あるまじきアルマジロ
楚人にアルマジロを売ぐ者あり。
「こちらのアルマジロの鼻は、とても鋭く、どんな盾でも貫き通す」
楚人は胸を張り、右手から一頭のアルマジロをぶら下げて、見物人に見せつけた。
「そしてこちらのアルマジロの甲殻はとてつもなく強固で、どんな槍の穂先をも弾き返すことができるだろう」
そうして左手で、丸まったアルマジロを掲げてみせる。
「ちなみに名前を、アルマ次郎という」
最前列にいた子どもが、鼻を伸ばしたアルマジロの方を指した。
「こいつの名前は?」
「アルマ……ゲドンだ」
余計な情報は付け足すべきではない。商売の鉄則だった。
「ところで」
後ろの方から老人が声を上げた。
「右のアルマジロの鼻で、左のアルマジロの甲殻を突けば、いったいどうなるかね」
楚人は額を叩いた。投げ捨てられたアルマジロは空中で三回転半捻りすると、楚人の前で器用に静止してみせた。十点、の声が幾つも上がる。
「いけねえ。そいつは試したことがなかった。いい機会だ、一度やってみよう」
楚人が地面を叩く。二頭のアルマジロが丸まりを解除し、向かい合った。次郎は陰の構え。対するゲドンは陽の構え。
楚人は大声を張り上げる。
「さて皆々様。どっちに賭ける?」
(完)