表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/81

流れ星

 雨が降るかせめて曇りになってくれと願っていたその日の天気は、生憎の晴天だった。

 どうしよう。今朝から、その言葉がずっと俺の頭の中で十六倍速回転している。

 悪いのは浮気をした俺の方。それはわかっている。でもこの状況じゃ仕方がないじゃないか。そう思ってしまう俺がいるのも事実だ。

 三ヶ月ほど前。同じわし座のアルシャインちゃんとコンパで出会った。解散後、意気投合した俺たちはそのまま白鳥座にあるラブホテルへ入った。

 別に恋愛感情があったわけじゃない。お互いに快楽を交換し合っただけだ。関係したのも、その日一日だけ。その後はまったく連絡を取り合っていない。

 それなのに。織姫がどうしてそのことを知ったのか。しかも、こんな最悪のタイミングで。

「明日、殺す」

 昨日織姫から届いたメールには、それだけが記されていた。だがその一言には、彼女の怒りが十二分に込められているように感じた。

 逢いに行くのをやめようかとも思った。だが、今日彼女と逢うことをやめれば、その瞬間から俺は彦星ではなくなってしまう。それに、浮気をしたのは事実だが、織姫への愛が薄れたわけではなかった。

 そもそも一年に一回しか逢えないという今の状況が問題なのだ。織姫に逢えないという寂しさが、俺を浮気に走らせたのだ。逢いたいときに彼女に逢える状況があったなら、俺は浮気なんてしなかった。アルシャインちゃんの巨乳は確かに魅力的だったが、それでも浮気はしなかった。と、思う。

 いい機会だ。もっと逢える時間をつくれるように織姫と話し合おう。浮気のことは悪かったと、先手を打って謝ってしまえばいい。それから、あとは有意義な語らいを交わすのだ。そうだ。そうしよう。

 俺は頬を平手で叩いて気合いを入れた。恒星からの光を反射して、目映く輝く天の川。そこに今日一日だけ架けられた、絢爛豪華な瑠璃の橋へ一歩を踏み出す。

 橋の向こう側に、人影が見えた。今日というこの日にあの場所にいるのは、ただ一人のはずだった。

「織姫」

 俺は満面の笑顔を浮かべ、小走りで織姫のもとへ向かった。そして彼女の顔がわかるくらいまで近づいたとき、俺は己の考えの甘さを知った。

 織姫が長大なナギナタを振りかざして、俺に飛びかかってきた。


「ママ、見てー」

「まあ。七夕に流れ星だなんて、何だかロマンチックね」


(完)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