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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第四章 ストレート
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第四章⑫

 キョウカがディクシーズで語る、この世界の真実。

 元々一つだった世界は、四つに分化した。それから始まるキョウカの天体史の講義が真実だなんてミヤビには簡単に信じることなんて出来なかった。第一世界は天使の世界、と言われてもミヤビにはファンタジィの世界の話のように聞こえた。ミヤビは魔女でゴーストバスタをしたりしているけれど、キョウカが語る世界の真実というのはミヤビの日常からとてもかけ離れているように聞こえた。だから彼女はミヤビのことをペテンにかけようとしているんじゃないかって思った。

 でもその思いは第二世界のサブリナという魔女の話を聞いて消えてしまった。サブリナの指摘、この四つの世界はシリーズなのではないか、という指摘が、ミヤビの疑いを消した。

 なぜか消えてしまったのだ。

 キョウカを疑うことが莫迦らしく思えて。

 サブリナの純真がミヤビにも分かって。

 四つの世界を作り出した天使に向けられたサブリナの純真。

 そこにとてつもない重さのようなものを感じたから。

 ミアだっていつになく真剣な顔をしているし。

「以上がこの世界の真実、」キョウカは言って珈琲に口を付ける。「何か質問はあるか?」

「質問、というか、」ミヤビは自分の髪の毛を触りながら言う。「なんとなく、この世界のことは分かりました、でも、そんな話を、どうして私たちにしているのか、私たちは聞いているのか、という点が、凄く、謎」

「それはこれからするんだ、」キョウカはミアの方を見た。「な、そうだろ、ミア・セイレン」

「そうね、」ミアは頬杖付いて目を瞑り大きく息を吐いた。「まあ、そろそろミヤビには話さなくちゃいけないことだったからね」

 ミアは真っ直ぐにミヤビのことを見つめ、そしてゆっくりと話し出した。「錦景山に立っているスクリュウの目的はね、四つに分化した世界を一つにするためなの、つまりこの世界を壊すためにスクリュウは立っているのよ、あれは次世代を担う新しい発電システムなんかじゃない、ただのモニュメントでもない、この世界を破壊するモンスタなの、四つのプロペラを回転させて第二世界と第三世界を繋ぐ小さなエネルギアの通り道を広げているの、第二世界からエネルギアを第三世界に無理な世界で引き寄せることによって元々あった小さな綻びを広げている、広がってしまってエネルギアが第三世界に流れ込んでくれば四つの世界のバランスは崩れて一つになる、つまり世界は一度リセットされる、リセットされるってことは多分、皆死んじゃうんだと思う、どうなの?」

「おそらくそういうことになるだろうな、」キョウカは頷き、煙を吐く。「私も体験したことがないことだから確かなことは言えないけれど、そうなるだろう、そして死神という立場からすれば、世界の終わりは避けたいところだ、おい、ミヤビ、ちゃんと話に付いて来れているか?」

 ミヤビは顔をあげて頷く。「……うん、でも、何がなんだかさっぱり、頭はすっごくぼんやりしてる」

「私がゴーストバスタをして、蒸留水を、エネルギアを飲んでいるのは、そのためよ」

「え、そのためって?」

「スクリュウを破壊するのが、」ミアは歯切れよく言う。「私の目的」

「死神の目的でもある、」キョウカも歯切れよく言って頷く。「利害関係は一致しているな」

「スクリュウを破壊して、」ミアは珈琲を飲み干した。「救い出してあげなくちゃいけないから」

「救い出すって?」

「スクリュウのプロペラを回転させているのは魔女なのよ、彼女も私とミヤビと同じように発電機、彼女がプロペラを回転させてエネルギアをこの第三世界に導いているの、深夜の零時から朝の六時までは社会に対してスクリュウがただの発電施設だと示すために送電をしているのだけれどそれは発電機の彼女がそれ以外の時間にプロペラを回転させて引き寄せたエネルギアを使って作り出した電気よ、それは彼女の意志とは関係のないプログラム、彼女はスクリュウの中に閉じ込められて強制的に魔法を編まされているの、私は彼女のことを救いたいと思っている、だから私は彼女のことを救い出すためにエネルギアを飲んで力を蓄えているの、スクリュウを作り出した魔女のことをなんとかしてスクリュウを壊すためにはもっと煌めかなくちゃいけないから」

「スクリュウを作り出した魔女って誰なの?」

「イリスよ、イリスはパイザ・インダストリィの社長を騙し、彼らの技術力を利用して、スクリュウを作り上げた」

「……彼女はどうして、この世界を壊そうとするわけ?」

「それはイリスが、」ミアは言い掛けて、そして急に表情を変え立ち上がり怒鳴った。「どうしてあなたがここにいるのっ!?」

 ミヤビが通路側に視線を上げればそこにはハルカがいて、その後ろにはアイナとニシキもいた。

「お前に会いたくなかったからだよっ!」

 ハルカは怒鳴り返しディクシーズを出て行った。

「ハルカっ!」

「あ、ハルちゃんっ、待ってよ、もぉ!」

 ニシキとアイナはハルカのことを追いかける。

 ハルカも考えることは一緒だったみたい。

 マクドナルドだったら会うかもしれないって思ったんだろう。

「全く、話の腰を折られちゃったわね、」ミアは笑顔でミヤビに言う。「それで、えっと、なんだっけ?」

「喧嘩しているのか?」キョウカが聞く。

「喧嘩じゃないわ、」ミアは首を横に振る。「ただあの女、私の頬を叩いたのよ、信じられないでしょう?」

「……そうか、まあ、何があったかは聞かないけれど、でも、彼女たちも紫色の魔女だろう?」キョウカは新しい煙草に火を点けて煙を吐く。「出来れば彼女たちにも協力してもらった方がいいと思うんだが、お前にとっても」

「あ、私も、そう思います」ミヤビはミアの機嫌を伺いながら控えめに主張した。

「あの娘たちは駄目よ、」ミアは冷たく言った。「全然、力不足、足でまといにしかならないわ」

「この第三世界の魔女としては三人とも優秀な気がするが」

「いらないわ、ミヤビがいてくれればそれでいい、」ミアは言ってミヤビの腕をぎゅっと抱き締める。「あ、そういえばまだ、ミヤビに聞いてなかったな」

「何を?」

「スクリュウを破壊するために、一緒にイリスと戦ってくれるよね?」

 ミヤビは頷いた。

 世界が終わるなんて考えなくても嫌だ。

 自分がなんとか出来ることならなんとかしたい。

 それに。

 世界が終わってしまったら、ミアとハルカが仲直り出来ないじゃないか。

 まだミヤビは諦めていない、

 ミアをトワイライト・ローラーズのメンバにすることをまだ諦められない。

 それがミヤビの今の。

 なんだろう?

……夢、みたいなものだから。




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