スカイマーカー
風が強く吹いている。翔ぶのに最適とは言い難い環境だ。強風に凪がれてアルファは僅かに顔を顰めた。
進行方向斜め前でブラヴォーが合図を送っている。アルファは操縦席から親指で合図を返した。
ヘルメットから通信。
「歴史的瞬間だ。後世のために、何か名言でも残しておいちゃどうだ」
「一九九X年、世界は核の炎に包まれた」
「あん?」
「昔、そんな物語があった。しかも、沢山」
「ああ」
だが今じゃもう、古びたSFだ。陽気なブラヴォーの声。それから通信終了。
そうだろうか。通信の切れた操縦席で一人呟いた。
そんなお伽噺があったから、望まない未来を回避しようと努力した。その言葉があったから、今を変えようと努めた。
表出することはない。だがそれを成した者が、きっといる。世界が続いていること。そのために戦った者たちが、きっといる。
翼も。想像力も。それは羽ばたかせるためにある。
発動機が回転数を上げる。アルファは風防を展開した。
「よい旅を(グッドラック)」
暴力的なG。銀色の浮遊機が甲板から切り離される。畳まれていた両翼を力強く伸ばす。蒼く澄んだ空に、一筋の曳航線。
未来へ向けて今、巨鳥が飛び立った。
(完)




