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私の王子様  作者: 美鈴
15/21

明かされる真実

今日から合同練習が始まる。

私は朝からため息が出ていた。

舞が信に近づく姿を見て、耐えられるかが心配だった。

CORE事務所には大人数で踊れる最適の部屋がある事から、そこが練習場所になっていた。

現地集合の為、私は一人でCORE事務所へ向かっていた。

ところが途中で迷ってしまう。

「あれ? 空?」

後ろから呼ばれ振りかえると悠仁が立っていた。

口から白い棒が飛び出しアメを舐めているようだった。

「何してんの?」

「ちょっと道に迷っちゃって」

「どこ?」

「CORE事務所なんだけど……」

すると悠仁は「ついてきて!」と自慢げな顔をして歩いていく。

後をついて行くと悠仁は迷うことなく辿り着いていた。

お礼を言うと悠仁は笑いだす。

なぜならここは悠仁の所属事務所でもあったのだ。

「本当に何も知らないんだね」

悠仁は笑っている。何も知らなかった私は少し恥ずかしかった。

悠仁と一緒に中へ入ると、圭、美雨、信が待っていた。

美雨は安堵の顔で近づいてくる。

道に迷った事を伝えると、「お前らしいな」といって信は笑っていた。

圭は後ろに居た悠仁に気付き、悠仁に道案内してもらったことを話すと感謝していた。

「俺は空の救世主だからね!」

悠仁はそう言って私の肩に手を置き体を引き寄せてきた。

「ちょ、ちょっと!」

急な事で驚いた私は離れようとしていると「照れなくていいのに~」と悠仁は冗談を言っていた。

「嫌がってんだろ」

そう言って信は怖い顔をして悠仁を睨んでいた。

殺伐とした空気が漂っている。

信は悠仁の手を払い除けると私の腕を掴み信の後ろに引っ張られてしまう。

「何? ふざけただけなんだけど」

さっきまで笑顔だった悠仁も怖い顔で信を睨んでいた。

「ま、まぁまぁ、空も来たんだしさ!」

圭が間に入ると二人は睨み合うのを辞め顔を見ないようにしているようだった。

「空、またね」

そう言って悠仁は笑顔で去って行く。

気まずい空気が流れたまま、四人は合同練習の部屋へと向かった。


中へ入るといつもの練習部屋の倍以上はありそうな程の広さだった。

そこには既に舞と舞のバックダンサーが待っていた。

「信、来たんだね!」

私達が入るとすぐに舞は満面の笑みで信に近寄っていた。

ポケットに手を入れていた信の腕を利用して腕を組んでいる。

「仲良いねー!」

圭が羨ましそうに言っていると「着替えに行こう」と美雨に言われ、私は救われた気持ちになっていた。

更衣室へ行くと美雨が驚いた事を言ってくる。

「空ってさ、信の事好きでしょ?」

突然言われ驚いていると美雨はニヤニヤと笑っている。

私は正直に自分の気持ちを美雨に打ち明けることにした。

「やっぱりそうだったんだ」と美雨は嬉しそうな顔をしている。

「舞のことなんて気にしちゃダメだよ」

舞の事も美雨には全てお見通しだったようだ。

私も気になっている事を聞いていた。

「美雨は圭でしょ?」

美雨は「うん」と恥ずかしそうに答えている。

その姿がとても愛らしい。

圭も美雨に好意をもっているように見えるけれど美雨は気付いていないようだった。

「綺麗な人を見るとすぐ喜ぶんだから」と、圭の愚痴を言っている顔も可愛くて、美雨の恋が実るようにと私は心から願っていた。

部屋へ戻ると舞は圭と談笑していた。

一緒にいる信は無表情で携帯を触っている。

「お、来た来た。 舞ちゃんが面白くてさ!」

圭が楽しそうに舞の話をしてくると美雨は不機嫌な顔になっていた。

私は圭の話を適当に受け流し美雨を気にしていた。

「もう行かなきゃ、私達は別室だから、またね!」

信と舞は踊りながら歌う為、二人は別室で練習することになっている。

舞は相変わらず信の腕に腕を絡めそのまま部屋を出て行く。

信が嫌がっていても楽しそうに見えるのは私だけなのだろうか。

私の心は張り裂けそうだった。

合同練習が始まり慣れないメンバー同士で互いに気を使い合っていた。

タイミングも合わず、何度も練習を重ねていく。


「少し休憩しましょう」

振り付け師が困った顔で部屋を出て行く。

皆もうまくいかない状態に疲れ切っていた。

喉が渇いた私は、自動販売機がある所へ向かった。

小銭を投入口に入れていると、一枚落としてしまう。

落ちた硬貨は自動販売機の下へ入っていく。最悪だ。

すぐにしゃがんで床に手をつき自動販売機の下を覗くと、五円硬貨に赤いリボンのついたものが落ちていた。

地元を離れるときに母からもらったお守りだ。

私は懸命に手を伸ばしてお守りを取ろうとしていた。

「空ちゃん何してんの?」

後ろから声をかけられ振り向くと舞と信が立っていた。舞は私を見て笑っている。

「何やってんの?」

信は不思議な顔をしている。「あー、そういう趣味?」と信が言うと舞が更に笑っていた。

「そんなんじゃないから!」

私はすぐに立ち上がり怒りが込み上げていた。

「五円を落としたの。大事な物だから……」

「五円? そんなの諦めるでしょ普通!」

話の途中で舞が言った言葉が私の心に刺さっていた。

お金持ちにお金の大切さは分からないのだろう。

幼い頃から貧しい環境で育った私にとっては、一円でも大切なお金になる。

それにこのお守りはすごく大事なものだった。

地元ではすごく有名なお守りで、親が五円にリボンを通しそれを子供に渡しておくと、子供はずっと守られるという言い伝えがあった。

本当かどうかはわからないけれどその気持ちが子供にとっては嬉しかった。

その大切なものを馬鹿にされた気がして、私は唇を噛みしめ怒りを我慢していた。

信は無表情のままこっちを見ている。

私は自分の感情をコントロールすることで精一杯だった。

「どこ?」

信はしゃがんで探そうとしていた。

そこへ他のダンサーの声が近づいでくる。

(こんな姿を信は見られちゃいけない!)

