場所で過ごしたいとおじさんに許可をもらっていた。


運よく開いていた部屋は昔と変わっていなかった。

少ない荷物の引越し作業を終え一息ついていると、誰かがやってくる。

ドアを開けると優奈が立っていた。

「空―!」と優奈はいきなり抱きついて泣いていた。

私も嬉しくて泣いてしまう。

「今日は泊まるからね!」と勝手に決めている。

夜ごはんを食べるため、久々にアルムへ行く事にした。

初めて優奈を連れて行くことになる。

海に着くと優奈は絶景に興奮していた。

「もっと早く教えてよー」と文句を言っている。

アルムへ行くと店長が笑顔で迎えてくれた。

店長に優奈を紹介すると、二人ともいつもと違う雰囲気が出ていた。

私の勘だけれど、この二人は上手くいくかもしれない。

優奈とごはんを食べていると、店長が信の話をしてきた。

「空さんが海外へ行った後も、信さんは頻繁に来ていますよ」

正直、嬉しかった。

私を忘れていないのかな?と勝手に思ったりもしていた。

優奈との楽しい時間はあっという間に過ぎていく。


翌朝、テレビをつけると信の話題が報じられていた。

【中村信熱愛発覚!】共演中の女優と交際しているという内容だった。

「きっと嘘だよ」と優奈は言ってくれたけれど、密会写真が確かな証拠になっていた。

そして、その写真に写る信の腕にはあのミサンガが無くなっていた。

「付き合っていてもおかしくないよね!」

私が平然を装っていると優奈は何も言わずに抱きしめてくれた。

すると不思議な事に私の涙は止まらなくなっていた。

「また来るね」

優奈の帰って行く姿を見ていると、結局私は何も変わらずに戻って来たみたいだった。

ただ有名になっただけの星野空だ。

一人になると更に悲しさが増していた。

でもそんなことは言ってられない。

私は信の事を忘れるように必死で働いていた。

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