三匹がイヌ!
「だから四丁目のジョンイルに武力行使をするなら今しかないと言っているのだ」
政治家のイヌが隣町へも届けとばかりに大声で吼えた。それが三匹の、議論開始の合図となった。
ジョンイルは、先日この街に引っ越してきた大会社の社長一家が連れてきた大型犬だ。飼い主に似て尊大かつ横暴で、この一帯を住処にしているイヌたちは皆何らかの迷惑や害を被っていた。
「同胞たちはヤツの横暴に耐えかね、いつ怒りが爆発してもおかしくない状態だ。世論はこちらに傾いている。今なら一同皆牙を取って我々に協力してくれるだろう。やるなら、今しかない」
政治家のイヌが口から泡を飛ばして激しく吼えかかる。静かに聞いていた司法制度のイヌがメタルフレームを輝かせて吼えた。
「しかしそれは犬法違反だ。我が地区の犬法は、我が地区からの先制攻撃及び武力行使を認めていない」
「ならば犬法を変えてしまえばいい」
国家権力のイヌが事も無げに吼え放った。彼はこの地区一の強硬派であり、最初に武力行使を提案したのも彼だった。
「犬法改正か……。それはまずい。反対するものがたくさん出てくるだろう。どうだろう。ここは一つ、特別法をつくって一時的措置を行うというのは」
「法を個犬の意思を通すためにのみ、恣意的に用いることは許されない。それは立犬地区としての腐敗だ」
三匹の吼え声が一層大きくなった。
「改正するべきだ。我々の牙は何のためにある。鋭い爪は何のためについている。改正するべきだ」
「しかしそれでは我々の飼い主が納得しまい」
「ではやはり交渉による解決を目指すべきです」
「いやしかし、あのジョンイルがまともな交渉に応じるとは……」
「叩き潰すべきだ。アカとカルトは撲滅するべきだ。それが世のためだ」
路地の一角を舞台とした三匹の遠吠え論争は、終わる気配を見せなかった。
ネコ派の青木はその様子を自宅二階の窓から眺めていた。
「しかし何だね。あの三匹の飼い主が同一人物というのは、正直どうかと思うね」
(完)




