伝染タイツ
俺の周りでタイツが流行っている。
気付いたのは先日のことだった。確かに近頃急に寒くなって来たから、やたらとレギンスというか、そういうのを履いた女が増えてきたなあ、とは思っていた。そう思えたのは、俺が常に女の脚に注目しているからだ。
だからこそ、生足の女がいなくなったことにも俺は気付いた。街行くOLや社会人はもとより、ファッションは根性、生足は正義と信じている女子高生連中までがその脚を薄いナイロン地に包んでいる。真冬というわけでもないのにだ。
そういえば、と俺は思い出した。今年の冬はタイツがアツい、とかいうような記事を何かで目にしたことがあった。これはつまり、それが原因なのか。
人通りの多い駅前を歩きながら改めて観察してみると、そこはやはりナイロン地を下半身に纏った女性が至るところを闊歩していた。それも、普通のものだけではない。あるものは、その太股の部分に蝶のマークが浮かび上がっているし、あるものは全体にハートが散らしてある。色も肌色や黒、灰色といったものだけではなく、赤や黄や緑、金色や虹色なんてのもある。
もっとすごいのを見つけた。タイツの両側面に「安心と信頼の馬車馬堂」と文句が入れられている。あれは宣伝タイツだ。コード状のものをぐるぐると巻きつけたような、これはもうタイツじゃないだろうと思うようなものもあり、そこには雀が三羽とまっていた。あれは電線タイツだ。
それだけではなかった。空が、見る見るうちにサテンの肌合いに染まっていく。タイツを身に付けた脚々がトレンカ体制でレギンスを組み、俺に向かって攻め寄せて来る。
俺は走って自宅を目指した。
扉を開け、部屋に駆け込む。爪切りを取り出し、やすりで爪を磨く。
部屋の中も、つるりとした生地に覆われていく。それを無視して、俺は再び街へ飛び出した。
「でんせーん!」
叫びをあげて、一列に並んだ太股にむしゃぶりつく。そうしてから思いっきり爪を立てた。
「でんせーん!」
次の脚に飛びつく。同じように引っ掻いた。
次の脚へ。次の脚へ。俺を包み込む何かを破るために、俺はその行為を続ける。町にはただ、俺の叫び声だけが響いていた。
(完)




