ラストワード
自分の命がもう長くはないだろうことを、俺は悟っていた。
真横から殴りつけるように撃ち込まれた9mmパラベラム。おそらく太い動脈か静脈を傷つけたのだろう。腹部に空いた穴から血液が止めどなく流れ出している。手足が痺れ、感覚がほとんどなくなっている。もうすぐ、立っていることもできなくなるはずだ。
扉のノブに手をかけたところで、そのときが来た。すぐそばの壁にもたれかかり、ずるずるとへたり込む。限界が、近づいていた。
「ジェームズ!」
人の気配を感じたのか。開いたドアから顔を出したナタリーが、俺の姿を見て驚きの声を挙げた。地面には大きな血溜まりができているはずだ。驚かない方がどうかしている。
俺は彼女のために戦ったのだ。最後に彼女の顔を見ることくらい、許されたっていいはずだ。
「ジェームズ! いったいどうしたの? それに、この傷は……。ともかく、早く救急車を呼ばないと!」
家の中へ戻ろうとするナタリーの右腕を俺は掴んだ。もう手遅れなのは俺自身が一番よくわかっている。命の蝋燭が完全に燃え尽きる前に、どうしても彼女に伝えておきたかった。
最後の力を振り絞り、心の内にずっと秘め続けていた一言を、俺は彼女に投げかけた。
「君を愛している」
意識が薄れ、魂が肉体から抜け出していくのを俺は感じていた。そして薄れ行く意識の中で、彼女の返答を聞いたような気がした。
「え? なに?」
(完)