⑤神罰の光と“声”の再臨(奇跡の瞬間)
――光が、世界を飲み込んだ。
焼けつくような痛み。
皮膚の下で血が沸騰するみたいに、全身が灼ける。
「っ……あ……あぁぁっ……!」
膝が崩れ、床に落ちた手が震える。
冷たい大理石の感触が、最後の現実を告げていた。
視界が白く染まっていく。
意識が、遠のく。
――その時だった。
『この世界を、見たいか?』
胸の奥で、誰かの声が囁いた。
静かで、けれど絶対的な響き。
(……この声……知ってる……!)
『ならば、三秒だけ――真実をやろう。』
瞬間、世界が止まった。
眩い光が凍りつき、
燃え上がっていた魔法陣が、まるで絵画のように静止する。
群衆の叫びも、空気の震えも、全てが“無音”になった。
――時間が、止まっている。
セレナはゆっくりと顔を上げる。
動かない王太子レオン。
怒りに燃えた瞳が、空中で止まっていた。
その手はまだ、断罪を指し示したまま。
聖女リディアは、安らかな微笑みを浮かべていた。
まるで“演じられた死”のように、穏やかに。
祈りを捧げる神官たちの唇も止まり、
聖火の炎すら、宙に浮かんだまま揺れない。
「……これが……三秒?」
世界の静止を確かめるように、セレナは立ち上がる。
痛みが、消えていた。
血も、焼け跡も、すべてが跡形もなく癒えている。
(私……動ける……? この間だけ……無敵、ってこと?)
鼓動が静寂に響く。
一秒。
光の粒が宙を舞い、
凍りついた世界を金の霧が包み込む。
二秒。
セレナの目に、歪んだ真実が映る。
――聖女リディアの口元に、毒の痕はない。
代わりに、聖杯の縁に小さな魔法紋が刻まれていた。
三秒。
彼女の瞳に決意の炎が宿る。
(この三秒で……私は、“罪”を覆す。)
次の瞬間、時間が動き出す。
世界が爆ぜるように音を取り戻し、光が炸裂した。
だがセレナの足は、確かに前を向いていた。




