今日は何の日
その日会場へ行くと、タルバン星人がスーツを着て立っていた。
「……タルバン星人」
そう。『ベルトラマン』に出てきた、ベルトラマンに倒される悪役の、あのタルバン星人である。
タルバン星人は友人とおぼしきもう一人のタルバンと何かを言い合い、鋏を振ってふぉふぉふぉと笑っていた。言葉は、勿論私には通じない。
横を見る。
そこにはメドロン星人がいた。でこぼこのない顔のオレンジが非常に鮮やかだった。
周りを見渡す。他にもたくさんいた。メヒラス、ファイト、ズッポリト、チベル……あまり並べるとそっち系の人に思われてやばいと書くとそれはそれでまた語弊があるわけではあるが、とりあえずそういうことなので並べるのはこれくらいにしておくが、とにかく星人が、沢山ある、もといいるわけである。
私は、今度は後ろへ振り向いた。
「……君」
「今日はセイジン式ですから」
私が何か言う前に、秘書は答えた。私は何も言い返さなかった。
「……ベルトラマンは来ないのかね?」
「何をリアリティのないことを言っているんですか。テレビの中じゃないんですよ」
何か間違っているような気がしたが、考えるのをやめた。頭が痛くなってきたからだ。
「……日本語は、通じるのだろうか?」
「さあ……。まあ、一番平易な日本語で、喋って下さい。ひょっとしたら通じるかもしれませんから。あと、彼らは非常に飽きっぽいので、手短に」
私は益々気が重くなった。が、やらねばならない。これは仕事なのだから。
私は壇上に立ち、上から一同を見回した。振り袖姿のチベル星人は不気味だった。気分を落ち着けてから、喋り始めた。
「ええ……」
その途端。空気が一気に緩んだ、ような気がした。
あちこちで、様々な星人語が飛び交った。光線や熱線も飛び交い、辺りは爆音に包まれた。私の話が終わったあとに振る舞われるはずであった酒に手をつけている星人もいた。
「何だ、何なんだ、これは!」
「ああ。だから手短に、といったのです」
「それよりも、こいつらは人の話を聞けない馬鹿ばかりなのか? 異星人は我々より頭がいいと相場が決まっていたのではないのか?」
「一流大学に入っている人間も数名いるはずですが」
「……何の話だ?」
「いえ、ちょっとした戯れ言です」
そんなやりとりをしている間に、騒ぎは益々エスカレートした。私は壇上から叫んだ。
「何だ何だ、君達は! それが星人の行いか! 静かにして話を聞きなさい! めでたい式典で浮かれるのはわかりますが、そういうのはあとで幾らでもできるでしょう! いや、あとででも、一目で成人式帰りだとわかる服装でカラオケ屋やボーリング場やゲームセンターで暴れ回るのはやめなさい! あれは非常にみっともない! 周りの人々から、こいつらのどこが星人だという目で見られているのがわからないのか、君達は!」
言い終えた瞬間、私の周囲に数本の熱線と光線が走った。後ろで秘書の悲鳴が聞こえる。
見ると、会場のスタッフも、皆星人どもに襲われていた。
「い、いったい何を……」
口を開こうとしたとき、横から殴られた。壇上に倒れ込む。目の前にはタルバンがいた。 タルバンはしゃがみ込み、小さな声で囁いた。
「今日がセイジン式だってのは、誰が決めた? この国のお偉いさんだろう、うん? もっと言うと、俺らをセイジンだと決めたのは誰だ。お前らだろう、うん? 俺らには俺らのルールがある。俺らの中では、今日はこの国の滅亡記念日なんだよ。はははぁ」
それは違う、と言おうとしたが、声には出なかった。タルバンの振り上げられた鋏。それが私の見た最後の光景だった。
(完)