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私の王子様  作者: 美鈴
13/21

裏事情

久々にぐっすり眠れていた。

今日は練習が休みだから信に会う心配がない。

少しホッとしている自分がいた。

準備をして久しぶりのバイトへ向かうといつもと変わらない優奈が居た。

「体は大丈夫?」

会ってすぐに心配してくれる優奈。優奈の存在は私にとってすごく大きい。

「あまり無理しないでね」

優奈の言葉はいつも暖かい。本当に大切な友達だ。

今日で最後ということもあって、仕事中いろんな人が悲しんでくれた。

後日、皆が送別会を開いてくれる事になっているけれど、皆と会う日が少なくなるのはやっぱり寂しい。

「飲み会でいっぱい飲もうね!」と明るく振る舞っていた。

仕事を終えると皆が集まった所で挨拶をした。

笑顔で別れるために、泣かないように必死だった。

すると突然センター長からプレゼントを渡される。

皆からのプレゼントだった。中を開けるとリストバンドがいくつか入っている。

「ダンスがんばってね!」

皆に言われると我慢できず私は泣いてしまう。

こんなにも良い人達に出会えて、私は幸せ者だ。

皆にダンスで活躍することを約束して長かったバイト生活が幕を閉じた。


皆と別れ、今日は優奈と二人で送別会をすることになっていたから優奈と圭の居酒屋へ向かった。

「やっぱ飲み会はここでしょ!」

優奈は圭を気に入ったらしく圭に会うために来たようなものだ。

中へ入ると、圭は見当たらない。どうやら休みのようだ。

落ち込む優奈を見て、次はシフトを聞く約束をするとすっかり元気になっている。

優奈とは信の熱愛や龍の話をしていた。

始めは冷静に聞いていた優奈も、酔っぱらうと「白川舞―!」と怒っている。

そういえば優奈はデビュー当時から舞を嫌っていた。

「あいつは絶対に裏がある!」といつも豪語して、誰が何を言っても気持ちは揺るがないらしい。

実際に会った私からすると、裏があるようには見えなかった事を優奈に言っても伝わるはずがない。どんなに言っても「空は騙されてる!」と言われて終わりだ。優奈の短所は頑固な所かもしれない。かなりの包容力がないと優奈の相手は難しそうだ。

