20話「虹色の瞳の」
『あなたは死にました』
気がついた時、目の前にいたのは女神だった。
虹色の瞳。珍しい宝石のような独特の色をした眼。間違いない、あの時の女神だ。この世界に存在する女神の数など無限だろうし、それゆえ即座に判別することは難しいだろうと思っていたが、実際に目にしてみたらすぐに分かった。
「以前会った女神さま……ですよね?」
『覚えていましたか』
「はい。とても美しい瞳の色なので。一目見て気づきました」
『褒めてくれてありがとう』
女神はふっと頬を緩める。
『いよいよその時が来ましたよ』
「その時、って……」
『世界を救う時です』
「や、ややや、やっぱり……!?」
いずれそうなるということは知っていた。
前に女神が教えてくれたから。
でも、まさか、その時がこんなにあっさりとやって来てしまうなんて。
「やはり……そ、そうなの……ですか!?」
冷静に言葉を発したいと思っているのに身体が言うことをきかなくて。
喉が、声が、震えてしまう。
『そうです、間もなくその時が来るのです』
「です、よね……。でも、どうすれば良いのでしょうか。世界を救うだなんて、できる気がしません、それも自分一人で……」
『安心してください。荒波を越えてきたあなたには既にその力が備わっているのですから、あとはただひたすらに前を向いて歩むだけで良いのです』
女神は真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
ああ、そうか、逃れられないのか……。
今はとても怖い。どんな敵なのか、一体何と戦うことになるのか、考えれば考えるほどに恐怖が込み上げてくる。これはきっと無知ゆえの恐怖なのだろう。敵の形が掴めたならば、恐怖も多少は薄まるだろうに。でも今はまだ何も分からない。それゆえ、湧き上がる怖さを落ち着けることはまだできない。
『どうか、世界を救ってください』
そう発して、女神は消えていった。
どうして私なの? 理由の説明なんて一切なかった。なのにそんな大きな役目を押し付けられるなんて理不尽過ぎる……なぜこんなことになってしまったの? どうして私がこんな恐ろしい立場にならなくてはならないの?
脳内には大量の疑問符。
今になって溢れてくる。
でも……もう逃げることはできない。
ならば突進していこう。
もう何も考えず迷わず。
ただどこまでも突き進んでみよう。
――きっと大丈夫だから!!
◆
精霊族の王女マリー・カロリエッタとして生まれ落ちた私は、両親はじめ多くの近しい者たちから愛されて育った。
「マリーさま、明日はいよいよ結婚式ですね!」
「ええ」
「緊張なさっているのでは?」
話しかけてくれているのは私が赤子だった頃からいろんなお世話をしてくれていた六十代くらいの女性ニーナ。
「ローガンさまも楽しみになさっているでしょうね」
「だと嬉しいのだけれど」
「大変魅力的なマリーさまと一緒になれるのですから、ローガンさまはきっと幸せを感じているはずです」
「貴女はいつもそう言ってくれるわね。……ありがとう、嬉しいわ」
……だがいざ蓋を開けてみたら。
「マリー・カロリエッタ! 貴様との婚約は破棄とする!」
ローガンは私を愛してはいなかった。
彼の隣には一人の女性。
二人は知人友人と言うには不自然なほどにくっつき合っている。
結婚式当日の朝、ローガンは私を切り捨てる言葉を発した。
「俺は貴様とは生きん」
「え……」
「フィレアン、この彼女こそが、俺の愛する女性だ」
ローガンの隣に立っている女性はうふふと嫌みな笑みをこぼしていた。
「そんな。あまりにも酷いですよ、こんな仕打ち。許されません」
「あんたさぁ……いい加減どっか行きなさいよ」
「私はローガンさんに話をしているのです。貴女には話しかけていません」
「は? あんた、生意気なのよ。あたしはローガンが愛してる女よ? 今ここであんたと話すのはあたし! 決まってるのよ」




