第6話 好きな人が近くにいるのに好きになれない
零夜は最近夜になると涼介のことばかり考えてしまう癖がついた。
このことをファンの間では「涼介作用」と言う。
夢にも出てくるくらいに涼介が自分の中で大きくなっていく。
それと同時にKanaと涼介の関係のことで苦しくて切なくなるのだ。
自分は涼介が好きなんだと気づいた零夜だったが
応援すると言ってしまったことを思い出し嫌いになろうとがんばった。
今日は全員仕事がなく、自分の部屋で全員過ごしていた。
零夜はリビングの大きいソファに座り、Sweet★Kissという
Sweet★Kissだけしか載っていないインタビュー集やシングル解説などが入った
雑誌を読んでいた。
もっともっとほかのメンバーを知れるように毎日時間があればSweet★Kissを調べている。
そこに聖がやって来た。
「零夜。」
「なんですか?聖さん。」
「勉強するのもいいけど、息抜きも大切だぞ?」
「ありがとうございます。でも、知ることに無駄はないですから。」
「差し入れで貰ったお茶、今入れるから。」
「あ、ありがとうございます。」
聖の気遣いは時にメンバーの癒しになる。
疲れてヘトヘトでもイライラしていても聖が何かとやってくれるのだ。
お茶を入れてくれたり
歌の練習をした後はおいしいレストランに行かないかと誘ってくれたり。
涼介も大も頼ってばっかりなのは事実だが、聖は気にしていない。
むしろ人を世話するのは好きなほうだという。
零夜の座るソファの前においてあるおしゃれな木で出来たテーブルに
カラフルなティーカップをおく聖。
湯気がホワホワと出ていて熱そうだ。
「あ、おいしい!すごくいいお茶って感じです。ありがとうございます聖さん。」
「零夜は新人だ。慣れないこともあるだろうけど、なんでも言えよ?俺、力になるから。」
「ありがとうございます。優しいですね、聖さんは。わたしじゃなくて・・僕・・。」
「俺の前では僕じゃなくてもいいぞ?気にしてないし。楽だろ?」
「ありがとうございます・・聖さん。」
その頃涼介は一人外出していた。
出かけた先はスタジオ。
今日は雑誌の特集で涼介のソロで取材したいと
アイドル雑誌「はぴねす」が申し出たからだ。
「はぴねす」はアイドル雑誌で一番売れている人気の雑誌。
小学生高学年から20代前半まで幅広い世代に売れている若者雑誌。
人気アイドルの連載とショットがあるので
切り抜きをしたり、何冊もためて部屋に置いたりと
捨てたくない!と思わせる貴重な特集ばかり。
アーティスト特集という連載には数多くのイケメン俳優や国外の歌手など
いろんなジャンルから今一番注目された芸能人を特集する連載も人気だ。
こんかいはその、アーティスト特集に涼介が担当する。
「Sweet★Kiss涼介」ではなく「薊涼介」として
普段の涼介らしくない衣装で2ページを飾った。
いつもは着ない紺と白と緑のボーダーが少しついたカーディガンに
七分丈の黒いパンツとカジュアルでPOPなスタイル。
中に着ているTシャツは外国で自分で買ったというおしゃれな模様のTシャツ。
となりのスタジオでは久しぶりに「POPPOP」という雑誌に登場したKana。
その撮影で5時間もいろんな衣装を着て撮影をするようだ。
2時間半経つと一旦休憩が挟み、Kanaのマネージャーの佐藤という女性がこう言った。
「隣のスタジオに涼介さんですって。ソロ撮影って珍しいですよね~。」
そんな話を聞き入れ何やら悪いことを考えているような顔になったKana。
一体この先、何をやらかすのだろうか。
スタジオである4階のロビーにある休憩所のソファに腰掛、携帯をいじるKana。
そこに何も知らずにやってきた涼介と会う。
「ねぇわたしと付き合うって話どうなったの?」
「あと2日でお前との期限も終わりだ。どうだっていいだろ?」
「あんなの、まともに信じてるとでも思ってるの?」
「何だよ、お前。」
「あれは嘘。付き合わないとスキャンダル流しちゃうわよ?」
Kanaの一方的な告白をずっと断り続けてきた涼介にKanaは怒り
無理やりでも付き合っている関係にさせたかったようだ。
前に2人で会ったときは1ヶ月付き合ってくれたらいいという条件。
実はその約束は嘘だった。
ずっと付き合ってないといろいろと噂を流すという脅しまでかけてきた。
「好きにしろ。別に噂なんて、ファンは信じねぇよ。」
「ファンにばらさない。メンバーにバラすの。」
「・・・・・!?」
「一夜を共に過ごしたような関係だってね。」
「ふざけんな、誰がお前と。」
「だったら。」
「・・・・・・・・・・。」
ー涼介を手に入れなきゃ他の女にとられてしまうー
Kanaの執念は本当に強かった。
そしてKanaが撮影を終えて向かった先は「Sweet★HOME」
メンバー全員にこのことを伝えようと思い、ここまでやって来た。
猫をかぶり、甘い声で「こんにちはぁ~!」とやって来たKana。
聖と大と零夜が玄関先で向かえる。
実はKanaの大ファンだと言っていた大は大喜びして中に入れた。
聖はいつも通り、何かあるんじゃないかと思い、一応涼介に連絡。
連絡しても無理だ。
なぜかというと、涼介の携帯を奪い、電源を切ってそのまま隠し持っているから。
いつも電話には居留守を使わない涼介が出ない。
心配した顔の聖を伺い、Kanaは声をかける。
「涼介、来ないみたいね。いないから先にあなたたちだけに言っちゃうわ。」
「何!?Kanaちゃん!?」
「・・・・・なんですか・・?Kanaさん。」
「涼介とわたしは一晩を共にした関係ってこと。」
一時シーンとなり、誰もが話さなくなった。
いまいち状況をつかめないメンバー。
そこで零夜が手をパンと叩いて立ち上がった。
「そうなんですか!幸せでいいじゃないですか!」
「でしょ~ぉ?応援してね、零夜さんも。」
「え・・・・・・?」
「では帰りますね~!仕事があるので。」
零夜の心の中は悲しい気持ちでいっぱいだった。
今すぐにでも涙が零れ落ちそうなくらいに。
ー好きな人がこんな近くにいるのに、好きになれないなんてー
ついに涙が零れ落ちた。
そんな自分を隠したいと思った零夜は自分の部屋に走り戻る。
ー青い空へ、こんな気持ちを素直に受け止めれるにはどうすればいいですかー
ますますと涼介と会うのが辛くなってしまった零夜。
聖の零夜の想いと大の零夜の想いもさらに深くなっていくのであった。
そしてKanaが考える最大の計画とは?