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山の日

 山の日だったので山を探しに出かけた。

 山は素晴らしい。ただそこにあるだけで、われわれの目を楽しませてくれる。実際に登れるとなおよい。山を登攀し、攻略することは我々男性陣にとって大きな喜びである。

 残念な現実もある。古来より山紫水明の地といわれる我が国だが、実際には山の数はそれほどに多くはない。街に出て、こうして周囲を見渡してみても、目につくのは山とは呼び難い、せいぜい丘くらいの盛り上がりばかりだ。新たな山を発見することは難しい。

 これでも昔に比べると、白書における平均は増大しているのだという。確かに、尾根を押し上げるほどの霊峰が一種の病であると見做されていた時代もあった。だが今では、それは誇るべき大地々であり、多くの男性を惹きつけてやまぬ魅惑の根源である。このことを寿ぎ、祝日まで設けられたのもむべなることであろう。山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する。素晴らしき趣旨であろうと思う。

 だが惜しむらくは、我々男性の多くは、それらに親しめる機会は少なく、感謝するべき恩恵が与えられることもまた稀だ。山は我々に安らぎをもたらしてくれるが、険峻で人を容易く寄せ付けぬ面も持っている。我々がいかに「お嬢さん、その素晴らしき山々を少々登攀させていただけませぬか」と懇願したところで。凍てつく吹雪で歓待されるならまだしも慈悲がある方で、場合によっては手痛い打撃を被ることになるだろう。

 私もまた、今、山を発見した。下から見ても横から見てもいい山である。山の日であるからには、ぜひとも登頂に挑んでみねばなるまいだろう。どうして山に登るのか、そこに山があるからだとはけだし名言である。

 早速登山を試みる。が、やはりその道程は容易くはなかった。例えば、日の設定である。文明が成り立ち、記録がつくられはじめれば、その文明が大きく損なわれぬ限り、歴史は積み重ねられる。歴史が積み重ねられれば、必然的に「何かが起こった日」というのは増える。二千年ほども積み重なれば、最早「何も起こらなかった日」というのは存在しない。

 はじめは八月十二日に定められるはずだったのだという。だが、過去、その日に山で大きな事故が起こった事実があったことから、山の日は一日ずらした十一日に定められた。おそらく過去の歴史を紐解けば、山で何も起こらなかった日というのは、ごく少数に留まるであろう。その中で、起こった事件の大きさと、現在の歴史との間隔の短さなどを鑑みて、今回は考慮されるに至ったのだ。世の様々なことは、かような綱引きで出来上がっているものである。

 私は大いなる山を覆うものを紐解きたいのであるが、問題はこれだけでは終わらない。本来ならオリンピックのためにという名目で、八月十一日から一日ずらした八月十日に変更されたことは諸兄もご存じのことであろうかと思う。泰山は容易く鳴動せぬはずなのにも関わらず、何とも腰の据わらぬことである。もちろん個人的には大山は鳴動していただいた方が嬉しい。私の鼠は逃げ惑うどころか喜んでむしゃぶりつくであろう。

 ちなみにこれを数字で並べれば810である。これを081と並べ替えれば何と読めるか。答えはここに記すまでもない。

 つまりすべてははじめから仕組まれていたのである。我、本日も登頂に失敗す。慰め応えてくれるのはいつも二次元の山ばかりである。

 諸君、ゆめゆめやましい気持ちにはご注意あれ。



(完)


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