でもきっと良い人に出会えると信じている。


二人は盛り上がり、お互い酔っぱらっていたけれど優奈の方が酔っていた。

なんとか介抱しながら優奈を家まで送り届け、私はほろ酔い気分のまま一人でのんびり帰っていた。

すると変な男が話しかけてくる。

「ねぇ、なにしてんの?」

そういえば最近、この辺で変質者が出没していると聞いていたのを思い出す。

私は恐怖で一気に酔いが冷め、とにかく無視をして足早に歩いて行く。

「え? 無視?」

男はしつこく声をかけながらついてくる。

走るにしても足が遅い私が逃げ切れる訳もない。

どうするべきかと私の頭は混乱していた。

すると、男の口調が荒くなってくる。

「ねぇ、無視は良くないっしょ!」

そういって男が私の腕を掴んできた。

「やめてっ!」

腕を払いのけようとしたとき、誰かがその男を蹴り飛ばしていた。

私は何が起こったのか分からずにその人を見ると、眼鏡をかけた同じ歳くらいの男性だった。

「嫌がってんじゃん」

「あ? 何お前」

男が殴りかかると眼鏡君はうまくかわしていた。

強そうに見えないのに、人は見かけじゃなさそうだ。

眼鏡君はその拍子で掛けていた眼鏡が落ちてしまう。

眼鏡が落ちて腹が立ったのか眼鏡君は舌打ちをすると再び男を蹴り飛ばしていた。

あんなに怖かった男は、眼鏡君に怯えながらそのまま走り去っていく。

私は一先ず安堵していた。

「大丈夫?」

眼鏡を拾いながら声をかけてくれる眼鏡君。

「はい、ありがとうございます。 でも眼鏡が……」

眼鏡のレンズが割れていることに気付く。

「あぁ、いいよ。 家どこ? 危ないから送ってく」

「え? だ、大丈夫です!」

「いや、そんなに警戒しなくていいから。 またあの男がいたら危ないっしょ?」

確かに、また会ったら対処できないけれど、そこまでしてもらって良いのだろうかと悩んでいると、「俺もこっちだし」と言っていた。結局、流れで送ってもらう事になる。

会話がない中、一緒に歩いていた。

どうしても気になり「眼鏡、弁償します」と言うと「高いから無理だと思うよ」と言って眼鏡君は笑っていた。きっと気づかってくれたのだろう。

眼鏡がない顔は結構格好いい顔をしていた。

格好もパーカーにズボンとスニーカーで普通だけれど良い着こなしをしているからきっと人気のはずだ。こんなイケメンを世の女性が黙っているはずがない。

私が見ていると「何? 惚れちゃった?」と冗談を言って来た。

かなりのナルシストらしい。

やっと家に辿り着きお礼を言うと、「じゃあね」と言って眼鏡君は来た道を戻るように去って行った。

(同じ道じゃなかったんだ)

眼鏡君の優しさに感謝していた。

そういえば名前を聞き忘れていた。

でももう眼鏡君の姿は居なくなっていた。

いくら良い人でもナルシストは嫌だけど、イケメン好きの優奈に紹介しても良かったなぁと思っていた。

この辺に住んでいるならまたどこかで会えるだろうと思い、良い人に会って気分の良い一日になっていた。


いよいよ初めての撮影日。

準備をして事務所へ行くとマスコミは居なくなっていた。

おじさんにも会えず中へ入ると圭と美雨、龍が集まっていた。

車に乗り皆で撮影現場へ向かう。

現場に着き龍の後に続いていると見覚えのあるおじさんがいた。

「おじさん!」

「おや! 空さんじゃないですか! 撮影ですか?」

おじさんはなんでも知っている。

「はい! おじさんはどうしてここに?」

「え、いや、まぁ……」とおじさんが言っているときにひらめく。

「あぁ、警備の応援ですか?」

「え、まぁ、そんなところです!」

「だから最近みかけなかったのかー」

おじさんと話していると美雨に呼ばれてしまう。おじさんに夢中で龍たちと離れていた。

おじさんと別れ美雨の所へ行くと、メイクと衣装のプロが待っていた。

龍は他の仕事へ行ってしまい、三人はプロの力で見違えるような変身をする。

調子にのった三人はお互い見せ合い褒めあっていた。

遠くを見ると信が慣れたように座っている。

あれ以来の再会だけれど会えた事の方が嬉しくて声をかけるしかなかった。

「さすがプロは余裕がありますねー」

普通に声をかけるつもりが、つい意地悪な事を言ってしまう。

「まぁな」

信は不機嫌そうな顔をしている。

会話が途切れ、何を話せばいいのかがわからなくなっていた。

「もしかして緊張してんの?」

「ぜ、全然!」

信の言葉に過剰反応をしてしまい、それを隠すために近くにあったお茶を飲む。

「ゲホッゲホッ!」

慌てて飲んだおかげで咽ると信は私の背中を擦ってくれた。

「あー危なかった! セーフ!」

「いや、アウトだろ」

二人は笑いいつものように戻っていた。

「それでは撮影始めまーす!」

スタッフの掛け声で撮影が始まり、番組に出演する歌手たちが順番に歌っている。

信は人気があるから最後の方だ。


時間まで楽屋で待つことになり、信と一緒に楽屋に戻って行く。

中へ入ると誰もいなかった。美雨と圭はどこかへ行ってしまったようだ。

私と信が談笑していると舞がやってくる。

「退屈で来ちゃった!」

舞が来た途端に不思議と二人の会話が中断していた。

舞は見せつけるかのように信の横に座りくっついている。

向かいに座って話していた私は、心から笑えず舞のおかげで現実に引き戻されていた。

信の気持ちを経ち切るにはまだ時間が必要だ。

「中村信さんお願いします」

ついにこの時がやってきた。

いよいよ私達の撮影が始まる。

撮影場所にいくと、美雨達が居た。ずっと見学をしていたようだ。

信の足を引っ張らないように私達は必死に踊っていた。

四人は何のトラブルも無く撮影が進んでいく。

「はい、オッケイです!」

無事に撮影が終わり、圭達とハイタッチをしてステージを降りていく。

松田悠仁まつだゆうじんさん入りまーす!」

次の歌手が呼ばれると「やっぱ悠仁格好いいなー!」と、圭が興奮している。

圭の視線の先を見るとそこには見覚えのある顔があった。

悠仁がこっちに気付き、近づいて来る。

「やっぱり! 君、昨日の子だよね?」

そう言って来た顔をみるとあの時の眼鏡君だった。

まさか、あの眼鏡君が芸能人だったなんて、考えてもいなかった。

「え? 知り合い?」

圭は驚いた顔で聞いてくる。知り合いと言えるのだろうか?

