【第5話】悪魔の令嬢、再誕 サブタイトル:—真実の亡霊、王都に還る— 噂の拡散 ― “断罪の姫”の亡霊
王都アルセリアの朝は、いつもより重く、ざわめいていた。
市場の露店ではパンを焼く香りの中に、不穏な噂が混じる。
貴族街のサロンでは、絹の扇を震わせながら令嬢たちが囁き合い、
聖堂の鐘楼では、僧たちが祈りよりも噂を口にしていた。
「聞いたか? 断罪の光を破った令嬢が生きてるらしい」
「あれは悪魔の奇跡だ。神への反逆だよ!」
「聖女リディア様が祈っても、神託は下りなかったんだって……」
“セレナ・ヴァルローズ”。
かつて美貌と才覚で称えられた王都の花。
その名は今、呪いの象徴として人々の口に上っていた。
教会は即日、「異端告解令」を発布。
王都全域に布告が貼られる。
“断罪の光を穢した者、セレナ・ヴァルローズを捕らえ、神の火にて清めよ。”
その瞬間、聖都の大鐘が鳴り響く。
その音は祝福ではなく、告死の響き。
まるで“神の敵”がこの地に生まれたことを告げるかのようだった。
しかし――その頃。
地上から遠く離れた地下の奥底、
かつて教会が封印した廃坑のさらに下、
光の届かぬ世界に“もう一つの王都”があった。
そこは“神に見放された者たち”が生きる場所。
そしてその闇の片隅で、ひとりの女が目を覚ます。
紅のドレスは煤にまみれ、肌にはかすかな焼け跡。
だが、その瞳だけは――静かに黄金の光を宿していた。
セレナ:「……世界は、まだ私を終わらせてくれないのね。」
その呟きは、鐘の音よりも深く、
闇の底へと溶けていった。