「大丈夫だから!」

咄嗟に出た言葉は冷たい言葉だった。

舞に対する怒りを信に八つ当たりしていた。最低だ。

「あっそ」

信は飲み物を買うと不機嫌な顔で離れて行く。

「ひどっ」

舞は私にそう言って信の後を追って行った。

私は放心状態になっていた。苦しすぎて涙も出てこない。

練習後に拾う事にして練習室へと戻っていく。

今日の合同練習は最後までタイミングがつかめないまま終わってしまった。

みんなが複雑な表情で帰っていく。


美雨達を先に帰らせて、誰も居なくなった所で再び自動販売機の所へきていた。

誰も居ないことを確認して、しゃがみこんでいると「どうしたの?」と誰かに声を掛けられる。

それは悠仁だった。

「お金落としちゃって……」

「え!? どこ?」

悠仁はすぐにしゃがみこみ自動販売機の下を覗きこんでくれた。

「んー何もなさそうだよ?」

「え?」

すぐに私も覗くとあのお守りが消えていた。どっかにいってしまったようだ。

起き上がると悠仁の手や服の袖が汚れていた。

「服が汚れてる! ごめん!」

謝ると悠仁は「練習着だから」と言って笑っていた。

悠仁にジュースを奢ってもらい一緒に座って話していた。

「俺も家が貧しくて、苦労したんだ」

意外にも悠仁とは環境が似ていた。

昔あった貧乏な話で盛り上がっていく。

家族の話になり、悠仁は妹の話をしてくれた。

「妹は体が弱くてずっと入退院を繰り返してるんだ」

話を聞いてすごく心が苦しくなっていた。

思う存分遊べない生活を送る妹の為に歌手の道に進んだ事も話してくれた。

「歌手になって俺がテレビに出れば病院でも妹が退屈しなくてすむじゃん?」

妹の為に全てを捧げる悠仁がすごく輝いて見えた。

私にも何かできる事がないかと考えていた。

「空ちゃんさ、妹に会ってくれない?」

「え!?……私でよければ!」

「良かったー! 空ちゃんおもしろいから妹も笑顔が増えると思って!」

悠仁は嬉しそうな顔をしていた。

私は何をしようかと会う事が楽しみになっていた。


久々の休日。

私は出かける準備をしていた。

今日は悠仁の妹、あかりちゃんに会いに行く事になっているからだ。

悠仁に迎えに来てもらい一緒に病院まで向かった。

悠仁が二十三歳であかりちゃんは二十歳。

成人していてもまだ子供っぽいと悠仁は言っている。

悠仁から見れば妹が子供にみえるのは当たり前かもしれない。

病室へ行くとあかりちゃんは笑顔で迎えてくれた。

肩まで伸びた黒髪は艶のある綺麗な髪をしていた。

前髪は眉上に短く切られ、体が弱いなんて全くわからない程元気な笑顔をしている。

あまり騒ぎすぎると発作が出てしまうけれど、それ以外は同世代の女の子と何ら変わりなかった。

私とあかりちゃんは同じ兄を持つ者同士、すぐに仲良くなっていた。

悠仁が飲み物を買いに行き、あかりちゃんと二人になるとあかりちゃんはこっそりと聞いてきた。

「空ちゃん中村信って知ってる?」

「え? うん、知ってるよ!」

「実は私、信のファンなの」

私は驚いてしまった。妹の好きな人を兄は嫌っているなんて。

「でもお兄ちゃんは信が嫌いなの」

「知ってたんだ……」

「うん。 でも私が悪いんだ……。 昔ね、家を抜け出して信に会いにいったことがあるの――」

あかりちゃんは悲しい顔で、昔の話をしてくれた。


十年前、体が弱く外に出るのも禁止されていたあかりちゃんは、家の近くに信が来ることを聞いていた。

いけないとは分かっていても会いたかったあかりちゃんは、部屋を抜け出して信に会いにいき出待ちするファンの中に混ざっていた。

信が出てきて喜んでいたあかりちゃんは何かにつまづいて転んでしまう。

その時、信がすぐに手を出して助けていた。

嬉しかったあかりちゃんは、その時に用意していたファンレターを信に渡していた。

ところがその姿に周りのファンは嫉妬し、信が居なくなった後あかりちゃんを取り囲んで暴言を吐き責め立てていた。

するとあかりちゃんの容態が悪化してそのまま救急車で病院へ運ばれてしまったという話だった。


この話を聞いて、私はわかってしまった。

あの事件の被害者が悠仁の妹だった事を。

あかりちゃんは軽い発作を起こしすぐに回復していたものの、家族は警備不足を訴えようとしていた。

