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妹がいた。

作者: unikohu



私の妹が死んだ。


色々あったはずだ。実家に帰り、母を手伝い、

儀式のようなことを一通りやり遂げたはずだ。

でも、私は一切起こったことを覚えていなかった。


気がついたら自分の家に帰ってきていた。

ぼーっとした頭でそのまますぐ部屋に向かい

私は布団に入った。


次の日の朝、そこには笑顔の妹がいた。


「おはよう」

「え?」

「ん?」

「…死んだんだよね?」

「死んだよ」

じゃあなんで

「それがよく分からないんだよね」

まぁいいじゃん。と妹は言った。


寝ぼけているのか、これはまだ夢の続きなのか。

頭がおかしくなってしまったのか。


私はもう一度寝直した。

正確には目をつむっただけで眠ることは出来なかった。


再び目を開けると、やはりそこには妹がいた。




死んだはずの妹は、相変わらず笑顔だった。

さっきは気がつかなかったが、肌の色が少し灰色がかっている。

何だか色褪せてしまった写真を見ているようだ。


「死んだんだけどさ」

私に背を向け、妹はひとり言のようにつぶやく。

「心臓は動いてるんだよね」

「そのくせ体は冷たいし、血はめぐってないみたいなんだ」





妹はお腹がすいたと言う。

確かに死んだのに。

お腹がすくと言うのだ。


私はパスタを作ってやった。

妹が好きなペペロンチーノを。


美味しそうに食べる妹。

顔色は悪く、血をめぐらせるわけでもなく

謎に動いている心臓をもつ冷たい体で。


「ごちそうさまー!」


妹はパスタを素早くたいらげた。

ふーっ食べた食べた、と言って大の字で寝転んでいる。


食欲の無い私は何も食べずに妹の食器を洗う。



それから、死んだはずの妹と私は二人でずっとだまっていた。

こんなに訳の分からない状況で、

聞きたい事や、考えるべき事がたくさんあるはずなのに、

二人とも無言だった。



ふと、私は不思議な事に気がつく。

まだニンニクの匂いがする。

ペペロンチーノを作ったのだから、

ニンニクの匂いがしばらく漂っていてもおかしくはない。


しかし、パスタを作ったのはもう5時間は前だ。換気扇だって回していた。


何故かしっかり匂いが残っている。

それこそ、できたてホカホカのペペロンチーノの匂いだ。



窓辺でごろごろしている妹にそっと近づいてみる。

ニンニクの匂いが強くなった。

妹からはゆであがったパスタ、オリーブオイル、鷹の爪の匂いまでした。


気にし過ぎだろうか。


私は妹を散歩に誘った。

ちょうど日も落ちて涼しくなった頃だから気分転換にと。



妹から匂いがするのは当たり前かもしれない。

ニンニクを食べた張本人なのだから。



外に出るとふわっと風が吹いた。

横を歩く妹から美味しそうなペペロンチーノの匂いがする。

いや、どこかの家の夕飯の匂いだったかもしれない。



夕暮れ時なので、妹の顔色もそこまで目立たない。

私と妹はすぐ近くの商店街の方へ歩いて行った。



「ねえ」

「なに」

「おなかすいたんだけど」

「…そう」

「お姉ちゃんはすかないの」

「…すかない」

「ふーん」



商店街は賑わっていた。

店が閉まる前、値引きされている商品をねらって主婦と学生が入り乱れている。

私は下を向いて歩く。が、ある考えが頭に浮かんだので頭を上げる。


「おなかすいたんだよね?」

「すいてるすいてる」


私はすっと指を商店街の奥にやった。


「おにぎりなんてどうさ」

「お、いいね」


妹は奥のおにぎり屋に向かって走って行った。


「あんまり残ってないなー」


妹は店頭に残っているおにぎりとにらめっこを続けていたが、

梅おにぎりと、最後の1つだった天むすを選んだ。



「食べて良いよ」

私は紙に包んでもらったおにぎりを妹に渡した。


歩きながら梅おにぎりをほおばる妹を、私はさりげなく、じっと見ていた。


おにぎりが少なくなっていくとともに、

さっきまではっきりとしていたニンニクの匂いが弱くなっていく。


次いで磯の香り、梅の香りが鼻に入る。面白いくらい自然に唾液が出てくる。


妹は私の視線に気がついたのか、振り返って立ち止まった。


「食べて良いよ」

「え」

「天むす。私はこの梅のだけで十分」

「いや」

「ずっと食べてるとこ見てたくせに。おなかすいてるんじゃん」


おいしいよーほらほら。

すっかり梅おにぎりの匂いになった妹が

ビニール袋から天むすを取り出す。


断りきれずに天むすを受け取る。

やっぱり妹の手はひんやりとしていた。








************************************************







私は死にたかった。




そんな時、妹が死んだ。



毎日ひとりで天井だけ見て過ごしていた私は生きているのに

そうではない妹は死んだ。



連絡をもらってから、自分が何を思ったか、どう行動したのか、

最初にも書いたように全く覚えていない。



漠然とした悲しみと

私なら良かったのに、という

不謹慎だが羨ましいという気持ちを持ったような気がする。




でも、死んだはずの妹が今日の朝から

私の横で動き、笑い、喋っているのだ。



死んだはずなのに、

心臓は動き、

けれど血はめぐらず、

灰色の冷たい肌で、

食べた物の匂いが体中からする妹。



天むすを見つめる。

海苔と梅の匂いを吸い込む。

私にしか見えていなかったとしても、妹はそこにいる。


私は海老のしっぽが出ているてっぺんにかじりついた。





ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

突っ込みどころ満載だったと思います。

なのにこの姉は、ほとんど突っ込まないですね。


きっと色々頭では考えているんだとは思います。

でも、突っ込まない。

突っ込むのが怖いのかもしれませんし、

何だかんだんでこの状況を早々に受け入れてしまった方が楽だと考えたのかもしれませんし..

皆さんが姉の気持ちになって考えて正解を出してみてください。

コメントをいただけたらもらえたらとても嬉しいです。

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