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私の王子様  作者: 美鈴
19/21

分かり合う気持ち

二人がどうなったのかはわからない。

龍からは「また明日行くね」というメールが来ていた。

信の事をきいても「空が心配するようなことは何もないよ」とだけ書かれてある。

信にメールをしたくても、何て書くべきかわからなくなっていた。

そしてそのまま夜を迎えていた。

テレビを見ても笑えなかった。

ふと舞の事を思い出し、歩いて精神科に行ってみる。

病室の名前を確認しながら舞の名前を探すと三〇七号室で発見した。

ドアを二回ノックすると返答がなかった。ゆっくりドアを開け中へ入ると、ベットに座ったまま外を見る舞が居た。

舞がこっちに気付くと顔色が一瞬で変わってしまう。

「何? 私を笑いに来たんでしょ」

舞は怒った顔で言ってくる。舞がそう思うのも無理は無い。

「ううん、遊びにきた」

「は? 馬鹿にしてるの? 帰って」

舞はそう言うと再び外を見る。私は帰るしかなかった。

部屋を出ると中から泣き声が聞こえてくる。

舞も苦しんでいると思うと、私も苦しかった。

私は少しでもわかってもらうために、金沢社長に舞の現状や、許しをもらう手紙を書いて送ることにした。

翌日、龍と圭と美雨が来てくれた。

龍の口元に絆創膏が貼ってあった。

理由を聞くと「転んだ」と言っていた。

龍でも転ぶ事があるのかと不思議に思う。

龍に信の事を聞きたくても圭達がいる手前聞けなかった。

ただ圭は「信が機嫌が悪い」とだけ言っていた。

私はどうすればいいのかわからなくなっていた。


皆が帰ったあと、また舞の所へ行った。

「もう来ないで!」

舞は私の顔を見るとすぐにそう言ってくる。

「舞ちゃん、私は普通に仲良くなりたい」

「何言ってんの? 私があんたにしてきた事わかってるでしょ? 私はあんたが嫌いなの!」

面と向かって「嫌い」と言われると少し堪えてしまった。でもそんな自分に負けたくなかった。

「私は舞ちゃんが好きだよ」

そう言って微笑むと「バカじゃないの」と言って舞は布団に潜り込んでしまった。

「また来るね」

舞からの返事は無かったけれど、泣いている気がした。

少しでも舞の心が晴れればと、私は思っている。

病室へ戻るとおじさんが来ていた。

「おじ……じゃなくて徳山さん!」

そう言うと「おじさんでいいですよ」とおじさんはいつもの笑顔で言ってくれた。

おじさんは名刺を渡しちゃんと自己紹介をしてくれた。

名前は徳山博文とくやまひろふみ

圭が言うには世界で知らない人はいないほどの有名なプロデュ―サ―らしい。

そんな凄い人がなぜ今日本にいるのかが気になっていた。

「おじさんはどうして日本にいるんですか?」

「仕事で来てたんです。それよりも、実は空さんにお話がありまして……」

「私に? なんでしょう?」

「一緒に海外へ行きませんか?」

どうゆう意味なのか必死に考えた結果、私の頭では答えは一つしかなかった。

「プ、プロポーズ!?」

「いえいえ、そうじゃなくてダンスを学びに留学をしないかと誘っています」

「あぁそう言う事か……海外!? 私が?」

突然の事で私は信じられなかった。

ダンスが上手な圭ではなく私を誘う理由がわからない。

「でも、私より圭の方がダンスは上手ですよ?」

「ダンスは上手いから良い訳ではないんです。 その人の人間性が表現されることが大事なのです。 空さんにはその素質があります。  技術をもう少し磨けば世界に通用するダンサ―になると私は思います」

