第五章⑥
死神がミヤビのスマートフォンにインストールしたアプリケーションの名前はエレクトリック・コンパス。
つまり、幽霊の居場所を示してくれるアプリケーションだった。
アプリケーションを起動させると画面に現在地を中心とした地図が表示される。地図上に赤い点があったら、そこが幽霊の居場所。このアプリケーションによって、ミヤビはオカルトサイトを徘徊する必要がなくなった。何より、効率よく幽霊を退治してエネルギアを回収することが出来るようになった。一晩でミヤビは何度もライジング・ブレイドを振り回している。ミアの髪の毛の色の煌めきも日に日に増していた。ミアの髪の色は魔法を編んでいないときも紫色と分かるくらいになっていた。
八月六日の夜、ミヤビとミアと、それから死神のキョウカは、アプリケーションを頼りに群青河原に向かっていた。
群青河原、昭和大橋の下に大きな反応があったのだ。
「もう、今日で最後でいいかもしれないわ」
キョウカの運転するミラココアの後部座席から外を見ながらミアは言った。「スクリュウを破って壊す力が私にはある、ただ、あの娘たちの存在だけが気がかりね」
あの娘たち、というのはハルカとアイナとニシキのことだ。三人はミヤビたちの幽霊退治を邪魔するようになった。
ミアに騙されているのよ、とハルカは言った。
一昨日の夜だったと思う。場所は春日中学校の近くの春日神社だった。その日は神社に幽霊が出た。春日神社には今は水のない大きな池がある。その水のない池の底に黒いランドセルを背負った男の子の幽霊がいた。神社の池の水がないのはその男の子が池で溺れて死んだからだった。男の子は僕がここで溺れて死んだせいで錦鯉の居場所がなくなってとても悲しかったと言った。だから成仏出来ないのだと。僕は鯉になりたいと言っていた。きっとなれるよ、とミヤビは根拠のないことを言ってライジング・ブレイドで男の子の魂を斬った。キョウカがその魂に絡んでいたエネルギアを飴玉にして、それをミアが舐めている横でハルカは叫んだ。「全部、ミヤビが信じていることは全部、ミアの空想なのよ、ミアが狂ってる、その死神っていう奴も狂ってる、ミアの言うことは全部嘘なんだって、スクリュウを壊すためにミヤビのことを利用しているんだわ」
「莫迦な女、」ミアは飴玉を舌の上で転がしながら言って、死神のアプリケーションで次の幽霊を探していた。「何も知らないくせに」
ハルカはミアのことを無視してミヤビの説得を続ける。
ミヤビは何が真実か。
何が嘘か。
分からない。
ただ、
なんとなく、
ミアと、
死神が言う、
この世界の真実を否定する気にはなれなかった。「ごめん、ハルカ、私は、」
どんなにヒステリックでも。
狂っている風に見えても。
ミアの過度な紫色を支える理由が嘘だとは思えない。
ミアの紫色は嘘では支えきれないものだと思うから。
「私はミアのことを信じてる」
ハルカは私が見たことのない顔をした。
私はハルカが怖かった。
「着いたぞ」キョウカが言った。
エンジンが止まる。
ミヤビはミアココアから降りる。
いつものように、フェンダのギターケースを背負って。
「なんだかおかしい」群青河原に一歩足を踏み入れると、ミアは言った。




