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死に方自慢

「わしはベニテングタケを食って死んだ」

 それ、また作蔵爺さんの自慢話が始まった。何度となく聞いたその一言を耳にした俺はちょっぴり陰鬱な気持ちになった。

 作蔵爺さんは、この道一〇〇〇年というベテランの幽霊だ。少々気難しいところがあるが、後輩の面倒見がよく、真正直な性格なので皆からは好かれている。ただ老人にありがちな長話と、繰り返される自慢話には誰もが辟易していた。

「わしが食ったことで、あれには毒があることがわかった。わしが身を挺したからこそ、今、ヤツらはあれを食べることが危険だと知っておるのじゃ」

 生者にはわからないだろうが、どのような死に方をしたかということが幽霊社会では一種のステータスになる。生前どれほど地位や名声を築いていた人間であっても、自殺や他人に恨まれて殺された人間は、幽霊社会では大きな顔ができない。逆に、他人のために命を投げ出した人間や、後の社会に何らかのよい影響を残したものは尊敬を集めることができるのだ。

「俺だってフグを食って死んだんだ。キノコなんぞよりもよっぽど上等じゃぞ」

 負けず嫌いの五右衛門さんが、話に割って入ってきた。作蔵さんが気分を害したような表情を見せたが、すかさず五右衛門さんの隣に座っていた庄一が横槍を入れた。

「五右衛門はん。あんたの場合は確か、みんなが内臓を残していたのを、もったいないからいうて自分一人で全部食ってしもたんやなかったか」

 五右衛門さんの話は、後世には笑い話として伝わっていた。本人には思いも寄らないことだっただろう。五右衛門さんは霊体中を真っ赤にして、小さく萎んでしまった。

「ともかく、だ」

 霊界では長老と呼ばれているニニギノミコトが重々しく口を開いた。

「我々幽霊は、かのように生者たちに様々なものを残してきた。我々の犠牲があったからこそ、彼らは今の豊かな生活を営むことができるのだ」

 全員がその通りとばかりに頷いた。

「だからこの時期に我々が少々悪さをしようとも、彼らはそれを甘んじて受けるべきだ。これは我々幽霊の権利である」

 あちこちから賛同の雄叫びがあがった。作蔵爺さんも、五右衛門さんも一緒に叫び声をあげていた。

「それでは皆のもの。今年も参ろうか」

 何億もの幽霊が嬉々として地上界へと飛び降りていった。俺も心が躍っていた。

 盆と呼ばれるこの時期の間だけ、我々幽霊は地上界へ降りることができる。普段刺激の少ない霊界であるから、みんなこの時期を楽しみにしている。だから地上に降りた幽霊は、ここぞとばかりに生者に悪戯を繰り返し、ストレスを発散させるのである。

 生者にとってはいい迷惑だろうが、彼らだってそのうちこっちに来るのである。これくらいは我慢してもらわなければ。

 さて、今年はどんな悪戯をしてやろう。そんなことを考えながら、俺は地上へと飛び降りた。


(完)

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