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かぜのこ

 雪が降ると、かぜのこが育ちはじめる。

 昔に比べるとかぜのこを見る機会も少なくなったが、こうして久々に雪が降ったときは別だ。街角のそこかしこから、普段は見ないかぜのこが、にょきにょきと顔を見せはじめる。そうして自ら自身を掘り起こすと、雪の上を嬉しそうに駆け回るのだ。

 俺も昔は犬からだを持っていて、こういうときには庭を駆け回っていたものだが、今では猫からだになってしまって、こたつで丸くなるのを身上としている。何よりこういう場合のかぜのこのテンションは異常であるから、できうる限り近づかないに越したことはない。

 そんなことを思っていたら、見つかった。

 部屋にこもる人間を見つけたかぜのこは、その頑丈な根っこを伸ばして人間を捕まえ、一緒に外で遊ばせようとする。俺のいるこたつの近くまで幾本かの根っこが伸びてくる。

 こたつごと俺を外へと引きずり出そうとするかぜのこ。俺は必死で抵抗する。最早かぜのこではない俺がこの雪の中長時間遊ばされたら、間違いなく体調を崩してしまう。何より人は歳を経るごとに、暑さ寒さにはどんどんと耐えがたくなるのだ。認めたくはないものだが、そうなのだ。

「そんな寒空の下にいられるか! 俺は部屋に帰らせてもらう!」

 こたつを引っ張り部屋に戻ろうと力を振り絞る俺。だがヤバいハイテンションのかぜのこは、人ひとりの力などものともしない。俺はずるずると雪景色の中へと引き出される。

「おのれ、人間をなめるなよ」

 俺はこたつの中からのこ切りを抜き出す。昔は頻発していたこういう事態に備えて据え付けられていたものだ。長らく使っていなかったが、腕前はともかく刃は錆びついていないはずだ。

 早速根っこを切り離しにかかる。それを察したかぜのこは、根っこを丸め、身体をこたつにぴったり張り付けて、まるで亀のようになる。これをのこのこという。

 のこのこになったかぜのこを切るのは難しい。丸まった根は堅く、切り離すには熟練の技を要する。俺には無理だ。

 こうなったかぜのこを撃退する方法は一つしかない。ファイアボールだ。

 こたつ布団をめくって、熱源を近づけてやる。それを嫌ったかぜのこは、根の束縛を解き、ようやくこたつから離れてゆく。

 やれやれ。おれはこたつを元の位置に戻すと、丸まってぬくぬくとする。これこそが最低限度の健康で文化的な生活というものだ。雪の中ではしゃぎまわるのは、かぜのこに任せておけばいい。生き物にはそれぞれに棲むべき世界というのがあるのだ。

 そんなことを考えているうちに、俺はうとうとしだす。

 目を覚ましたとき、俺と炬燵は雪降りしきる空の下だった。かぜのこたちは家の方を持ち去っていったのだった。



(完)

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