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スクリーンヒーロー
隙間から差し入れられたのは、七インチくらいの小さな液晶画面だった。
ヘルメットを被った、煤だらけの顔が淡い光の中に映る。がんばってください。もう少しですから。耳障りな轟音の中で微かに、上の方から声が聞こえる。声に合わせて、画面の中の口が動いた。
熱さで意識が遠くなる。身体中が汗で湿っているのに、口腔内は渇ききっている。水が、水が欲しい。
騒音は止まない。積み重なった瓦礫を取り除いているのだ。崩れないように。慎重に。大きいのは音ばかりで、背中に架かる重みは先ほどから変化がない。
画面の中の顔が替わった。さっきまでと同じ、煤だらけだ。けれども、今度はヘルメットを被っていない。
がんばって、ママ。
今度は声は聞こえない。どこか安全なところにいるのだろう。でも、口の動きでわかった。何度も繰り返してくれるから、わかった。
これでもう少しがんばれる。そう思った。
(完)




