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私の王子様  作者: 美鈴
14/21

もう少しこのまま

いろいろ考えすぎて寝つきが悪いまま朝になっていた。

なにやら外から騒がしい声が聞こえてくる。

窓を開け下を見ると、一台の車が止まっていた。

名前は知らないけれど高級車のようだった。

車を囲むように人だかりができている。

そして中から人が降りてくると更に騒がしくなる。

その人物をよく見るとあの悠仁だった。

どうりで騒がしい訳だ。周りにいる女性の叫び声が住宅街に響き渡っていく。

(どうしてここに悠仁が?)

私が疑問に思っていると悠仁はこっちを向き笑顔で手を振ってくる。

目が合った瞬間、私はカーテンに隠れていた。何を考えているのだろうか、周りのファンに見つかりでもしたら、私はこの世にいないかもしれないのに。

(一体どうなってるの!?)

混乱したまま隠れていると、車が走っていく音が聞こえる。

こっそり外を覗くと車は居なくなっていた。

周りにいた人達も残念な顔をしながら散らばって行く。

とりあえず一安心だ。悠仁は何がしたかったのかさっぱり分からなかった。


事務所へ行く準備をして家を出ると「よっ!」と物陰から悠仁が現れる。

私は驚きで口が開いたままになってしまう。

「な、何してるの!?」

驚いていると、悠仁に気付いたのか道行く人の足が止まり始める。

「こ、こっちにきて!」

私は悠仁の腕を掴み、人気のない場所へと連れて行く。

理由を聞くと「空に会いにきた」と言っている。

全く意味がわからない。

信の事もあって敏感になっていた私は、悠仁に芸能人がここへ来てはいけない事を伝えると、「じゃあ連絡先教えて」と言われてしまう。

「なんで?」

「嫌なら、また明日も来ようかなー」

悠仁は私を困らせて楽しそうにしている。

私は、仕方なく連絡先を教えるしかなかった。

連絡先を教えると「またね」と笑顔で帰って行く悠仁。

一体何だったのだろう。全く訳がわからないまま事務所へと向かっていた。


練習室へ行くと、圭、美雨、龍が集まっていた。

合流するなり、龍から信じられない話が飛び込んでくる。

「次は音楽番組の生放送があるから、それに向けて動いてもらうから」

「え!? 生放送!?」

突然の話に三人で驚いてしまう。

龍の話では、番組の企画で他事務所と組んで歌うコーナーがあり、その合同練習もあると言っている。

そしてその相手はまさかの白川舞だった。

番組としては熱愛報道後、共演させて視聴率を上げる計画のようだ。

事実を知っている私にすると、腹立たしい計画だった。

何も知らない圭と舞は生放送に喜んでいた。

今週は各事務所で練習し、来週からCORE事務所との合同練習が始まる。

話が終わり部屋を出ると龍に呼び止められる。

「ごめん、こんな事になって……」

龍は申し訳なさそうな顔をしている。

そんな顔をされたら私は何も言えなくなってしまう。

「大丈夫ですよ」

私は笑顔で答えていた。それに龍が謝る必要はない。

私はただのバックダンサーで、信達を理解しないといけないのだから。

そこへ信の姿を発見する。

私は信を避けるように練習室へ入っていった。

五分ほどして信が入ってくると、龍に仕事の内容を聞いたのか不機嫌な顔をしている。

「信、彼女と一緒に仕事なんて幸せ者だな!」

何も知らない圭は羨ましそうに言っている。美雨は「やめなよ」と止めていた。

信は黙ったまま圭を無視していた。

「では、練習を始めますー」

振り付け師が入ってくる。

今回の振り付けは合同の為、担当の振り付け師に教えてもらうことになっていた。

普段、信に教わっていたから練習が優しく感じて何か物足りない気がする。

昼になり、食欲がない私は圭達の誘いを断ると二人は外へ食べに行った。

信も断ったのか二人きりになってしまう。

いろいろ考えすぎて体も疲れやすくなっていた。

「大丈夫か?」

「うん……」

なぜだか信としゃべりにくくなっている。

「練習終わったら、あの海行かない?」

突然の誘いに迷ったものの、首を縦に振っていた。


午後の練習を終えると信からメールが来ていた。

――バイクで迎えに行くから家で待ってて

