神核化
祭壇には缶が祀られている。
その私の身長ほどの大きさである金属製の缶が、御神体であるという。この地に長く先住している彼らはそれを、力の象徴として崇めている。
記録が残されている。あるとき、この島で大きな地震が起こった。そのときにできた地の裂け目の、奥深い場所からそれは掘り起こされたのだという。
掘り起こされたのは一つではなかった。今ここに祀られているのと同じようなものが、裂け目からは多数吐き出され、島の各地に散らばり、転がっていたのだという。
その頃、島を支配していたのは、我々でも彼らでもなかった。我々よりももっと大きな種族が島中を跋扈し、我々の先祖を虐げ、支配していた。この事実は我々だけでなく、彼らの歴史にも同様のものが残されている。
我らの先祖は愛玩され、またやつらの害となる小さな生き物を捕えることで巨大なものたちに求められ、彼らの先祖は吠え猛り危険を察知することで、巨大なものと共に生きることを許された。だが形は違えど、我々がその大きなものの支配を受けていたことは等しく同じである。
地中から掘り出された缶を、大きなものたちはどうやら恐れていたようだった。それらを探し、集めては、どこかへと運び出した。その際にはいつも、全身を白い衣に包んでいたそうであった。
だがやつらは、すべてを探し出すことはできなかった。いくつかの缶は残され、地上に転がっていたのだった。
そのうちに、島に変化が起こった。大きなものたちの数が、減りはじめたのだ。
いや、大きなものたちだけではなかった。我々の先祖も、この地の民の先祖も。島に住んでいたあらゆる種族の数が、凄まじい勢いで減りはじめた。
弱い者や年老いた者だけでなく、若く元気であったはずの者までもが、原因もわからず体調を崩し、死んでゆく。そんなことが、起こったのだという。
数が減った大きなものたちは、他の種族への支配を放棄した。そうして我々は、自由を得たのだ。
事態は深刻であったが、自由を前脚にした我らが先祖たちは必死で生きた。そしていくらかの者たちがこの恐ろしい呪いに打ち勝ち、現在ある我らの祖となったのである。
大きなものどもは滅んでいた。そうして我らとその他いくつかの種族が、この島に覇を唱えることとなったのだ。
この缶こそが我らの変化をもたらしたのだ、と長老は言う。彼らの先祖が散らばった缶の一つを見つけ、ここへと運んだ。それ以来、この地では大きなものどもが他の地より早く死んでいったのだという。
彼らの仲間も多く死んだが、今の姿を持つ子らが産まれる数も、他の土地より多かった。そうして彼らは他の種族より早く一大勢力を築くことができた。
それがこの御神体のおかげだと。彼らは信じている。
御神体に近づくことは許されなかったが、缶にはひどく錆が浮いている。缶は間もなく割れ、我らをつくりだした神が顕現されるであろう。長老はそう語る。
我らの祖の記録にもある。祖らがまだ大きなものどもに支配されていた頃。食糧として、時折缶が与えられることがあったという。それは普段与えられる堅くぱさついた食糧とはまったくちがう、まさに神から与えられたかのような食べ物であったという。
やはり缶の中には神が詰まっているのであろうか。缶を割る日、再び我々の取材に応じてくれると、長老は約束してくれた。私は今から、その日が待ち遠しくてたまらない。
中から現れるのは神か、神の食物か、それとも。その結果はまたいずれ、本欄にて皆様にお伝えしたいと思う。
(完)




