表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/87

Re:プレリュード②

 丈旗マヨコは電車の扉が開くのと同時に外に飛び出した。

 地下鉄のホームからの昇り階段を誰よりも急いで駆け上がった。

 改札を抜けようとした。

 パイザがちゃんと反応しなかったみたいで、ピンポーンと音がして、シャッタが閉まった。

「もぉ!」

 マヨコは苛立って叫びながらも三歩後ろに下がり、今度はゆっくりとパイザを改札に当てる。

 今度はちゃんと開いた。

 マヨコは走って改札を抜ける。

 一番出口に向かう。

 そこを出て、螺旋階段をカンカンカンと鳴らしながら登る。

 地上に出た。

 眼を細めるほどの眩しさに包まれる。

 次第に眼がその明るさに慣れると、周りを囲む、白い建物をきちんと確認することが出来る。

 ペルシャの宮殿のような荘厳な建物だ。見上げるほどの高さがあり、それは左右に延々と続いている。

「マヨちゃん」

 ふと声がして、視線を高いところから下ろせば、正面にアリスが立っていた。「ようこそ、我らがスクルに」

 そうだ。

 アリスが通う学校に、マヨコは来たのだ。アリスが来ている制服を、マヨコも着ている。純白のセーラ服を着ている。マヨコは確か、錦景市立春日中学校から転校して、ここに来たんだっけ?

 門が開き、そこから昇降口まで続く銀杏並木を歩き、建物の中に入った。

 マヨコの前にはアリスが歩く。

 どこに向かっているのか分からないけれど、廊下を歩いている。

 教室の数が、とても多い。

 その教室の中には女の子たちがいるけれど、どの教室にも数人しかいなかった。

 ああ、今日は祝日だっけ?

 とにかく静か。

 森閑としている。

 だからかな。

 視界はずっと、霞んでいる。

 淡く、滲んだ景色が広がっている。

 ああ、ここは錦景女子高校の中等部なのだから、そういう景色になっても不思議じゃないな。

 アリスの背中を見ながらまばたきをした。

 目を開ける。

 あれ?

 いつの間にか、中庭に来ていた。

 円形の狭い空間に。

 極彩色の緑が茂っている。

 水色の小鳥がマヨコの前を斜めに飛んだ。

「マヨちゃん、」アリスが微笑み、マヨコの手を取る。「踊りましょ」

 どこからともなく。

 アコーディオンの音色が聞こえてきた。

 音楽が聞こえてくる。

 アリスになされるがまま、マヨコはワルツを踊る。

 アリスの手はマヨコの腰に回っている。

 とても距離は近い。

 近い距離で二人は踊っている。

 回っている。

 どれくらい、踊っているんだろう。

 そうマヨコは思った。

 そして急に、アリスはマヨコの手を離した。

 体が離れる。

 まるで宇宙空間にいるみたいにすーっとマヨコはアリスから離れた。

「マヨちゃん、」アリスは後ろにふんわりと跳躍して、マヨコから距離を取り、片目を瞑り、唇の前で人差し指を立てて微笑み言う。「私を捕まえてみて」

 マヨコはアリスの手を掴もうとする。

 アリスはマヨコの手をするりと躱す。

「あはは、こっちだよ、マヨちゃん」

 マヨコは校舎の中に消えるアリスを追いかける。

 しかしマヨコがどんなに早く走っても、アリスには追いつけなかった。

 足には少なからず自信がある。

 しかし徐々にアリスは遠のく。

 アリスは屋上への階段を登る。

 屋上にアリスは出た。

 マヨコも遅れて、屋上に出る。

 眩しさにまた、眼を細める。

 周囲を見回す。

 しかし、そこに。

 アリスの姿がどこにもなかった。

「アリスはどこに消えたっ!?」

 マヨコは叫び、眼を見開いた。

 眼が覚めた。

 天井のオレンジ色の小さな電球が、ここが自分の部屋だと教えてくれる。

 マヨコは自分の部屋のベッドの中にいた。「……また、夢?」

 額に手をやり、呼吸を整えながら、喉の渇きに耐えかねて、ベッドから出て、一階に降りて、冷蔵庫を開けて、コーラを飲んだ。

 飲み終え、パジャマの袖で首の汗を拭いながら考える。

 ずっと同じ夢を繰り返して見ている。

 ずっと、プロローグで、カーテンコールに辿りつけない、夢。

 また同じ夢を見ている。

 いつも最初から、同じ夢で、アリスを見つけられずに終わる。

 ダ・カーポの記号に弄ばれているみたい。

 アリスに、遊ばれているみたい。

 でも私はまた。

 どうしてもアリスに会いたくて。

 夢の国のアリスに。

 いや、アリスはいるはずだ。

 確信がある。

 この現実世界のどこかに。

 絶対。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