さつき病
体調が優れなかったので病院に行ったら、さつき病と診断された。
担当してくれたのは眼鏡をかけた女医さんで、名前をさつき先生という。もしかしたら本当は違う名前なのかもしれないが、、病気になった僕にはどんな名前もさつきと聞こえる。
「それで、どんな症状が出るもんなんですか」
「主にやる気の減退から来る、記憶力の低下ですね。特に嫌なことを率先して忘れるようになるそうですよ」
「それ、むしろ罹患した方が嬉しいこともなくないですか」
「そういう考え方もありますね」
それでこの時期に発症する人が多いのだろう、とも思った。世の中は忘れたいことで結構溢れている。新生活のスタートダッシュに失敗したならなおさらだ。
だが、日常生活に支障が出るのも間違いない。
「治りますかね」
「長くともひと月くらいで完治しますよ。あと、日頃からできるだけ楽しいことを考えるようにしてください」
僕は頷いた。これも鬱屈のたまりやすい現代社会における、人体の浄化作用というものなのかもしれない。
「ところで先生」
「何ですか」
「それで、どんな症状が出るもんなんですか」
「さっきお話しましたよ」
(完)