答えに困っていると眼鏡君が答えていた。

「そ、知り合い!」

「へー、空も顔が広いなー」

「空ちゃんって言うんだ!」

あの時できなかった自己紹介をすると、「俺、悠仁でいいから」と言って笑っていた。

眼鏡がない時の笑顔は愛嬌のあるかわいい顔をしていた。

「悠仁さんお願いします!」

時間が押していたのか、悠仁はスタッフに急かされ「またね」と言って撮影に入っていく。

【松田悠仁】一体どんな人物なのだろうか。

物知りな圭に聞いてみると結構な有名人であることが判明する。

信がデビューした二年後に悠仁がデビューし、信と変わらないほどの人気を持つ歌手らしい。

デビュー当時から絶大な人気を誇り、系統が似ている信と比べられる事もあるとか。信にしか興味がなかった私は全く知らなかった。

「でも信と悠仁は犬猿の仲で有名だよ」

「え、なんで?」

「詳しくは知らないけど、悠仁が信を嫌ってるみたい。 まぁ、いつも比べられて信が取り上げられてるから、敵対視してるのかもね」

信と悠仁の人柄を知っている私は、少し残念だった。

「もぉー二人共なにやってんの? こっちこっち!」

困った顔で美雨がやってくる。

美雨と一緒に急いで楽屋へ戻ると龍が待っていた。

龍に今日の出来を褒められ達成感を感じていた。

仕事を終えた三人は帰る準備を始める。

先に準備を終え、美雨たちを待つ間にトイレへ向かい個室に入ると誰かがトイレに入って来る。

どうやら二人組のスタッフのようだ。

「ねぇ聞いた? 信と舞の熱愛、裏があるんだってー」

入ってくるなり気になる話が飛び込んでくる。

「ここだけの話、写真を撮られて困った金沢社長が、舞のイメージを崩さないために、付き合ったふりをして欲しいって信に頼んだんだって」

「なにそれ! ひどいー」

二人の会話はトイレ内に響き渡り、まる聞こえだった。

「あんな写真撮られちゃったら、舞も清純派のイメージは無くなるだろうから事務所としても必死なんじゃない?」

そう言ってスタッフはトイレを済ませると出て行く。

私はどこまでが本当なのかわからなくなっていた。

真実を知るには信に聞けばいい話だ。でもそれを聞く理由が私にあるのだろうか。

楽屋へ戻ると信はまだ戻っていなかった。

この後も仕事が入り帰れないと龍が言っている。

圭達が楽しく会話をして帰る中、私の心はもやもやしていた。


事務所に戻り解散する時に、圭と美雨が仲良く帰っていく姿を見て微笑ましかった。

「空、ご飯いかない?」

龍に誘われ、断る訳がない。

お酒が飲みたくなっていた私は、龍と一緒に近くの居酒屋へ向かった。

「居酒屋は初めてだなぁ」

龍の楽しそうな顔をみて少し癒されていた。

なぜなら、さっきの会話が頭から離れないからだ。

「どうした?」

席に着いた途端に龍はすぐに聞いてきた。

普通にしていてもやっぱり龍は誤魔化せないようだ。

私はトイレで聞いた話が本当なのかを龍に聞いていた。

龍の顔はすぐに変わり、真剣な顔で「本当なんだ」と言って詳しく話してくれた。


あの日、龍は信と一緒に舞の所属事務所COREへ行き、金沢社長の元へと向かった。

信達はファンの誤解を解くには双方の協力が必要で、それを頼みに行ったらしい。

ところが、これまで人気歌手として舞を育ててきた金沢は、どうしても舞を守りたかった。

あの写真を撮られた以上、舞のイメージは崩れ芸能人生が終わるかもしれないからだ。

「二人を付き合った事にして、数カ月後多忙によるすれ違いで別れた事にすれば、よくある話で終わることができる」

金沢の提案は舞のイメージを崩さないためにも必要なことだった。

龍と金沢は信と舞がデビューする時もお互い助け合ってきた程の親交があり、龍は金沢の頼みを断ることが出来なかったようだ。信も渋々了承してくれたらしい。


話しを聞いて私も理解するしかなかった。

私が龍でも、同じ決断をしたかもしれない。

芸能人にとってイメージは大切な事で、一度のスキャンダルが命取りになる意味を知ってしまった。

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