財宝道具
その家で代々用いられているという農具の材質を調べてみて、私は驚いた。
二百年ほどもの間受け継がれ続けていると聞いたときから、怪しんではいたのだ。それはとても硬く、径年劣化しにくい金属でつくられていた。
他の地域では宝飾品として扱われている金属だ。だが当の持ち主は、それを知ってはいないようだった。変色しやすい金属なので、農具に使われているその部分は真っ黒になり、とても貴金属であるようには見えない。だが辛抱強く磨けばおそらく、輝く地金が姿を見せることだろう。
とにかく頑丈で、どれほどに堅い土壌であっても掘り起こせるので、重宝しているのだという。価値の捉え方は違うが、彼にとってはまさしく財宝であるようだった。
こいつらと共に曾爺さんはここら一帯を拓いたらしいからな。まあ、うちの家の歴史ですわな。そのように笑って語る農家のご主人は、どこか誇らしげに見えた。
うちの宝はもう一つありますのよ。屋敷へ招き入れてくれた奥方は、やはり笑みを浮かべてそう語った。
奥方が私の前に広げたのは、針と糸と、様々な布切れだった。
針を調べてみると、これもやはり農具と同じ金属であった。奥方が集めている糸や布も、どことなく高価なように見受けられる。
だがご主人や奥方が身につけている衣服も装飾品も、別段目を惹かれるものでない、ごく普通のものだ。私は不思議に思った。
「これはね。魔法の針と糸ですの。これで縫い上げた衣装は、不思議な力を持つのですのよ」
魔法。そのようなものが、この世に存在するというのだろうか。
見てみたいですか、と奥方が問う。ぜひに、と私は答えた。
ちょっと待っててくださいね、とそれらの裁縫道具を抱えて、奥方は部屋の奥へと消えた。これまでに様々な地域を回り、それぞれの土地に根を下ろす人々が持つ隠された宝というものを数多く取材してきた。
それらの中には、材質であったり、職人の工夫であったりで一見魔法と思われるようなものは確かにあった。奥方が言うのもきっとそのようなものであろう、と思ったのだ。
奥方が戻ってきた。
私は驚いた。なぜなら、部屋に入ってきた奥方は、下着姿だったからだ。紫色を基調に、黒のレースがふんだんにあしらわれたブラジャーとショーツ。前部とサイドにワンポイントで赤色が織り込まれているファッショナブルなものだ。先ほど見せられた高価な布で織られたものだと、一目でわかった。
それより何より驚いたのは。失礼ながら女性的魅力には乏しいと感じていた奥方の胸部や臀部が、魅力的なまでに発達しているように見られたからだ。それは、着やせするタイプ、などといった言葉では到底納得できないほどの変化であった。
「魔法だ」
思わずそんな言葉が、口をついて出た。
奥方が私にしなだれかかり、耳元で囁いた。あの人、農場に出て今日は戻らないの。
私はむしゃぶりついた。まさに宝であった。
二つの宝をこの目でしっかりと確認し、私は屋敷を辞去した。これまでの取材と比べても、それは他に代え難い経験であった。
何を宝と感じるか。それは、そのもの自体の価値ではなく、それを手にしたものがどう感じるかで決まる。このシリーズを通しての私の持論を、大きく納得させるものであった。価値観の多様性。それこそが、それぞれの者の手にそれぞれの宝を抱かせるのだ。
あの家には近々宝がまた一つ増えるかもしれない。そんな思いを抱きつつ、私はまた次の取材先へと向かうのであった。
(完)




