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私の王子様  作者: 美鈴
16/21

動き出す計画

なかなか眠れず寝不足のまま練習へ向かった。

練習室へ入ると、みんなが声をかけてくる。

あれから舞のバックダンサーとも仲良くなっていた。

仲良くなると、自然と練習もスムーズに進んでいた。

「もうすぐで信と舞ちゃんも合流だね!」

圭が楽しそうに話していると、舞のバックダンサーは浮かない顔をしていた。

「どうしたの?」

「言いにくいんでけど……私、舞さんが苦手で」

一人が言い出すと他の皆も舞の不満を言い始めていた。

「言い方がキツイ」「すぐに怒る」「悪口を言っている」など次々と出てきていた。

圭は「そんなふうに見えないけど」と言うと「隠しているだけだ」とみんなが口をそろえて言っていた。

私は信じられなかった。

気の強い所があって言い方が真っ直ぐな所があるけれど、私はどうしても嫌いになれなかった。

そして、皆の話しを聞いているとすごく嫌な気持ちになっていた。

「もしそうだとしても、私は舞ちゃん好きだよ。 言い方がキツイのはそれだけ仕事に真剣な証拠だし、怒られるのも私たちを想ってのことじゃないかな? なんでもオッケイな人だったらやりがいも感じない気がする」

「まぁ、確かに……」

皆の考えが少しでも前向きに変わればと思っていた。

「私だって悪口も言っちゃうし!」

「それ、自慢気にいっちゃダメでしょ」

圭のツッコミで皆に笑顔が戻る。

「私達も、腹が立てば言っちゃえば良いんだよ。 喧嘩すればそれだけ良い物が出来上がる気がするしさ」

そう言うと皆が「おぉ」と言っていた。

「空って、馬鹿ってわけじゃないんだな」

一人のダンサーがそう言うと皆が頷いていた。

「ねぇそれ褒めてる?」

皆は笑っている。私はそれが嬉しかった。

皆で良い物を作るには、皆の意見が必要で全ての意見を取り入れて作り上げれば世界に一つだけの物になるから。

それが皆に伝わるだけでも嬉しかった。

「そういえば、俺達が落ち込んでるとき、ご飯を奢ってくれたりしてたよな」

ダンサー達は舞の優しい部分を思い出していた。

信と舞は表現が下手なだけで、心は温かい事は分かっていた。

皆にもっとそれが分かればと願っていた。


信達がやってくると、本格的な全体練習が始まる。

二人のダンスはすごく自然なカップルの振り付けになっていた。

見つめ合いながら歌ったり、手をつないだりとファンが喜ぶような事ばかりが盛り込まれていた。

仕方ない事だけれど私は二人を見ないように踊るしかなかった。

練習を終えると携帯にメールが来ていた。

開くと信からだった。

すぐそこに居るのに、メールをくれたようだ。

――飯行かない?

