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婚約破棄され泣きながら帰宅している途中で落命してしまったのですが、待ち受けていた運命は思いもよらぬもので……?  作者: 四季


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17話「決して負けはしない」

 その瞬間を目にしていた民らから湧き上がる歓声。

 それは一種の波のうねりのようであった。

 良い意味で凄まじい迫力のある歓喜の声は地鳴りには起こすほどの迫力があった。


「ベガウディさま、そしてマリィさん、今ここで謝罪してください」


 私は前もって指示されていた通り言葉を紡ぐ。


「な……ふ、ふざけるな! そんなことできるわけがないだろう! こんな多くの者がいる前で、一国の王子たる僕が謝罪など……そ、それに! そもそも僕に非はない! 僕らの関係は純愛そのものなんだ。悪いのは僕でも彼女でもない、僕に他の女を見させるような関係しか築けない君だよ!」


 ベガウディによる謎の主張を耳にした民らは一斉に批判の声を発する。


「おかしいだろ! 何言ってんだ!」

「浮気者のくせに王女さまを悪く言うなーっ」

「いい年して謝ることもできないのか!」

「なんてこと言うのよ! 素直に謝りなさいよ!」


 罪深きメイド・マリィは怖がっている小動物のようなあざとい表情を面に滲ませながらベガウディの後ろに隠れている。


「ああ、マリィ、君は何も恐れなくていい」

「……で、でもぉ」

「大丈夫。僕は決して負けはしない。マリィ、安心して。皆に見せてやればいいんだ、僕たちの心を、僕たちの大きな愛を」

「怖い、ですぅ」

「心配しなくていいよ、僕がついているからね」

「……ぅ、ん、分かり……ましたぁ」


 二人のやり取りは見ていて非常に不快なものであった。


 だが今の私は有利な立場にある。少なくとも集まった民の多くは彼らの味方ではなく私の味方だ。それがどんなに心強いか。私は一人ではない、そう思えるだけで、不快な言動をぶつけてくる彼らと対峙する気力はどんどん湧き上がってくる。


「リリネ、僕たちは本当に本当に愛し合っているんだ」

「ええと……当初のお話によれば指導だったのでは?」

「ッ……それ、は」

「ではやはりあの時仰られたことは嘘だったのですね」

「嘘、ではない……」

「指導であったのなら愛がうんぬんなどといったお話にはならないはずです」

「分かった! この際、本当のことを言う! 僕らは愛し合っている!」

「ではやはり最初の言葉は」

「あれは嘘だった! それは認めよう! けど、仕方がなかったんだ。僕らは身分違いだったから、あの時はああやって言うしかなかった」


 ベガウディとマリィはなぜか手を繋いでいる。


「婚約破棄は受け入れるよ。僕としてはちょうど良かったし。ありがとうリリネ、おかげで僕は真の意味で愛しているマリィと結ばれることができる」

「何を仰っているのですか?」

「え」

「マリィさんと結ばれることができる? ……冗談はほどほどにしてください」

「何を言って……」

「理解していただけていないようですが、ベガウディさまは罪を犯したのです。罪を犯した者がその先の人生を普通に生きていけると本気で思っていらっしゃるのでしょうか。だとすればあまりにも脳内お花畑です」


