8話「天才少女、人生大波乱」
ミレニー・フィフ・トレンディングは剣が得意なうえ魔法の勉強も完璧にこなす天才少女。
そんな噂が国内に広がったこともあって。
気づけば私は位の高い家の子息である同じ年齢の彼ビャフットと婚約することとなっていた。
とはいえ、勉強することについて制限を受けるわけではなくて。
だからそれでいいと思っていた――しかしそんなに上手くはいかず、歩みは思わぬ壁に遮られることとなってしまう。
「ミレニー。たまには俺と遊べよ。いっつも勉強してる女とかあり得ねぇって」
というのも、ビャフットは私の行動を良く思っていなかったのだ。
「申し上げたはずです、私は今後もできる限り勉強を続けていくと」
「そういう問題じゃねえんだって!」
「理解できません」
「はああ!?」
「初めにすべてを明かし伝えたはずです」
常に魔法を学ぶ。
剣の腕もより高めていく。
それが今の私の生き方だから、そこは変えられない。
「だ! か! ら! そういう問題じゃねえってのに……ったく、ちょっとは周りの女たちを見てみろよ。おしゃれしたり、茶会の話したり、恋の話をしたり、そういう女らしいことしてるだろ? ミレニーだって女なんだから、たまにはそういうこともしろよ」
ビャフットが押し付けてきているのはただの理想像である。
おしゃれが好きだったりお茶会ばかりしていたり恋の話をすることが好きな女性はもちろん多いだろう。べつにそれを悪と言うつもりはないし、それがやりたいことならやっていればそれでいい。その人にとってはそれが最良の過ごし方なのだろうから。自分でそれを選んでいる人に対してあれこれ口出しするつもりは一切ない。
ただ、女といってもいろんな女がいる。
誰もがおしゃれ好きなわけではない。
誰もが恋の話好きなわけではない。
中には私みたいな女もいる。
「私には私の道があるのです」
「はああ!? 女のくせにそんなこと言うのか!? 生意気すぎるだろ!?」
「どうか理解してくださいませんか。称賛してくれとは言いません、冷たい目を向けていただいても構いません。けれど、私には私の生き方があるのです。どうか、そこだけは理解していただきたいのです」
一応希望を述べてみたところ。
「できるわけないだろ!! もういい、婚約は破棄だ!!」
ビャフットは何の躊躇いもなく関係を叩き壊し終わらせた。
その後も剣と魔法の勉強を続けた私ミレニーは、やがて国防軍へ加入し、この国において女性初となる兵士となった。
「女性で兵士って……嘘みたいな話ね、信じられない、でも……とってもかっこいいわよね!」
「わたくしもそう思いますわ~」
「素敵な女性だよね! 憧れる。んもーっ、尊敬しかないわ!」
民は私の存在を意外と肯定的に捉えてくれていた。
「サインほちいよぉ、サインサイン、サイン、サインサインサインほちいよぉ、ほちぃ、ぼぢぃ、ぼちぃよぉ、サインほちいよぉ」
「あんたはもう黙ってて」
「ほちいほちいほぢいほぢいほちいほちいほちいほちい」
「いい加減にしてっ」
中には少々イタめのファンもいたけれど。
「ミレニーさん! 応援しています!」
「輝いていますね!」
「姉ちゃん、女性初の兵士なんだってな! 頑張ってくれよ。時代を変えていってくれ!」
温かいファンも多くいた。
期待されているからこそ、それを裏切ることはできない。
より強く。
より高みへ。
私は歩んでゆく。
……ちなみにビャフットはというと、あの婚約破棄の後数週間ほどが経ったある夜ストレス発散のために家の前で縄跳びをしていたところ転倒し頭を打って病院へ搬送されその後落命してしまうというまさかの最期であったようだ。
それから数年。
兵士として男社会の中で歩み続けたミレニー・フィフ・トレンディングはこの世を去った。
夜道で「結婚してえええええええ! 同性でもいいのおおおおおおおお! 結婚ぢでよおおおおおおおおおおお! 愛ぢでるううううううううう!」と叫ぶ女性ファンに急襲され、その女性を止めようと一人の兵が咄嗟に投げたこん棒が眉間に命中してしまったことで、ミレニーは命を落とすこととなってしまったのだった。
「ミレニーさん……ご、ご、ごめん……ごめん、なさ……ごめ、ん……なさ、い……本当に、その、本当に申し訳なく……ぅ、ぅぅ……思っ、て……」
慌ててこん棒を投げ結果的にミレニーの命を奪うこととなってしまった兵は罪の意識に苛まれ、事件から数年、毎日のように独り泣いていたという。
ちなみにこの時の言動が過激な結婚して系女性ファンは、後に、別件にて逮捕されたようである。




