15話「人気者の王女」
兵士になってからの暮らしは穏やかそのものだった。
当然職務内容としては穏やかではないのだけれど。
結婚を見据えて、だとか、婚約をうんぬん、だとか、そういった話が絡んでこないので常に気楽だったのである。
「サンドイッチ持ってきたぜぇーいっ!」
「よっしゃ食お!」
「パルストアさんも食べる?」
「いただくわ」
「はいよ! じゃ、これ! どぉぞーいっ!」
「ありがとう」
「なんだこりゃ美味すぎだろ! ひいい! うめえ! うめえぞお!」
「パルストアさんの口には合った?」
「そうね……とても美味しいわ。特にこの炙りハムなんて最高ね」
「よっしゃあああああああ! きたあああああああああ! 褒められたぜぇーいっ! うっひょおおおおおお! うっほおおおおおおおぃ!」
仕事は大変でも仲間がいたから乗り越えられた。
「そういえば、パルストアさんのご両親って、兵士されてたんだよね?」
「ええそうよ」
「きっとすごく強い方たちだったんだろうね」
「実際に見たわけじゃないから分からないけれど、噂によれば、そこそこ有能だったみたい」
「やっぱりなぁ。そうだと思ったよ。だってパルストアさんもすっごく有能だもん」
「そう言われるとちょっと照れる……」
「あはは。でも事実だよ。パルストアさんはいつだって努力してるし、仕事での成果も出してるし、ほんとすごいなって思ってる」
ここでなら楽しく生きられる。
その確信が今の私にはある。
だから私は厳しい環境だとしてもこの場所に身を置いておきたいのだ。
兵士として生きている時、私は、最も自由な状態であることができる。
「もっと食おうぜ!」
「パルちゃん、これ飲む?」
「いただくわ」
「んじゃ入れまーっす! はいよ! はいよ! はいよっこらはいよ!」
「入れ過ぎよ……」
「飲め飲めぇーい!」
「もういい! もういいから! 一旦止めて!」
「……あ、はい、すみません」
自分らしく生きられる場所を見つけたパルストア・オイリーンだったが、やがてとある戦場にて命を落とした。
長く生きることは叶わず。
しかしながら、最期まで剣を握り戦った勇ましき乙女であるその人は、国の歴史に名を刻むこととなった。
戦いに身を投じ、国のために生きた、最強の女兵士パルストア・オイリーンとして――。
◆
魔族の王のもとへ生まれた。
我が名はリリネ。
高貴なる魔族の王女リリネ・アンチテールは最強の女性。
「偉大なるリリネさまーっ! 愛していますー! こっち向いてぇー!」
「愛おしすぎるぅぅぅぅぅーっ!!」
「可愛い顔をこっちに見せてくださーいっ」
「もっとこっち見てぇ! 好きぃ! 愛おしいよぉ! 愛しているよぉ!」
「どこまでも偉大な王女さまぁ!」
「姫様ラブゥ! 姫様キュートォ! 姫様ラブゥ! 姫様スキスギテアノヨイクカモォ!」
生まれた時から民に愛されていたリリネは、王女というお固い位に生まれたけれど、理解ある親に恵まれたこともありのびのびと育った。
「大好きよぉ! リリネさまぁ! もーっとその高貴なお顔を見せてぇ! 視線を送って、もっと心を奪ってよぉ!」
「ちゅきぃぃぃぃぃ! あいちてるぅぅぅぅぅぅぅ!」
「偉大なる王女さまぁぁぁ! ずっとずっとこの国を導いてくださぁぁぁい! どうかお願いしますぅぅぅ! 気は早いですけどぉぉぉ、今のうちにお願いしておきますぅぅぅぅ!」
王女リリネは民から大人気。それは赤子の時だけではなかった。ある程度年齢を重ねても人気は衰えず。むしろより一層多数から愛されるようになっていっていた。ここまで人気になるのは初めてかもしれない、と思いながらも、私は王女リリネとして日々を生きている。
中には過激なファンもいるけれど、愛されているのだと受け止めれば苦しくはない。
そんな私はある程度の年齢になると婚約者を作った。
その名はベガウディ。
彼は私たちが暮らす国の隣に位置する国の王の子、つまり第一王子である。
両国の平和のため、形だけの婚約。
分かっているけれど。
それでも私は彼を見つめていた。
変な意味ではなく。
今できることをやろうと思って彼に向き合っていたのだ。
……しかし彼は裏切った。
「マリィ、君は本当に可愛いな」
「本当ですかぁ? うふふ。嬉しいかもぉ。ありがとぉございますぅ」
「今夜どうだい」
「……うそぉ、本気で仰っているんですかぁ?」
「本気だよ」
「遊びでしょお」
「まさか。遊びなわけがない。僕は君に惚れているんだ、本気だよ」
彼は我が王城で働く一人のメイドに手を出していたのだ。
「今夜寝室へ来てくれないかい?」
「で、でもぉ……」
「可愛いね、マリィ。照れるなんて。怖いかもしれないけれど、思いきって来てほしいんだ。怖い思いはさせないから」
「……じゃあお願いしますぅ」
「本当かい!?」
「その……ちょっと、恥ずかしくって……でもぉ、ベガウディさまがそう言ってくださるならぁ……勇気を出して、行かせていただきま」
既に証拠を手に入れていた私は二人がいちゃつく場へ突撃。
「何のお話ですか?」
マリィの言葉を遮るように登場してやった。
「「ッ……!!」」
私の登場を読んではいなかったようで、マリィもベガウディも青ざめている。
その表情を目にすることができただけでも満足だ。
けれどもここで終わりにはしない。
すべきでないことを平気でするような人たちに対して容赦は不要。
「今のお話、私も入れていただいて大丈夫でしょうか?」
敢えて笑みを浮かべて見せる。
「何を黙っていらっしゃるのですか? 私はベガウディさまの婚約者ですので、お話に入れていただいても問題ないはずですよね」
「リリネ、あの……悪いのだけど、もう少しだけ、席を外しておいてほしいのだけれど……」
「私がいてはできないお話だったのでしょうか?」
「あ、いや、ちがっ……そうじゃないんだ。そんなおかしな話なんてしていない。僕はただ彼女に少し指導を」
「……ふふ、そうですよね、まさかそんなことはありませんよね」
ベガウディは口もとをぴくぴくさせていた。
「あと、メイドヘの指導ならベガウディさまが直接行う必要はありません」
「ごめん。けど、僕は直接伝えたかったんだ。間接的に伝えてもし彼女が強く叱られたりしたら困るし」
「なぜベガウディさまが困られるのです?」
「う」
「それに、ベガウディさまは一国の王子であり偉大なる殿下です。メイドなどに意識をお向けする必要はありません」
「なっ……! 君、それはさすがに失礼過ぎるよ。メイドなど、なんて、そんな言い方っ……」