信を見ると信もこっちを見ていた。わかるように頷くと信は微笑んでいた。

皆が帰って行き私も準備をして外に出ると、悠仁が立って居た。

昨日以来、会っていなかったから、少し気まずい空気が流れてしまう。

「空、ありがとう!」

悠仁はそう言って深々と頭を下げていた。

「私、何もしてないよ……」

「あかり、空に会ってから毎日楽しそうだったんだ。 本当にありがとう!」

「ううん、私も楽しかったから、ありがとう!」

私も悠仁に感謝していた。

そこへ信が外に出てくる。どうなるのか少し緊張してしまう。

「信……悪かった」

悠仁は言いにくそうに信に謝っていた。

「俺のファンなんだろ?」

信が冗談を言うと悠仁に笑顔が戻っていた。

言葉は少なくても誤解が解けて睨み合う事が無くなるだけで、私は幸せだった。

「信、待ってよー!」

そこへ舞が慌てて飛び出してくる。

舞は信をご飯に誘っているようだった。

「お疲れ様でした」

私は空気を読み信達を横切っていくと信が私の腕を掴み引きとめる。

「悪い。 先約あるから」

信はそのまま私の手を引いて歩いていく。

誰もいないから付き合うふりをする必要がないのは確かだけれど、これで良いのか私にはわからなかった。

後ろを振り向くと悠仁はほのかに微笑み、舞は悔しい顔をして私を睨んでいるようだった。

あんなにじゃれ合っていたけれど、舞は信を本気で好きなのかもしれないと気付いてしまう。


そのまま信に引っ張られ車に乗せられる。

「ねぇ、舞さん大丈夫かな?」

「なにが?」

信は全くわかっていないみたいだった。

「鈍感が相手だと大変だろうなぁ」

「ん?」

「ううん、なんでもない」

舞もだけれど、私もそんな信を好きになって大変だと思っていた。

海に行くといつものように過ごしていた。

海を眺め、アルムでご飯を食べて帰って行く。平穏な日々が訪れ、ずっとこんな毎日が送れたら私は幸せだと思っていた。


最後の合同練習日。

練習室へ行くと皆集まっていた。

事務所が違くても仲間という絆ができていた。

明日の撮影に向けて皆気合いが入っている。

休憩時間、皆と談笑している時に飲み物をこぼしてしまう。

するとすぐに信がタオルを持ってきてくれた。

「なにやってんだよ」

「あ、ありがと」

タオルで拭いていると舞がやってくる。

「空ちゃんまたこぼしたの? おもしろいねー」

そう言いながらも舞は楽しそうな顔をしていない。

「そうだ! 信、今日はご飯いけるよね?」

舞は周りに人が居るのをわかっていて聞いているようだった。

「あぁ……」

信はしぶしぶ承諾していた。舞は自慢げな顔でこっちをみている。

「ちょっと飲み物買ってくる」

私は逃げるように部屋から抜け出していた。

落ち込んでいると、龍が偶然現れる。

「おはよ!……ん? 何かあった?」

私の笑顔は引きつっているのだろう。

龍には嘘をつけない。

自動販売機のある休憩室で龍と話していた。

「信を見ていると辛くて……」

龍には不思議と話せてしまう。

「やっぱり……空は信が好きなんだね」

龍はあまり笑っていなかった。

「いつも信の話をしてるから、もしかしてって思ってたんだ」

「馬鹿ですよね! 夢みたいな話だし……信は私なんか見てないし……」

そう言うと龍は何も言わなくなってしまった。

「あ、気にしないでください! 私は大丈夫ですから!」

そう言って微笑むと、龍は私を抱き寄せていた。

私は混乱してしまう。

龍はすぐに離すと何かを決めたような顔をしていた。

そして私の頭をなでながら「いつでも話きくから」と言ってくれた。

きっと、仕事場の兄として癒してくれたんだと思っていた。


練習を終えて帰る頃、舞に呼び止められる。

怖い顔をしているから何を言われるのか少し緊張していた。

「明日の撮影後、ここで打ち上げするから来てね!」

驚いた事に舞は笑顔で打ち上げの場所が書かれた紙を渡してきた。

私の考えすぎだったのか舞は普通に話してくれた。

「絶対来てね!」

舞は可愛い笑顔でそう言ってくれた。

少し舞の事を気にしすぎたのかもしれない。

私は気持ちを切り替えて皆との打ち上げを楽しみにしていた。


翌日、事務所前で圭達と車を待っている間、私は既に緊張していた。

震える手を美雨がそっと握ってくれた。

でも美雨の手も震えているように感じた。

現場へ行くと、大きなステージが出来ていた。

客席もしっかり配置されている。

