さんかいめ つく?
・今回も残念クオリティです
・何がしたいかわからないのは…私にもわかりません
がしゃがしゃ
―塔瀬市・バー『ネペンテス』店内―
11月に入り、ますます寒くなってきた塔瀬市内、適度に暖房のきいたネペンテスのテーブル席に樹、満、そして見慣れない女性が座っていた。
女性は突然ヨロヅヤに現れ、依頼をしてきたのだ。
「それで、白川さん、どういったご依頼ですか?」
樹が懐からメモ帳を取り出して尋ねる。ずぼらな満が忘れた時のためのメモ、という側面が強いが、仕事の内容を記録するためのメモだ。
「ユリ、でかまいません…実は先日父の遺品を整理していたときに父が生前大切にしていた瀬戸物の壺が出てきまして」
ユリの話はこうだ。
整理した遺品の中にあった瀬戸物の壺が何度倉庫の奥にしまいこんでも倉庫の入り口に出てきている。倉庫の鍵を厳重に管理したが、まったく効果がなかったそうだ。
「それで、何かの霊障ではないか、と考えたんですね」
「とりあえず、調べてみないと何もわかったもんじゃあないですし、明日あたりお邪魔しますよ、ただしかなり遅い時間になりますがね」
樹の確認に次いで満が話を進める。遅い時間になるのは『何か』がいた場合、一番活動している時間だからなのだが、わからないのかユリは怪訝そうな顔をしている。
「霊障なんかであれば、深夜の方がわかりやすいんです」
怪しまれては困ると考えたのか、樹が補足説明を入れると、納得したようにユリが頷く。
その後、翌日伺う正確な時間や報酬等の事務的な話をすると、ユリは帰って行った。依頼者を事務所ではなく半ば無理やりネペンテスに連れてきたのだから、それくらいはさせてほしい、という樹の言い分によって会計は樹達が持つこととなった。
「所長、あの人有名なメイクアップアーティストですよ?」
売れっ子メイクアップアーティストという、思わぬ有名人の依頼に驚いた様子の樹に対し、満は至ってドライな反応を返す。
「どんな有名人だろうが面白くない依頼なら蹴るつもりだったんだがなぁ、まぁ…話を聞くに面白いものが見れそうだ」
『面白いもの』が何か予測がついているのか、煙草をくわえた満の口角が少し上がる。
当然樹も何が出るか気になるが、聞いたところで満が答えるはずがないのはわかりきっているので、何も言わずにグラスの酒を飲む。
「2人とも、『もったいないおばけ』って知ってる?」
突然、グラスを拭いていたマスターが2人に尋ねる。
「昔放送していたCMですか?」
心当たりがあるのか、樹が答える。
「そうそう、ああいうCMをもっと流すべきやねんけどなぁ…今の子はものを大事にする習慣が薄くなってるし」
樹の反応がうれしかったのか、マスターは笑顔で語る。
余談だが、マスターは20年近く前に関西から塔瀬に来て、ネペンテスでバーテンダーとしての修行をしていたらしい。その後店を継いで、今に至る。
「マスター…俺、わからないんですが…」
テレビを全く見ない満が置いていかれていることに不満そうな声を漏らすと、樹が説明する。
「昔あったCMで、食べ物を粗末にした子どもの枕元に現れて脅かすって内容のアニメなんですよ」
「あぁ、そりゃいい内容だ…食べ物でも何でも、粗末にすれば祟られるからな」
3人はそんな話をしながら酒を飲み、早朝になるまで語り明かした。
―翌日深夜・住宅街―
「依頼者の家の場所聞いてる?」
樹の予想どおり、話をほとんど聞いていなかった満が尋ねると、待っていましたと言わんばかりに地図が樹の懐から出てくる。
手書きながら、丁寧な地図と照らし合わせると、どうやら近くのようだ。
と、言うか考えるまでもなかった。
「すごく…大きいですね」
樹の視線の先には大きな土塀に囲まれた平屋建ての日本家屋があった。
「あー、こりゃ大きい…あと、気配もちょっと大きいな」
満も家の大きさに圧倒されつつ、警戒と水筒の酒をあおるのを忘れない。
呼び鈴を鳴らし要件を伝えると、ユリが出てきた。深夜というのもあり、少々眠そうだ。
「こんばんは、早速ですが…俺は調査に行きますのでね…」
一礼すると、満は何かに誘われるようにふらふらと歩いていく。
「すみません、所長はああいう人なんです…」
樹が申し訳なさそうに謝罪すると、ユリはとんでもない、というように首を振りながら満の後を追う。
「問題の倉庫はこっちなんですが…所長さんは場所がわかるんですか?」
やはり疑問に思っていたらしく、ユリが尋ねる。事前に調べていたわけでも聞いたわけでもないのに、迷わず倉庫に向かって歩き出したのだ、気味が悪いだろう。
「妖怪だとか、そういうものがいたら僕らは気配がわかるんです、所長はそれを辿って行ったんでしょう。」
