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たびだち

 娘が戻ってきた。忘れ物をしたというのだ。

 旅に出る、と言って一度家を出てから、戻ってきたのはこれで四度目だ。

 一度目は下着を詰め忘れたと言って戻り、二度目はポーチに財布を入れ忘れたと言って戻ってきた。三度目の理由は、アイラインを引くのを忘れたとか、そんな理由だった。

 昔からそそっかしい子で親としては手を焼かされたものだが、どうやらその性格は、大きくなっても一向に直る気配がないようであった。

 電車や飛行機の時間は大丈夫なのかと聞いたら、それが駄目になったから戻ってきたのだという。

「もう一度、予約を取り直さなくっちゃ」

 そんなことを呟きつつ、家にある黒電話のダイヤルを回している。携帯電話は、またどこかに忘れてきたらしい。

 よく物を忘れたり失くしたりする娘であるが、運がいいのか日頃の心がけがいいのか、それらはいつの間にか娘のもとへ帰ってくる。手帳や財布のような貴重品であればまず間違いなく誰かが交番や駅長室などに届けてくれているし、ペンや傘といった小物であれば、後日同じようなものか似たようなものがプレゼントやら何やらでもたらされる。幼い頃は失くしたものをまた買い与えたりしていたのだが、いつも重複するのでそのうちにやめてしまった。

 そういえば、どこへ行く気だったのだ、と聞いてみた。

「世界一周旅行!」

 という元気な声が返って来た。その迂闊な性格でまた何でそんな壮大な旅を、と思ったのだが、何だか地球を手に入れたような気分になれるじゃない、とのことだった。

「あーあ、手に入れ損なっちゃったなあ、地球」

 予約が上手く取れなかったのか、ぶつくさ言いながら娘が受話器を置く。私は見ていたテレビに視線を戻した。

 画面は緊急ニュースに切り替わっていた。地球とほぼ同じ大きさの彗星が、突如出現して地球に近付いている、とのことだった。


(完)


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