おじさんの言っていることが全く理解できなかった。

私は混乱して何も答えられなくなっていた。

「とにかくゆっくり考えて見てください」そう言うとおじさんは帰って行く。

混乱したまま舞の所へ行っていた。

舞は相変わらず顔を見合わせてくれない。

外を見る舞になぜか話していた。

「海外でダンスをしないかって誘われたの……どう思う?」

舞は何も言ってくれない。

「私に言ってくる事自体が間違ってるよね……どうして私なんだろう? 圭が行くべきなのに」

舞は何も言わずに外を向いている。「じゃあまたね」そう言って部屋をでようとした時、「あんたなら大丈夫よ」と聞こえた。

「え?」

振り向くと舞は布団に潜ってしまった。でも私は嬉しかった。

龍や圭、美雨は毎日のように来てくれるのに信はあれから一度も来くなっていた。

何も始まってもないけれど、私の恋愛は終わるしかないんだ。

おじさんと一緒に海外へ行けばダンスも学べて、信の事もきっと諦めがつく、まさに一石二鳥だ。

私は退院する前におじさんを呼んでいた。

「おじさん、私海外に行きます!」

「やっと決めていただけたのですね! ありがとう!」

おじさんは凄く喜んでくれた。そこへ龍がやってくる。

「龍君、ついに空さんが決めてくれたんだ!」

龍はおじさんに聞いていたのか、「そうですか」と言って微笑んでいた。

出発はおじさんが帰る日の一カ月後に決まり、おじさんは嬉しそうに帰って行った。

龍と二人になり、龍は「良かったな」と言っていたけれどあまり嬉しそうじゃなかった。

「どうしたの? なんか元気がなさそうだよ?」

「俺さ、空と一緒にいると楽しいんだ」

「私もですよ」

「そうじゃなくて……気付いてる? 俺が空を好きな事」

突然の龍の告白に驚いていた。

もしかしたらそういう意味じゃないのかもしれない。

私は自分にそう言っていた。

「やっぱり気付いてないか」

龍はそう言って切ない顔で微笑んでいた。

やっぱりそういう意味なようだ。

私はどう答えていいのかわからなかった。

「だから空が信を好きなのも知ってる」

「ごめん……」

私はそう言うしかなかった。

「いいんだ、空が海外へ行く前にちゃんと言いたかったんだ。 そうじゃないと諦められないと思ったから」

私は信ばかりを追いかけて龍の気持ちに気付けなかった。

龍に期待させるような事もしていたはずだ。

そんな自分が嫌になってくる。

「空は何も悪くないから。 ただ、退屈だった毎日を楽しませてくれてありがとうって言いたかった」

そう言って龍は天使のような笑顔をしていた。

「私こそ……ありがとう」

泣きたいのは龍のはずなのに、自分の涙がこぼれていく。

そんな姿を見て龍は頭をなでてくれた。もっと自分が嫌いになっていく。


龍が帰った後、一人でこれからのことを考えていた。

今まで支えてくれた龍には頼れない。

自分の事は自分で解決しないといけない。

それを考えれば海外は正解だった。

舞に会いに行くと「懲りない人」と前よりは話すようになっていた。

でも、明日で退院してしまう。

私は自分の気持ちを話す事にした。

「舞ちゃんのおかげで、海外に行く決心がついたんだ。 ありがとう」

舞は何も言わずに外を見ている。

「早く元気になってね。 また舞ちゃんの歌が聞きたいから」

「思っても無い事言わないで」

「ねぇ、そのマイナス思考直しなよ」

「なんなの? 喧嘩しに来たわけ?」

そういって舞はこっちを向いていた。

「あ、やっと顔が見れた!」

私が喜んでいると、舞はすぐに反対方向に顔を向ける。

「舞ちゃんさ、そのままでテレビに出た方がもっと人気が出ると思うよ」

舞は同姓からの指示があまりなかった。

顔もよくて性格も良いなんて女子が嫉妬するのがほとんどだ。

どこか欠点がないと人間味もない。

舞はしっかりと清純派というイメージを作っていた。

どこでも良い顔をして、自分の居場所がないように感じていた。

「あんたに言われたくない」

顔が見えないけれどそう言って笑っているように見えた。

「じゃあ私、行くね」

そう言って部屋を出る時、舞が驚く事を言ってくる。

「空、ありがと」

言葉は少ないけれど、いろんな意味が含まれている気がした。

外を見つめる舞を見ながら(頑張れ)と心から応援していた。

いつか、舞と笑って話せる時が来ることを願っている。


翌日、朝から龍が来ていた。

龍は普通に接してくれている。

「じゃあ、手続き済ませてくるから、下で待ってて」

龍はどこまでも優しい。

どうしてこんな人を好きにならなかったのかが自分でも不思議だ。

下で待っていると、龍が車を持ってきてくれた。車に乗り込むとおじさんから電話がくる。

『空さん大変だ、仕事の都合で早く戻らないといけなくなったんだ』

「いつですか?」

『それが……三日後なんだ』

おじさんの急な話しに戸惑っていた。

おじさんはもし無理なら私だけ一カ月後に来ても良いと言ってくれている。

とりあえず確認を取ってまた連絡することにした。

「どうした?」

「なんでもないです……」

もうこれ以上龍に頼れない私は言えなかった。

「信には海外の話、言った?」

龍は心配しているみたいだった。

「信には、言いません」

そう言うと龍は何も言わなかった。きっと何かを読み取ってくれたんだと思う。

二人は何も話さずに家についていた。

「ありがとうございました」

もう会えないかもしれない龍に頭を下げてしっかりとあいさつをすると「そんなかしこまらずに普通にしようよ」と言って笑っていた。龍は最後まで良い人だった。

「三日後から練習開始だからよろしくね!」

そう言って龍は帰っていった。

偶然にも三日後から練習が始まる。

事務所の事は手続きを既におじさんがしてくれているから安心だ。

私はおじさんに電話をして行く事を伝え、この事を龍や信に言わないように頼んでいた。

圭と美雨には手紙を送る事にする。

ずっと一緒に頑張って来た皆にこんなふうな別れを選ぶのが苦しかった私は家で泣いていた。


引越し業者が来るため特にすることは無かったけれど、行く準備を始めていると夜になっていた。

インターホンが鳴りドアを開けると優奈が立っていた。

「きちゃった!」

優奈には全てを話している。三日後の話しを聞いて飛び出してきたらしい。

当日は家族旅行があり見送りができないことを謝っていた。

「空が海外に行くなんてー」

既に優奈は泣いていた。私ももらい泣きをしている。

「体に気をつけてね、変な男には引っかからないようにね、あといつでも電話してね」

優奈は心配そうに言っていた。

本当に優奈には感謝している。

優奈に恩返しができるように頑張ろうと思っている。

今日は優奈が泊まってくれる事になり二人でお酒を飲みながら更に盛り上がっていった。


朝になり、二人はぐっすり眠れていた。

「もうこんな時間かー」

優奈はバイトの準備をすると、最後にハグをして「頑張ってね!」と言ってバイトへ行ってしまった。

その時も二人は泣いていた。

優奈を見送った後、出発までにする事がいっぱいあった。

家の手続きや市役所など、いろいろ忙しく動いていた。


そして、出発当日。

飛行機は朝十時だから八時におじさんが迎えに来てくれた。

車の中ではおじさんが海外の話や注意点などを教えてくれた。

途中で圭達の手紙をポストに投函し最後のお別れをする。

荷物を預け、時間までおじさんと話していた。


時間になり保安検査で並ぶ間、来るはずのない人影を探していた。

こうして私はおじさんと一緒にNYへと旅立っていった。

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