そんな説明をしつつ敷地内を歩くと、暗闇にそびえる倉庫と、その前に座って酒を飲む満が見えた。
「あと10分、依頼者さんは霊感ある?」
よくわからない前置きとともに、満が質問すると、ユリは首を横に振る。
「ならこれ目蓋につけて、あとは待つだけ」
満が差し出したのは小瓶だった。中身は聖水か何かだろう。目蓋につけて一時的に『そういうもの』を見やすくしようという魂胆だ。
10分後、倉庫前で座って待っていると、異変が起き始めた。
倉庫の扉をすり抜けて、何かが出てくる。全身陶器でできた武将のような何か、頭が琵琶になった何か、顔の浮かび上がった鏡のような何か、顔のある水瓶のような何か、その他諸々が列をなす。
「ほう、予想以上にレアもの揃いだな…」
満は満足そうに目を細めているが、ユリはそれどころではない、顔面蒼白になり、今にも気絶しそうだ。
「所長、何なんです?こいつらは」
ぞろぞろと歩く『何か』たちを指差し、樹が聞く。
「先頭は瀬戸大将、頭が琵琶なのは琵琶牧々、鏡は雲外鏡、水瓶はたぶん瓶長…いすぎて全部はわからんが、みんな付喪神…いわゆる魂のある道具だ、本来それほど害はない…あと依頼者さんは落ち着いて」
早口に説明し、水の入ったペットボトルを差し出す。
付喪神たちは敷地内をぐるりとまわり、倉庫まで戻ってくると、今度はそれぞれ散らばって見張りでもするように周囲を警戒しだす。
「あれは何をしているんでしょうか…」
落ち着いたのか、ユリが付喪神の様子を観察していると、がしゃがしゃと音をさせながら瀬戸大将が近寄ってくる。
ユリの前まで来た瀬戸大将は軽く頭を下げるような動作をすると、またどこかに歩いていく。
「今の、父が生前大切にしていた壺です…いつも倉庫の入り口に出てきていた」
瀬戸大将の頭部の壺に見覚えがあるらしく、ユリが追おうとすると満がそれを止める。
「待った、たぶん依頼者さんとは会話できないと思うから、俺が話してくる」
そう言って、満が瀬戸大将のところに走り寄り、何事か話しだす。双方が頷いたり、何か身振り手振りを交えて話している様子を樹たちが見ていると、満が戻ってくる。
いたく感心した、という顔の満の話を要約するとこうなる。
瀬戸大将の本体である壺はユリの父に相当大切にされていたらしく、その恩を返そうとしたのだが、その前に亡くなってしまい、ならばとその娘であるユリへ恩返しをしようと思い立ったそうだ。
そして、夜間になると家の敷地内を警邏し、家とユリを守ろうとしていたというのだ。
「そんなことが、あるんですね…」
驚いた様子のユリがつぶやくと、満が続ける。
「迷惑であればやめる、と言っていたが…どうする?」
妖怪である彼らは自分達がうろうろしていることで主人に迷惑がかかっていないか考えながら動いていたのだ。
「いえ、彼らの気持ちはとてもうれしいですし、理由さえわかればそう怖くもありませんから」
父の遺品を筆頭とした倉庫の物たちが父を思い、自分を守ろうとしていることを知ったせいか、ユリは心なしか感動した様子だ。
満がそれを瀬戸大将たちに伝えると、彼らはうれしそうに小躍りしながら倉庫に消えていった。
結局、その日はそれで樹たちは帰ることとなった。
―さらに翌日・バー『ネペンテス』店内―
いつものようにカウンターに樹と満が座り、グラスを傾けながら話している。
「丁度、もったいないおばけみたいな感じなんですかね」
「まぁ、お前さんやマスターの話から察するにそうだろうよ」
2人は一昨日の話と今回の付喪神の話をしている。もっとも、粗末に扱ったからではなく、持ち主が心底大切にしていたからこそ魂が宿ったからこそ今回の付喪神なのだが。
「どんなもんでも大切に使ってたらそれに応えてくれるもんなんやな」
毎度仕事の顛末を聞かされているマスターがしみじみとつぶやく。そんなマスターの腕にはまる腕時計は父親の遺品なのだそうだ。
「マスターの時計もそうかもしれませんね」
決して高価な時計ではないが、使い込まれた時計を見て、樹が冗談めかして言うと、樹がそれに重ねる。
「うん、あと数年もすれば立派な付喪神になると思いますよ」
それを聞いてマスターはなんとも言えない表情になる。大切なもので愛着はあれど妖怪となるのは嫌なのか、それともより愛着がわいたのかは本人にしかわからない。
「それはともかく、ユリさんがあの妖怪達と仲良くできるといいですね」
「まぁ、大丈夫だろう、瀬戸大将が良い奴だったし」
「そういう問題ですか?」
「そういうもんだ」
おひさしぶりです、あるいははじめまして、金武です。
いつも極限まで低いクオリティかつ短文で大変申し訳ありません…
毎度毎度、回を追うごとに樹が空気になってる気がしますが…彼には都市伝説が相手の時に活躍してもらいます。