 そうよ、こんな大問題を起こしておいてあとは自分の好きなように生きていこうだなんて……烏滸がましいわ。


「ベガウディさまとマリィさんには、今ここで罪を償っていただきます」


 片手を掲げると付近から兵士が現れる。


 一人は剣を握っている。

 一人は魔術書を持っている。


 彼らは我が国の忠実な兵士だ。


「自分勝手な行動で我が国の平穏を乱し、それでいてまだ謝罪の一つもしない。そこまで悪しき行いを重ねられるのであれば、こちらが打つ手はもうそれしかありません」


 民からは声援が飛んできている。


 ……大丈夫、私は一人じゃない。


「まずマリィさん」

「な、何なのよぉ……」

「今回のこと、謝ってください」

「嫌よ、嫌よそんな、謝るなんてぇ……だってぇ……愛を否定したくない……」

「謝罪は拒否されるということですね」

「……そ、そうよぉ! 謝らないわ! 絶対に! ……もう、こんな、嫉妬で騒ぎを起こすようなこと……やめてぇ」


 一瞬だけ瞼を閉じて、それから。


「分かりました。では……ここまでです」


 次の瞬間、マリィは剣を持った兵士によって処刑された。


 正直私もこんな結末は望んでいなかった。

 でもこうなってしまった。

 それがどういうことかというと、彼女の選択が彼女に命を落とさせたのだ。


「マリィ!! な……なんという、ことを……」


 ベガウディは動揺しているようだった。


「き、貴様!! 悪魔か!! なぜマリィにこんな酷いことを!!」

「貴方が勝手なことをしたことが原因でしょう」

「こんなこと、する必要なかっただろう!!」

「それに貴方は自身の罪を認めなかった。最後まで謝罪の一つすらせずでした。この悲劇を招いたのは貴方自身です」


 青ざめた彼はやがて。


「ゆ、許さない……許さない、絶対に……許してたまるかぁぁぁぁぁぁ!!」


 私に向かって突進してきた。


「ぐぎゃ!」


 だがその途中で魔術書を持った兵士に軽い魔法を命中させられ倒れ込む。


「貴様ら! 絶対に許さない! 罪人どもめ! 穢れた悪女である王女には! 必ず天罰を下してやる! 許さない許さない許さないぞ! 絶対にだ! 許してたまるか! 僕は一生かけて! 貴様らに復讐する! あんなに可愛かったマリィが理不尽に傷つけられ! 命を落としてしまって! それで黙っていられるものか! 悪女、魔女、穢れた王女! 決して許さない! たとえ血液一滴になっても! 僕は貴様に、貴様らに、復讐してみせる!」


 ベガウディは地面に倒れ込んだままで叫び続ける。


「リリネさまになんてこと言うのよ!」

「許されないのはお前だって!」

「何様のつもり!? いい加減にしろー! ここはお前の国じゃないぞー!」


 私が言い返さなくても民らが言い返してくれた。


「今すぐ! マリィを返せ! 蘇らせろ! それができないなら! 僕は一生貴様らを許さない! そして、リリネ! 貴様は特に! 特に許さない! 人生を懸けて! 許しはしない! たとえ僕が落命したとしても! それでもマリィのために! この世にとどまって! 精神だけになっても! それでもなお! 生きてやる! 僕は徹底的にやる! 絶対に諦めない!」


 民らが味方してくれている限り、私は何も恐れずに立っていられる。


「マリィの仇を! 必ず! 必ず! とってやる! 彼女を傷つけたやつ! 絶対に許しはしない! それが嫌なら、今すぐマリィを返せ! 今ここで蘇らせろ! すぐに! 十秒以内に! それができないなら! 僕は永久に貴様らを呪う! 許さず! 絶対に許さずに! 何度でも! 復讐する! 貴様らに天罰を下す! この手で! 絶対に、絶対に、だ!」


 冷たい風が吹いて髪が頬に当たる。

 覚悟を決めろと言われているかのようだった。


「……ベガウディさま、さよならの時間です」


 平穏は崩れた。

 彼の裏切りによって。


「僕を処刑する気か!? この偉大なる王子ベガウディを!? そんなことしてみろ! 母国は怒るぞ! 絶対に許さないぞ! 戦争になる! それが分からないのか!? そんなことさえ分からなくなってしまったか!?」

「そうなれば貴方の国が亡ぶだけ……」

「ふ、ふざけるな! リリネ! 貴様はどこまで悪女なんだ! どうしてそこまでに悪になれる!? ……あ、ああ、そうか、魔族だからか。代々穢れを受け継いできている魔族だからそんなことができるのか」


 その時背後から一斉に怒りの声が飛んだ。

 それは自身も魔族である民たちからの怒りの声であった。


「穢れ!? ふっざけんな! 魔族に対してなんという偏見を持ってるんだ! 俺達はなぁ、穢れてなんかいない! ただ魔族という種なだけだ!! 馬鹿げた勘違いすんな!!」

「そうよ!」

「侮辱するやつなんて大嫌い!!」

「種族に対してあれこれ言うとかサイテー!!」

「お前さすがに発言酷すぎるだろー。おかしいだろー。色々変だろー。せめて自分がしてしまったことについて謝れよー」


 ベガウディの味方はこの場には一人もいない。


「う……な、なんなんだ、貴様ら……そんな、そんな、一方的に言いやがって……許さない、許さないぞ、絶対……僕が魔族でないからと見下して……許せない、許せるわけがない、そんな……おかしいだろ、そんな……許せる、ものか、こんな仕打ち……よってたかって責めるなど……集団で責めて押し潰そうとするなど……なんなんだ、一体……貴様ら、どれだけ罪を重ねるつもりだ……いくら穢れた魔族だとしても、もう少し、守るべき礼儀があるだろう……」


 今になって涙目になるベガウディ。


「ではここまでです。……さようなら」

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