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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第五章 ジェネレート
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第五章⑪

 八月八日の月曜日に、マクドナルドのいつもの席で、ミアとミヤビは、アイナとニシキと会った。ミアは二人と会うことを嫌がったけれど、ミヤビは無理矢理ミアを引っ張ってマクドナルドまで連れてきた。

「あんたたちが何を考えているか知らないけど、」ミアは二人が席に着いた瞬間に言った。「私はあんたたちのことなんて大っ嫌いよ、イリスの犬め、恥を知りなさいっ、それから五分の遅刻だわっ、時間を守らない女って最低よっ」

 そんなミアの言葉に二人は苦笑いだった。

「まあ、まあ、そんな嫌いだなんて言わないで、」ニシキは席に着いてからミアを宥めるように言った。「せっかく仲良くしようと思って、マクドナルドに誘ったんだから」

「仲良く?」ミアは鼻で笑う。「ハルカみたいに私のことを騙そうとしているんでしょう?」

「そんな騙す、だなんて、」ニシキは言って表情を変えてミヤビを見る。「……ハルカ、何したの?」

 二人はどうやら、昨々日の群青河原の一件を知らないようだった。「実は」とミヤビがそのことを説明すると、ニシキは片方の頬を膨らませ苛立たしげに言った。「ハルカってば、何してんだよ、もぉ」

「ハルちゃんね、」ストロを咥えながらアイナが言う。「どうやらイリスさんにお熱みたいなの、今、イリスさんの邸に泊まり込んでるみたい」

「お熱?」ミアは頬杖付いて息を吐く。「本当に莫迦な娘ね、完全に騙されちゃったんだ」

「イリスさんが言ってたことなんだけど、」ニシキが口を開く。「ミアちゃんがスクリュウを壊そうとしている理由は、イリスさんがミアちゃんのことを振ったからって、そう言ってたんだけど、それって本当?」

「違うわ、何それ?」ミアは冷たい目をニシキに注ぐ。「それが私がスクリュウを壊そうとしている理由? 莫迦じゃないの? ハルカはそれを信じたわけ?」

「うん」

「本当に莫迦な娘、確かに、その、私はかつてイリスのことを愛していたわ、それは認める、私の恋は叶わなかった、それも認める、でもそれはスクリュウを壊す理由なんかじゃない、理由になり得ない、愛が破壊に向かうほど私は愚かな魔女じゃない、」ミアは歯切れよく言った。「で、あなたたちはどうなの? あなたたちも莫迦な娘って言われたい?」

 ニシキとアイナは顔を見合わせる。

 そして。

「未来を見たんだ、」アイナは切り出した。「その未来によれば、私たち、トワイライト・ローラーズの四人が夏の終わりに一緒に花火大会に行くためには、ミアちゃんが正解なんだ」

「はあ?」ミアは首を捻る「未来が見えるって、あんた、莫迦?」

「アイナは未来見って魔法が編めるんだ、」ミヤビは言ってコーラを飲む。「そのことすっかり忘れてたけど、アイナは編めるんだったよね」

「もぉ、ミャアちゃんってば酷いよぉ、」アイナは愛嬌のある笑顔を作る。「まあ、確かに、私も忘れかけていたことは否めないんだけどね、編んでいないと忘れてしまうものね、再生しないCDと一緒だね」

「とにかくアイナが見た未来の断片、私たちの明るい未来を基準として選ばせた正解はあなただったわけだ、」ニシキは大人びた表情を見せ、ミアのことを指差す。ピストルの形で指差した。「ミアちゃんがいくら私たちのことが嫌いでも、見えている私たちの未来の正解はミアちゃんなんだから選ばなくっちゃしょうがないのよ、私は私のことが嫌いな女の子は嫌い、でもあなたのことを選ばなくっちゃしょうがないんだから、私はあなたのことを嫌いにならない、好きになる努力をする、だからミアちゃんも私とアイナを好きになる努力をして」

「意味分かんない」

「私たちも協力してあげるって言ってんの、」ニシキはミアのことを睨み言った。「協力が必要でしょう?」

「協力? さらに意味が分からない、あんたたちみたいに微妙な魔女の手助けなんていらない、おこがましいっていうものよ、生意気よ、図々しい、どうせハルカみたいに、私のことを騙そうとしているに決まってる」

「……そぉ、まあ、いいわ、別にそれで構わない、ミアちゃんの気持ちを無理矢理変えようっていう気はなかったし、」ニシキは一度下を向いて、顔を上げて微笑んだ。「まあ、いいわ」

「これで話は済んだ?」

「ええ、そうね、そういうことだったら、私たちはミャアちゃんに協力するだけ」

 ニシキはミヤビに向かってウインクをした。最高に愛らしいウインクだった。

「なんのつもり?」ミアはニシキを睨む。

「別になんのつもりもないわ、」ニシキは大きく首を横に振る。「ミァヤちゃんは私の、私たちの彼女なので、協力するのは至極当然のことよね、ねぇ、ミァヤちゃん?」

 ニシキは妖艶なまなざしでミヤビを見つめている。

 初めて彼女とキスしたときも、そんな目で見られてしまったからどうしようもない気持ちになったんだ。

 ミアはミヤビを横から鋭く睨んでいる。

「早く答えなって、」対面に座るアイナがニッコリと微笑み口を尖らせ、爪先でミヤビのコンバースのハイカットを蹴った。「時間がないんでしょう? 時間切れなんて最低だって思うでしょ、」アイナはそこでミアを見る。「あなたも」


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