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私の王子様  作者: 美鈴
18/21

それぞれの想い

目を覚ますと私はベッドの上で寝ていた。

どうやら病院にいるようだ。

頭には包帯が巻かれ、腕に点滴の針が刺さっていた。

手に目を向けると、信が私の手を握っていた。

椅子に座ったまま眠っている。

私は起こさないように信の寝顔を見ていた。

そこへ圭と美雨が入ってくる。

「空! 気がついた!?」

圭が大きな声で寄ってくると、美雨も「空ー!」と泣きながら抱きついてくる。

二人は嬉しそうな顔をしていた。

その声で目が覚めた信は私を見て微笑んでいた。

「え、二人はもうそんな関係になっちゃったの?」

圭はそう言いながら私と信の手を見ていた。

信は急いで手を離し咳払いをしていた。

「私、どのぐらい眠ってたの?」

「今日で三日目だよ」

美雨に言われ、そんなに眠っていた事に驚いていた。

車に引かれた所までは覚えていたけれど、その後の事は全くわからなかった。

ただ信が泣きながら声を掛けてくれたことは薄らと記憶にあった。

「事故はどうなっちゃったの?」

事故があった直後、すぐに皆の声がしていた。

圭は「空が帰った後、龍が舞の証拠を持ってきてたんだ――」と詳しい事を話してくれた。


その証拠というのがボイスレコ―ダ―だった。

中には舞との会話がしっかり録音されていた。

金沢社長に呼ばれCOREに居た記者が偶然私達を見かけ音声を録音していたらしい。

そのネタを記者は高額で売ろうとしていた所を龍が買い取っていたのだ。


そして事故が起こった時、練習室にいた圭達は、外から車の警笛音と何かにぶつかるような音が聞こえ急いで外へ出たという。

そして車の前で血を流して倒れている私がいたらしい。

皆が驚いていると車の中から「舞ちゃんを殴るからだ!」と笑いながら男が出てきてらしい。

圭は美雨に救急車を頼み龍と一緒に男を取り押さえようとした所を、信がすぐにその男を蹴り飛ばし男はそのまま失神していたらしい。

警察がくるまで龍と圭で取り押さえその間、信はずっと私に声をかけ続けていたようだ。

圭が話し終わると、重い空気が流れていた。

私は「そうだったんだ……」という言葉しか出てこなかった。

テレビをつけるとそのニュースで持ち切りになっている。

犯人はあのスキャンダルをきっかけに浮気女を探り出していた。

精神状態が正常でなかった犯人はすぐに今回の犯行を計画し、私が出てくるまで外で待っていたと言っている。犯人は今も精神鑑定を受けしっかりと事情聴取されている。

「舞は?」

私はなぜか舞が心配だった。

今回の事件でマスコミは舞に飛び火すると思ったから。

「舞は事件を知ってショックを受けてたよ」

信は重い口を開いていた。

「自業自得だろ。もっとひどい事を舞ちゃんはしたんだぞ!」

「そうだよ、私は舞を許せない!」

圭と美雨は舞に腹が立っているようだった。

そんな二人を見て信は何も言わなかったけれど、表情でなんとなく気持ちがわかってしまった。

それは、皆が舞を許すことだと思う。

ファンの人達に嘘をついた事、私がこんな風になる原因を作ったこと、決して許される事ではないのかもしれない。

でも、なぜか私も舞を許せていた。

それは舞が本当に悪い人に見えないからだ。

こんな目に合ってもそう思えるなんて、私は本当の馬鹿なのかもしれない。

だけど圭達も舞を許す時がくる事を私は信じていた。

なぜなら、私の友達だからだ。


そこへ金沢社長と龍がやってくる。

「空さん、本当に申し訳ない!」

金沢社長は私に会うとすぐに土下座をして謝っていた。

私はそんなことを望んでいなかった。

「あの、そんな、やめてください。 事故は私の不注意なので……」

本当にそう思っていた。

舞の計画通りにスキャンダルは進んでいたけれど、事故に合ったのは辺りを確認せずに飛び出した私の不注意でもある。

それに舞はファンを動かす形にはなってしまったけれど、犯行に及んだ犯人に非があっただけでこの事故に関して舞は何も悪くないと思っていた。

金沢社長にそう話すと「ありがとう、ありがとう」と言って泣いていた。

あまりにも謝り続ける金沢社長を見ているとどうすればいいのかわからずに困っていた。

「金沢さん、もう十分ですよ。 空も困っちゃうので……」

龍がそう言うと皆で微笑んでいた。

「もう大丈夫そう?」

龍は心配してくれていた。

「うん! もうばっちり!」

そう言うと龍は微笑み、安心しているようだった。すると金沢社長が重い口を開いていた。

「ボイスレコーダーは聞きました。 すぐに舞をクビにします!」

金沢社長の発言に私は驚いていた。

「そこまでしなくても……」

