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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第二章 マスカレード
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第二章④

 六月十五日の喫茶ドラゴンベイビーズの店内は絶賛パーティ仕様だった。ツリーはないけれどクリスマスみたいな飾り付けがされていた。キラキラだった。今日はハルカの十六回目の誕生日。だから彼女の親友の森永スズメがバースデイパーティを企画したのだ。さすがに貸し切り、というわけにはいかないのでスズメは今日という日に偶然にもここに集まった、いわゆるご主人様に、ハルカの誕生日を盛大に祝うように言い含めていた。

 さて、後はハルカがここに登場するだけなのだが、錦景市が夜の七時になっても彼女はドラゴンベイビーズに姿を見せなかった。

「なんで来ないのっ?」エクセルガールズのピンク色の衣装に身を包んだスズメは欠伸をしていた御崎ミヤビに若干切れ気味に言う。「なんで夜の七時になっても来ないのよぉ」

「さあ、」ミヤビは首を横に振る。「なんでだろ?」

「電話すれば?」ミヤビの対面に座る藍染ニシキが言う。ミヤビとニシキの二人はスズメから直接連絡を受けて中央高校から直接ここに来ていたのだ。

「したけど、」スズメは口を尖らせる。「留守電で」

「ハルカ、基本的に電話に出ないからね、ハルカのスマホはいつもサイレントモードだから、震えもしないし」

「そうなのよ、」スズメは唇を尖らせて言う。「だから留守電に今日は絶対にドラゴンベイビーズにって、来るようにいったんだけどな」

「それってさぁ、」ニシキが口元を緩ませて言う。「ハルちゃん、留守電聞いてないかもよ」

「あ、」スズメは目を丸くした。「……それは考えなかったな、でもメールもしたし、……返信は、なかったんだけれど」

「あーあ」ミヤビは笑って珈琲に口を付ける。

 そのタイミングでドラゴンベイビーズの扉が開いて、マシロと斗浪アイナが姿を見せた。今日はいつもより早く店を閉めて、このバースデイパーティに来るとさっき連絡があった。アイナは錦景ロフトの黄色いラッピングペーパに包まれた巨大なお誕生日プレゼントを抱えてミヤビの隣に座った。「お、なんだか今日はお店がキラキラしてるね」

「ねぇ、アイナ、ハルカがいないんだけど」

「え?」アイナはきょとん、という顔をした。「なぜ?」

「ハルカの誕生日でしょう?」マシロはニシキの隣に座り、さっそく煙草に火を付けている。「それなのにいないの?」

「ハルちゃん、」ニシキが言う。「パーティのこと知らないのかも、アイナには何か言ってなかったの?」

「うーん、どうだろう、」アイナは首を捻る。「学校じゃ、ハルちゃんとあんまり話さないからなぁ」

「なんで?」ミヤビは聞く。

「なんていうか、」アイナはニヤケる。「特別な関係だからね、隠しておきたいじゃないか」

「ああ、分かるなぁ、」ニシキもニヤケて頷く。「すっごく分かる」

「そんなことより主役が来なかったら、パーティが始まらないよ、」ミヤビはフロアのど真ん中にそびえる背の高いケーキを見上げて言う。「あんな巨大なケーキもあるし」

「食べなきゃもったいないよね」スズメは口元に人差し指を当てて言う。

「もう始めたら、」マシロは煙を吐いて言う。「ハルカのバースデイパーティ、お腹空いたわ」

「でも、」スズメはお腹に手を当てて言う。スズメも多分、腹ペコなんだ。「ハルカが来ないと意味が」

「スズメちゃん、クリスマスのことを考えなさい、」マシロは灰皿に煙草を擦りつて言う。「クリスマスパーティにイエスはいる?」

「……いません」スズメは理解不能意味不明、という表情で首を横に振る。

「そういうこと」

「はあ?」スズメは首を傾けた。きっと意味が分からな過ぎてマシロのことを睨んでいる。「あの、どういうことですか?」

「パーティをしていても、ハルカは怒らないわよ」

「ああ、」スズメは何に納得したのか頷き、明るい顔をした。「なるほど」

 というわけで、ドラゴンベイビーズではハルカ不在でハルカのバースデイパーティが始まった。スズメはハルカがいないのに、バースデイソングを熱唱した。そしてトワイライト・ローラーズの三人が十六本のロウソクを消した。ケーキはドラゴンベイビーズにいる全員に配られた。最後に記念写真を撮った。終わってみればいいパーティだった。楽しかった。

 さて、ご主人様を送り出して閉店、という時間になってスズメのスマホが震えた。

 着信はハルカからだった。


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