この前は収録だったけれど今日はお客さんが居る中で踊らなくてはいけない。

ステージをみると余計に緊張が増していた。

リハーサルは失敗なく出来ていた。

念入りに練習した結果がでている。

私達意外はみんなベテランのダンサーさんだから皆が、大丈夫と言ってくれてすごく心強かった。


本番になり、埋め尽くされた客席からものすごい声援が聞こえてくる。

ステージへ上がる前に信と三人で手をつなぎ気合いを入れていた。

「転ぶなよ!」

信は冗談を言って笑顔で私達を送り出してくれた。

笑顔でステージに立つと音楽がスタートする。

客席からものすごい声援が聞こえてくる。

信と舞の人気がすごい事がわかってしまう。

信達は慣れたようにしっかりとパフォーマンスしていた。

二人が手を繋いだりする度に客席から叫び声が聞こえていた。

ファンも喜んでいるようだった。

気付けば何の失敗もなく全てが完璧に終わっていた。

バックダンサーが裏へ戻ると、信と舞は最後までお客さんに手を振っていた。

お客さんは二人の姿をみてすごく嬉しそうにしている。その笑顔は最高のものだった。

楽屋へ戻り、最後の挨拶をしていた。

事務所が違っても、ダンスへの情熱は同じだった。

私にとって、この経験はすごく大きなものになっていた。


打ち上げがあるため、皆で帰る準備をしていた。

「空、先に打ち上げ行ってて!」

圭と美雨は近くのスタッフさんに頼まれごとを言われ、私は一人で先に向かっていた。

舞にもらった地図を見ながら進んでいくと、一本入った道を歩いていた。

そこは通行人が一人もいない暗い場所だった。なかなか誰も来ない事で、次第に怖くなっていた。

すると後ろから誰かの足音が聞こえ始める。

その音は次第に近づいてくる。

気になるけれど怖くて振り向けない。

どうするか迷った挙げ句、私は鞄を武器にしようと考え鞄を握り締めていた。

その足音は私の後ろで止まり、誰かが私の肩に手を置いた瞬間、反射的に鞄で抵抗していた。

「おい、痛っ、ストップ、ストップ!」

その声を聞いて良く見ると、信だった。

「なんだ、信だったのかー」

「まず謝れ」

「え? 信が声掛けないからいけないんだよ」

信は呆れて笑っていた。

信も一人でここに来たようだ。

二人の携帯に舞からメールが入る。

――ごめん、打ち上げ場所ここに変更です

一緒に添付された画像を見ると一つ隣駅の場所だった。

「嫌がらせか?」

信は冗談を言って笑っていた。

「タクシー捕まえて行くしかないな」

そう言って信は大通りに出てタクシーを捕まえていた。

すぐにタクシーは捕まり、打ち上げ場所へ向かっていく。

「はい、これ」

車内で信が急に何かを握った状態で差し出してくる。

私は両手をお碗のようにするとそこに何かが落ちてくる。

それはあの時、自動販売機の下に入っていったお守りだった。

「これ! どうして!?」

「拾った」

そう言って信は少し微笑んでいた。

言葉は少ないけれど、その一言で全て伝わった気がした。

「ありがとう!」

私は心から感謝していた。

「また落としたら、俺に言えよ」

信はまた優しくしてくれた。

優しくされると、変に期待してしまう自分がいる。

期待するたびに、そんなはずないと自分に言い聞かせていた。


打ち上げ場所に着くと皆が揃っていた。

「空、こっち!」圭が呼んでいる。

舞は笑いながら信を呼んでいた。

舞の所へ行くと信は怒っているようだった。

やっと皆で打ち上げが始まる。

この日は、本当に最高の一日となった。


二日酔いだろうか。家のベッドで痛い頭を堪えながら起き上がる。

エナジードリンクを飲んで二日酔いと戦っていた。

事務所へ行くと、また多くのマスコミが押し寄せている。

昨日の生放送の影響だろうと思い、裏口から事務所へ入っていく。

練習室へ入ると、圭と美雨が待っていた。

「おはよ!」

「空、どうなってるの?」

「え?」

美雨は週刊誌を見せてくる。

そこには【中村信!二股!?】と書かれていた。

「何これ! 相手は誰!?」

証拠写真を見ると、見覚えのある人物だった。

目の部分が隠されているけれど、どこをどう見ても私だった。

そして服装は昨日と同じ。

一体何が起こってしまったのか全くわからなかった。

私は初めてスキャンダルというものに巻き込まれていた。

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