「いえ、私は何があろうと人を傷つける事は許せません。 私は舞の育て方を間違ったようだ、かたじけない」

金沢社長の意思は固いようだった。

私達は何も言い返す言葉がでてこなかった。

そのまま金沢社長は帰ってしまい、私は龍になんとかならないかとお願いしていた。

そこへ、おじさんがやってくる。

「空さん! 大丈夫ですか?」

「おじさん! どうして!?」

「龍君に聞いてびっくりして……」

「お、おじさん、龍君て……この人は社長さんだよ?」

龍に君付けをするおじさんに冷や汗が出てしまう。

「え? 空何言ってんの? この人は世界で有名なプロデュ―サ―だよ?」

私は初耳で声も出ない程驚いていた。

「お前知らなかったの?」

「う、うん、てっきり警備のおじさんだと思ってた」

そう言うと皆が笑い始める。

「私服の警備なんて居るわけないだろ!」

信はお腹痛そうに笑っている。

久々にみんなの笑顔を見て嬉しくなった私もいつもの様に楽しくなっていた。

そして皆が帰っていき、いつの間にか信と二人きりになっていた。

久々に二人になると変な緊張感が出ていた。

「舞ちゃん大丈夫かな?」

「お前さ、自分より人の心配かよ」

信は呆れ笑いをしていた。

「確かに、舞ちゃんがしたことは良くないけど、でも気持ちは分かるから……」

信を好きな気持ちは同じだから痛いほどわかっていた。

ただそれを伝える方法を間違っただけなんだと。

「実はさ、舞も入院しているんだ」

「え、どうして?」

「お前の事故を知ると急に取り乱して、その後から何も喋らなくなったんだ」

舞の身に何が起こったのかはわからないけれど、私は舞が心配になっていた。

信にどこの病院なのかを聞くと、「ここ」と言って信は人差し指を下に向けて指差していた。

舞は同じ病院の精神科に入院していることがわかってしまう。

「信は会いにいった?」

「うん……でも泣いてばかりで話そうとしないんだ」

「そっか……」

会話が途切れ静かになった部屋にテレビの音だけが響いていた。

「それより、お前本当に大丈夫なのか? 全身強く打ったみたいだから更に頭が悪くなったんじゃない?」

信は笑いながら冗談を言ってきた。

「何それ! あ、そうだ、あの事故の時、信が最後に何かを言っていた気がするんだけど何だったかなあ?」

気を失う直前に聞こえた『あいしてる』の言葉は、幻聴だったのかを確かめたかった。

「……さぁ。 俺は何も言ってないけど」

やっぱり幻聴だったようだ。少し残念な気持ちになってしまう。

よくよく考えると信が言うはずがない事に気付く。

私は何を期待していたのだろうか。少し恥ずかしくなっていた。

一通り会話をすると「じゃあまた明日な」と言って信は帰って行った。

私も久々に皆と話せたからか、すぐに眠りについていた。


翌朝、検診に来た医師から経過を聞いていた。

「あんな事故があったのに軽傷で済んでよかったねー」と医師は陽気な人だった。

事故が起こった時、私はガラスの破片で額を切り出血をしていたらしい。

そして体を強く打った事で軽い脳震盪を起こし、普通ならすぐに目が覚める所、寝不足だった私はぐっすりと眠ってしまっていたという。

ただ眠っているだけだから、脳にも何の影響もない事を皆に説明していたにも関わらず、なかなか目覚めない私を見てもう一度精密検査をするようにと皆に責め立てられて大変だったらしい。

本当に皆に申し訳ない気持ちと感謝でいっぱいになっていた。

昼にテレビを見て笑っていると「もう大丈夫そうだな」と言って笑顔で龍がやって来る。

昨日は金沢社長の事もあってあまり話せていなかった。

「圭に聞いたよ、龍が犯人を捕まえたんでしょ?」

「逃げないように抑えてただけだよ」

謙遜しているけれど私は圭に聞いていた。

あの時、信に蹴飛ばされた後も笑っていた犯人を殴りつけ取り押さえていた事を。

その時の龍の顔はすごく怖かったと圭は言っていた。

「ありがとね」

「とにかく無事でよかった」

龍は天使の笑顔をみせる。

「空、またもし何かに困ったらすぐに言ってほしいんだ。 俺はすぐに駆けつけるから」

龍は真剣に言ってくれていた。

「うん、わかった」

龍は社長として守りたくて言っているのだと思い私は微笑んでいた。

すると龍が優しく抱きしめてくる。

「本当に、無事で良かった……」

龍は少し泣いているような気がした。

私はどうするべきか困ってしまう。

そこへ信がやってくる。

「悪い……」

私と龍を見た途端、すぐに部屋を出て行ってしまう。

「信!」と呼んでも聞こえなかったのかそのまま行ってしまった。

追いかけようとすると、龍は私を引き止め「俺が行ってくる」と言って出て行ってしまう。

私はどうする事も出来ずに病室でただ待つしかなかった。

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