第一章⑪
放課後、錦景女子は雨に濡れている。
生徒会長のミハルは生徒会室の窓の傍に座り、じっと雨に濡れる景色を眺めながら、黄昏ていた。
生徒会の秘書のウタコは、ミハルの黄昏を邪魔してはいけないと思って静かに仕事をしていた。
ミハルはよく黄昏る。
最初は彼女がウタコを困らせるために黙り込んでいるのだと思っていた。しかしミハルが黄昏ているとき、つまりこんな風に窓辺で頬杖付いて外を眺めているときは、何かを集中して考えているときで、別にウタコを沈黙によって苦悩させようということではなかったのだ。
とにかく彼女は今、何かを考えている。
今日は何?
それは大事なこと?
それとも猥褻なこと?
ミハルの考えるポーズはいつも同じだ。表情も真剣。彼女は真剣な表情で哲学を思っているときもあれば、真剣な表情で猥褻なことを考えていたりもする。
黄昏の後はいつも、決まってミハルは突拍子もないことを言う。
それはつまり結論。長考から出た答え。それを導くまでに彼女は長い論理を辿ったことだろう。
そしてそれはすなわち、言葉の理由。
だから、それを知る術を持たないウタコは。
どんなことを聞いたって。
理解不能意味不明なのだ。
「言いたいことがあるの」
視線を景色に向けたままミハルは急に声を出した。
そら来たと思いながら、ウタコの体には緊張が走った。
その緊張は、ミハルのことをすぐに分かってあげたいとウタコが思っているから。
だから構える。
私だけはあなたのことを分かっている。
そういう素振りを見せたいから。
形だけでも、示していたいの。
例えそれが間違いだとしても。
ミハルの声をじっと待つ。
「温泉に行きたい」
「え?」ウタコは今日も首を捻らなければならなかった。「温泉?」
「うん、」ミハルは振り返り、悪戯な笑顔を見せた。「ウタコと二人で」