あかりちゃんは自分の不注意だと言って必至で止めていたけれど家族は全くわかってくれなかったらしい。

結局、信と龍は示談を持ちかけあかりちゃんに必要な医療費を工面することで示談が成立してしまう。

医療費に困っていた両親はあかりちゃんのためにもその条件を吞むしかなかった。

その時から悠仁は信を嫌っているという。

お金で解決しようとした信に腹がたっているようだった。

所がこの話には続きがあった。

それは毎年あかりちゃんの誕生日に、信は手紙とプレゼントを贈っていると言う事。

手紙には最近の近況と一緒に、体を気遣う事が書かれプレゼントは各海外へ行った時に買った小物がたくさん詰まったものが贈られていた。

あの事件以来、信の話をすると怒りだす悠仁にはその話しが出来ないままになっていると言っている。

悠仁の誤解を解くには良いタイミングを見つけるしかなかった。

信と言う言葉だけで聞く耳を持たない悠仁には、まだ時間が必要だった。

悠仁が戻ってくると、私とあかりちゃんは普通にしていた。

悠仁は妹にすごく優しくて自分の事よりも妹を第一に考えているのがわかる。

私の兄とは大違いだ。仲がよくてもそれぞれ違う兄妹愛があるのだと思った。

ほぼ毎日ある合同練習の後、いつも私はあかりちゃんの所へ遊びに行っていた。

信のバックダンサーをしている事を伝えると、すごく喜んでくれた。

悠仁がいない時に信の話をして盛り上がっていた。


いつものようにあかりちゃんの所へ行き、話していると誰かが入って来る。

それは信だった。

突然の事で何が起こったのか分からなくなってしまう。

「どうしてここに!?」

「圭が偶然この病院に入っていくお前を見かけたって……病気したんじゃなかったんだ……」

信は安心した顔をしている。

私が病気をしたと思って心配してくれたみたいだ。

「こんにちは!」あかりちゃんは嬉しそうな顔で信に挨拶をしていた。

信はあかりちゃんを見た途端に、あの時の子だとすぐ気付いていた。

不思議な事に三人はいろんな話をして楽しんでいた。

「それより、なんでお前があかりちゃんと会ってんの?」

「え? まぁ、ちょっと深い事情があって……、あのね――」

信に悠仁の話をしようとした時、ちょうど悠仁がやってきてしまう。

「なんでお前がいるんだよ!」

信を見つけた途端に友人の顔色が一気に変わっていた。

病室が一瞬にして凍りつく。

「俺の妹に近づくな」

悠仁は怖い顔で信を睨んでいる。

信は妹と知って驚いているようだった。

「お兄ちゃんやめて! 信は何も悪くないの!」

「あかり、騙されるな、コイツは金で解決するようなやつなんだ!」

「違うの! 信はあれ以来誕生日に手紙とプレゼントを贈ってくれてたの! 手紙にはファンを守れなくてごめんっていつも書いてあった。 お兄ちゃんに話したくても、話しを聞いてくれなかったでしょ!?」

あかりちゃんは涙を流していた。

「そんなの嘘だ!」悠仁は信じられないようだった。

「本当よ」そう言ってあかりちゃんは、クッキー缶を出しそれを差し出す。

悠仁は缶を開けると、驚いた顔をしていた。缶には今まで信から来た手紙が全て入っていた。

「なんだよこれ……」悠仁は悔しそうに泣いている。

「お兄ちゃんも、信のファンだったでしょ?」

私はあかりちゃんから聞いていた。

あの事件が起こるまで、悠仁も信のファンだった事。

信のようになるために芸能界を目指していた事も。

悠仁は下を向いて泣いていた。

今まで何も言わなかった信は、悠仁の近くへ行き、肩に手を置いて「ごめん」と謝っていた。

その言葉にはいろんな意味が込められているように感じた。

悠仁はそのまま泣き崩れていた。


私と信はあかりちゃんと二人にするため、部屋を出て行く。

信に送ってもらい家に帰っても、一人考えこんでいた。

悠仁が十年間信の事で葛藤した苦しみは計り知ることはできない。

人を憎み、過ごす日々は自分にとっても地獄だから。

大好きだった人を嫌いになるしかない状況に立たされ、それを貫いてきた日々がどんなに辛かったか。

それを考えただけでも私は心が苦しくなっていた。

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