複雑な気持ちのまま家で信が来るのを待っていた。

バイクの音が聞こえ窓を覗くと信が来ていた。

外に出るとヘルメットを渡され、お互い会話をせずにバイクに乗っていた。

海に行くまでの間もしゃべらずに外を見ていた。

信も何かを考えているように感じていた。

海に着き、二人はいつものように座って海を眺める。

「あのさ……」

重い口を開いたのは信だった。

信は言いにくそうにスキャンダルの話をしてきた。

龍に聞いた話を信が話している。

「信はそれでいいの?」

私は信の気持ちを知りたかった。

「俺は今まで龍に助けてもらってばかりだった。 初めて龍が俺に頼みごとをしてきたんだ。 俺に出来る事なら助けたいから」

信の話を聞いて納得するしかなかった。

それより私は何をこんなに悩んでいるのだろう。

海に置いてきたはずの気持ちがまだ残っているようだった。

「数か月すれば破局報道がでるから、それまでの辛抱だな」

「そうだね!」

信は前向きに考えていて少し安心していた。

そんな時、携帯にメールが届く。

相手は悠仁だった。ふと圭に聞いた話を思い出し、信に悠仁の事を聞いてみる。

「信、松田悠仁って知ってる?」

「あぁ……」

一気に不機嫌な顔をしている。やはり信も好んでいないみたいだ。

「仲悪いの?」

「俺は何もしてないし話した事もないけど、なぜか睨まれる」

不思議だった。接点がないのになぜ悠仁は嫌ってるのかが気になっていく。

「もしかして、そのメール悠仁?」

「あぁ……うん」

「なんで連絡先知ってんの?」

「いろいろあって……」

話すと長くなる。

「へー、誰にでも教えるんだな」

「なにその言い方」

「別に」

信は怒っているみたいだった。

私も信に腹が立ち、砂を見て良い事を思いつく。

こっそり片手で砂を握り、信の服にかけていた。

「うわ! なにして……」

信も仕返しをしようとして砂をすくっていた。

危機を感じた私は急いで海へ走っていく。信は手に砂を持ったまま追いかけてくる。

必死に抵抗するため海水を掛けると思った以上に信に掛かってしまい、怒りに満ちた信は大きな手で海水をすくい私に掛けてきた。

逃げ切れずに海水が見事的中して私は全身濡れてしまう。

「信は手が大きいから両手は反則!」

そう言って私は両手で信に海水をかけていた。

二人の怒りはいつしか笑いに変わりお互いに水を掛け合い楽しんでいた。

「あーあ、信のおかげでこんなになっちゃったよ」

「良い大人が何やってんだよ」

二人ともどしゃ降りの雨の中を傘もささずに立って居たような姿になっていた。

それもまた可笑しくてお互いを見て笑っていた。

「腹減ったー! 飯食おうぜ」

信に言われ濡れたままお店へ入ると店長がすぐにタオルを渡してくれた。

二人はタオルで拭きながら料理を待っている。

「こっちきて」

信に呼ばれてついていくと、洗面台に椅子があり座らされる。

嬉しそうな顔でドライヤーを見せてくる。店長に借りたようだ。

信はそのまま私の髪を乾かしだす。

「お前、髪痛みすぎじゃね」

「あー、自分で染めてるからかな? あんま気にならないけど」

そう言うと信は笑っていた。

「女ってこうゆうの気にするんじゃないの?」

「そうなの? 痛みも味じゃない?」

ドライヤーをしていても聞こえる声で信は笑っていた。

「まぁ、お前のそういう所……だけど」

「なに? ドライヤーの音で聞こえなかった」

「お前って馬鹿だなーって」

そう言って信は微笑みながら髪を乾かしてくれた。

「ありがと! じゃ次、信ね」

交代して信の髪を乾かそうとすると「俺はいい」と照れているみたいだった。

私は無理やり座らせ乾かし始める。

「信、大変! 白髪が……」

「ついにきたか……」

信が落ち込んでいたから「うっそー!」と冗談を言うと信は拗ねてしまった。

でも、そんな時でも二人は微笑み合い、料理ができるまで楽しく遊んでいた。


家に帰ってからも思いだし笑いが止まらなかった。

私は海に置いてきた気持ちを再び持ち帰っていた。

相手にされないのはわかっているけれど、もう少しだけこの気持ちを大切にしたかった。


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