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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第一章 アバラート
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第一章④

 G県立中央高校の一年三組の黒板係の丈旗ケンが二年生の水野レナと付き合っている、という噂を御崎ミヤビがクラスメイトの斑鳩イオから聞いたのは朝のホームルームの前だった。そして不安そうな顔で「いいの?」と斑鳩に聞かれたのは帰りのホームルームの後、放課後のまだクラスメイトが多数残っていて騒がしい時間帯だった。教室の窓際の後ろの方にミヤビの机はある。その前に斑鳩が立っている。

「それって、どういう意味?」帰り支度をしながらミヤビは斑鳩に聞き返す。

「二人の間で何があったか知らないけど、」斑鳩は口を尖らせ、灰色のポケットに手を突っ込んでスカートをパタパタさせて言う。教室は蒸し暑かった。「仲直りした方がいいと思うな」

「別になんにもないよ、」ミヤビは言って大きく息を吐き、笑顔を斑鳩に見せる。無駄な気を使って欲しくないからだ。「仲直りする必要なんてない」

「嘘、」斑鳩は顔を寄せて来て小声で言う。「じゃあ、どうしてしゃべらないの?」斑鳩は言って一度振り返って黒板を消している丈旗を見て、またミヤビを見る。「あんなに仲良かったのに、今はなんていうか、他人じゃん」

「それは、その、席が離れたからだって、」丈旗の席は教室の廊下側の一番前の席だ。四月の最初の頃の名前順に並んだ席ではミヤビと丈旗は隣同士だった。ミヤビが最初に会話をしたクラスメイトは多分、丈旗だ。「席が近かったから話してないだけだよ、話す機会があれば普通に話すし」

「強がってるの?」

「はあ?」

「本当は、嫌なんだよね? 丈旗君を取られて、ああ、もしかして御崎さん、丈旗君と水野さんが付き合ってること知ってたんじゃない? だからわざと距離を置いたとか?」

「だから、そんなんじゃないって、別にいいじゃん、水野レナって言ったら校内一の美人さんじゃん、イケメンのケンとお似合いじゃん、お似合いのカップルが誕生しました、ああ、素敵、それに何か問題が?」ミヤビは声にヒステリックを乗せて言った。そして大きく息を吐き、斑鳩のことを睨むように見て席を立つ。「とにかくこの話はこれでお終い、そして次、この話したら、私、イオのこと嫌いになるかも」

「……ごめん、」斑鳩はシュンと首を竦め、縮こまった。「ごめん、でもさ」

「ばいばい」ミヤビは鞄を肩に掛け、笑顔を作って手を振って席を離れた。

 丈旗は熱心に黒板を消し続けていた。

「ねぇ、もう六月だし、そろそろ席替えをしようと思うんだけど」

教室を出る寸前、委員長の広峰チカコの声がそう言っているのが聞こえた。

 席替えなんてしなくていいってミヤビは思って教室を出た。


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