第五章①
イリスは屋敷の応接室のソファに自分の小さな体を沈ませ、目を瞑っていた。
室内の照明は消えてしまっていて暗いけれど、イリスの金色の髪からこぼれる煌めきによってぼんやりと、テーブルのワイングラスの形は分かった。
ぼんやりと。
イリスは夢の輪郭を辿っている。
人差し指で空中をなぞり。
ええ。
それはまるで青春小説の憂鬱がさせるような仕草。
ただ確かめている、というよりは。
感じている。
その夢を。
本の折れ目のような些細な印。
些細だけれど、それは強くプレスされた形跡がある。
イリスは十一歳で魔女に開花した。
圧倒的な金色を保有する魔女になった。
一年も待たずに、イリスは英国で他に並ぶ魔女がいないほどの存在になった。
イリスは魔女になり夢を見るようになった。
断続的に、イリスは夢を見た。
イリスは夢の中では彼女で。
彼女は円卓を前に座っている。
彼女以外に円卓を囲む、魔女の背中には羽根があった。
天使だと、彼女は思っている。
天使たちは彼女のことを嘲笑っている。
羽根のない彼女のことを嘲笑しながら、この世界の真実を語っている。
そして。
天使の一人が絶叫する。
彼女がそこにいることの罪を叫んだ。
そして天使は再び、嘲笑!
イリスは彼女であり、彼女が強く抱いた感情を体験する。
純粋に体験し。
そして決意を抱く。
決意を抱いたのだ。
それは彼女によって刻まれた印か。
おそらく呪い、というべきものに近いだろう。
彼女の呪いに絡まれてイリスは生まれた。
いや。
イリスの誕生。
そのものが呪いであるのだろう。
イリスは彼女だ。
その印があり。
その印があるという印に、イリスは彼女に幻想的とも言えるほどの共感を抱いている。
その印に従った、短い生涯だった。
その世界も。
この夏に終わる。
イリスは泣きながら笑い、天井でゆっくりと回転するプロペラを仰いでいる。
 




