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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第一章 アバラート
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第一章⑫

「夢見?」ミヤビはハルカに聞き返す。「アイナの未来見、みたいなもの?」

「アイナのは魔法と言うよりも、」ハルカはコーラのストロをかじる。「能力と言った方が正しいよね」

「夢を見る、魔法?」

「そう、他人の夢を覗く魔法、」ハルカは鞄の中から一冊の分厚い本を取り出してテーブルの上に置く。見た目はいかにもな魔導書だ。「実は昨夜、とある可愛い少女に天体史を教えるために彼女の部屋に行っていたんだけど、そこで私は、彼女から夢の話を聞いたんだ、最近ずっと同じ夢ばかり見ているって、その夢で彼女はアリスという少女と出会う、アリスという少女の顔は夢が醒めると忘れてしまうんだけれど、可憐、という印象は覚えているんだって、これは勝手な想像なんだけれど、彼女は少女に恋をしていると思うんだよ」

「夢の国のアリスに恋をしてるの?」ミヤビは口元を緩めて言う。「可愛いね、その娘、それで?」

「うん、それでアリスと一緒に白い宮殿みたいな建物の中に入る、マヨちゃんはその建物を、ああ、昨日天体史を教えた少女の名前はマヨコね、真夜中のマヨに、湖と書いて、マヨコ」

「なんだか魔女っぽい名前」

「ミヤビもね」

「そう? どちらかというとプリンセスでしょ?」

「あははっ」ハルカは高い声で笑った。

「なぜ笑った?」ミヤビはハルカを睨み付けてやる。

「ああ、もう、笑わせないでよ、」ハルカは絶品の笑顔で呼吸を整えている。「とにかく、そう、夢の中に出てくる白い宮殿みたいな建物は校舎で、廊下を歩くと教室が沢山あって、つまりマヨちゃんとアリスはその学校の生徒、という設定なんだな、夢の中でマヨちゃんはね、ああ、私は錦景女子の中等部に転校したんだった、って思うんだって」

「あれ、」ミヤビは頬杖付き、首を捻る。「錦景女子に中等部なんてあった?」

「そんなものないよ、夢の中でマヨちゃんがそう思うだけ」

「ああ、そういうことか、それで?」

「中庭で二人はワルツを踊るの」

「なんで踊るわけ?」

「アリスに誘われるんだって、踊りましょって、」ハルカは言ってミヤビに手を差し出す。とりあえずミヤビは差し出された手を握ってみる。互いの手の温度を確認し合ってから、手を離す。「踊りの途中、急にアリスはマヨちゃんの手を離すの、そして私のことを追いかけてご覧なさい、っていう感じで今度は、追いかけっこが始まる、そしてアリスを追いかけて屋上に行くとアリスの姿は消えてしまっていて、マヨちゃんはいつも決まってそこで目を覚ます、アリスはどこに消えた、そんな台詞を叫びながら」

「なんだ、それ?」ミヤビは言う。「変な夢、作り話としても面白くないな」

「うん、私もマヨちゃんのつまらない作り話だと思った、あの娘、私が冗談ばっかり言うのに影響されちゃったのかなって、でもね、マヨちゃんはいるっていうんだ、本気でいるっていうから、凄く本気な目をしてさ」

「え、何がいるって?」

「アリスが現実にいるって」

「……その娘、頭おかしいんじゃない?」

「まぁ、」ハルカは笑顔で言う。「成績はよくないみたいだけど、でも、足は速いんだよ、百メートル、県大会で八位だって言ってた」

「あ、凄い」

「とにかく私は確かめることにしたわけだ」

「何を?」

「彼女の夢を、というわけで、こいつの出番なのよ、」ハルカは魔導書の上に手の平を乗せてタタンと表紙を叩いた。「なんと偶然か、私はちょうど、夢見の魔導書を持っていた」

「さすが、勉強熱心だこと」ミヤビは言った。

 ハルカはトワイライト・ローラーズの中で一番、魔法に興味を持っている。彼女以外の三人は、魔法自体にそれほど関心がなかった。高校生の日常に魔法が必要なシーンなんてない。魔法よりもアイナは古い時代からある占星術に夢中だし、ニシキは絵を描くことに夢中だし、ミヤビは魔女たちの傍にいれたら、なんだか楽しい。だから魔導書を開くのは、素敵な魔女になりたいと思っているハルカだけだった。

「それでどうだったの?」

「マヨちゃんがアリスの夢を見ていたのは本当だった、全く同じストーリィを確認することが出来ました、それはちょっと、驚きだったね」

「へぇ、なんの暗示だろう、同じ夢を繰り返す」

「何か、理由があるはずだよね、その夢に価値があろうがなかろうが、同じ夢を繰り返す理由はあるはずだ」

「森村先生は心理学でも紐解いてみるつもり?」

「うん、」ハルカは小さく頷く。「とりあえず入門書を今読んでいるところ、でもちょっと理解不能意味不明ね、天体史に比べるとファンタジック過ぎてペテンに掛けられているみたいな気分になって諦めそうになるんだけど、なんとか噛り付いてる」

「でも、本当に不思議、なんで、マヨちゃんだっけ、なんで彼女は現実にも夢の国のアリスがいるだなんて思うんだろう?」

「可愛かったわ」

「え?」

「夢の中のアリスちゃんは可愛かった、金髪の外人さんでね、本当にお人形さんみたいで抱き締めたくなったね、でも必死で我慢した、マヨちゃんのことを邪魔したら悪いし」

 ミヤビはハルカのことを湿った目で見た。「ロリコンめ、夢の中の少女にまで手を出そうとするとは」

「え?」ハルカはニッコリと微笑み首を竦める。「ロリコンなんて、そんな、酷いなぁ、酷い言い掛かりってものだよ」

「ハルカってロリコンでしょ?」

「違うよ、」ハルカは大きく首を横に振る。「絶対にロリコンなんかじゃない」

「アイナとニシキが嘆いていたよ、あのロリコンめって」

「嘆かれる意味が分からないけれど、」ハルカは首を右に傾けて言う。「私はミヤビも好きよ」

「え、私って、そんなにベイビィ・フェイス?」

「え?」


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