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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第五章 ジェネレート
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第五章⑲

「どういうつもりよ、マルガリータ!」

 アキラはマルガリータの両肩を押し、エレベータの銀色の扉に押しつけた。「エレベータが動かないって、あの娘たちは、あの娘たちはどうなったの!?」

「乱暴は止めてください、里見博士、痛い」

「あの娘たちは無事なんだろうな!」

「ええ、その、イリスのところには辿り着けたとは思います、でもそこから先の未来はちょっと分かりませんけれど」

「最初から、私たちを上に行かせない気だったのね?」

「違います、故障ですって、このエレベータは東芝製ですが、故障してしまうことってあります、いくら東芝製でもね、」マルガリータは開き直ったような顔になって言った。「とにかく扉が開かないのだから、こんな風に私に乱暴しても仕方がないことですよ、里見博士」

「ああ、もぉ!」

 アキラは声を吐き出してマルガリータから離れ、エレベータのボタンを乱暴に何度も叩いた。けれど、エレベータに反応はない。

「静かにして下さい、」マルガリータは唇の前に指を立てて言った。「人が来てしまいますよ」

「皆、世界を終わらせるために夢中よね!」アキラは声を張り上げて皮肉を言った。「皆、何も知らないでイリスのことを信用しきっている、私は何度も説得したのにあんたは狂っているという眼で私のことを見て世界の終わりなんてと笑って信じない、このプロジェクトを素晴らしいと疑わない、何も気付かない、この状況を知ろうとしない、ここにはそんな人たちばっかり、世界が終わって初めて気付くんだ、ああ、どうして私たちはあんなことをしていたんだろうって!」

「お願いですから静かにして下さい、」マルガリータはもう一度言って、そして魔性の目をした。「私はいつだって、あなたの身体を光で焼き殺すことが出来るんですよ」

 カノコは彼女の目に震えた。

 錦景市の魔女とは比べものにならない信念と覚悟がその目にはあった。

 カノコの中途半端な風では、彼女の髪を靡かせることしか出来ないと思った。

 アキラはマルガリータから逃げるように離れ、カノコの腕に触れた。

 マルガリータは乱れた髪を整えてから、温度のない視線をこちらに注ぐ。

 そして。

 スクリュウ全体が大きく揺れた。

 その揺れに立っていられなくってカノコは座り込んだ。「何?」

「・・・・・・まさか?」アキラが声をあげる。

「十二時を待たずに、」マルガリータが金時計で時刻を確認して、嬉しそうでも哀しそうでもなく言う。「スクリュウが加速したみたいですね、ミアが席を立ったのかしら?」

「世界が終わるわ」アキラがカノコの背中に顔を押しつけて言う。

「現実感はまるでないけどね、」マシロがポツリと言って煙草に火を点けた。「本当に終わってしまうのかしら?」

「世界の終わりを感じたかったら夜空を見て下さい、多分きっと、過度な変化があるはずですよ」

 マルガリータは淡々と言って。

 そしてゆっくりと首を傾げた。

「・・・・・・どなた?」

 マルガリータの視線はカノコとアキラとマシロの後ろにあって、三人は振り返った。

 巨大なリュックを背負った、ショートヘアの女の子が立っていた。

 汗だくで、髪は塗れていて、白いTシャツは透けていた。リボルバのジャケットのTシャツに、ユニオンジャック柄のロングスカート、スニーカはアドミラル。水平さんのような帽子を被っていた。

「こらこら、お嬢ちゃん、勝手に入っちゃ駄目だって」後ろから警備員のおじいちゃんがよたよたと歩いて来る。

 それを無視して、ショートヘアの女の子は大きく息を吸って、声を張り上げた。

「丈旗マヨコ、十四歳、アリスに会いに来ました、アリスに会わせてください、私の恋人のアリスに会わせてください、お願いします!」

 マヨコは勢いよくお辞儀をした。

 その拍子に帽子が落ち、リュックの中身が通路に散乱した。ファスナがきちんと閉まっていなかったみたい。

 パンツとブラジャと様々な色のTシャツと、それから沢山の小さなイエロ・サブマリンが散乱している。


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