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7 お惣菜屋は好評 珍客がご来店(ケルベロスの子供)



 「今、回復魔法をかけてあげますね」

神父さんはいつもの話し方でそう言って、僕を座らせて回復魔法をかけてくれた。

 「ありがとうございます……」

気が付くと僕の体は、カタカタと小刻みに震えていた。なにが恐ろしいのか。神父さんが怖いのもあるけど……。自分が自分じゃ無くなったみたいで、違う何かが体の中から現れたようで……。制御できなくなりそうで怖かった。


 淡く光っていたブレスレットの光が消えた。イジール達に蹴られたところの痛みは消えたけど、自分が自分じゃなくなる恐怖は残った。


 「とりあえず、……だ」

「え」

 僕は神父さんがなんて言ったか聞き取れなかったけれど、そのあと同じことは言わなかった。


 「痛みはないな? 俺はこいつらを家へ送ってくる。……ああ。うまくやっておくから気にするな」

 神父さんはそう言って三人を担いで行ってしまった。いいのだろうか?


 立ち上がって周りを見てみると、僕のいた場所から地面が円形にえぐれて雑草がなくなっていた。なにかの衝撃があって、土の部分がここだけむき出しになっているのがわかるくらいだ。三人はよく無事だったなとゾッとした。


 「神父さんは味方なの……?」

僕は戸惑ったが、今は三人のことはお願いしよう。少し痛む頭を抑えながら教会へと歩いて行った。

 「女神様……」

教会の中へ入ると誰もいなかった。僕はふらふらと歩いて、女神様の像の前まで行ってお祈りをした。指を組んで目をつぶる。

 「どうして……」

思わず言葉にしてしまった。どうして僕は【魔王】なのですか? 僕は世界征服や破壊を望んでいません。なのに、なぜ……。


 長いことお祈りをしていた。誰もいない教会でお祈りしていたら、気持ちが落ち着いてきた。色々気になるけれど、お総菜屋さんの仕事にかからなければならない。

 「急がなきゃ」

 


 僕は家に戻って、お惣菜やお弁当を作った。この村でよく食べられている、鶏肉の蒸して塩で味付けしたシンプルな定番料理に前世で好きだったおかずを作った。

 

「いらっしゃいませ~! 数は十分にあるので、慌てないでも大丈夫です!」

 なんと僕の家に前へ設置したテーブルの前に、村人達が大勢並んでいた。嬉しい悲鳴だった。自分一人じゃ、対応できないので母に手伝ってもらった。

 「美味しそう~! あら? 珍しいのがあるわね?」

そう言い、この村で食卓には出ない前世の日本の食べ物を作って並べた。

 「はい。鶏肉を衣をつけて揚げた、から揚げ と言います」

日本のおかず大人気のから揚げ。間違いないだろう。


 「へえ! 珍しいわね! じゃあそれと他のおかずと、鳥を蒸したおかずをいただくわ!」

「ありがとう御座います!」

 奥様はニコニコしながらお惣菜をいくつか買っていってくれた。

「美味しそうだな」

 農作業の手を休めて買いに来てくれたようだ。

 「ありがとございます!」

お惣菜やお弁当は飛ぶように売れた。好評だったようでホッとした。


 ほとんど売れて、もうそろそろお店を片付けしようかと考えていた。

「母さん、手伝いありがとう。もうそろそろ片付けようと思うから休んで」

手伝ってくれた母に休んでもらうように伝えた。

 「そう? じゃあ、先に休むわね。たくさん売れて良かったわね」

 母は調理に使った道具を片付けてくれてから、家の中に入っていった。


 「くぅ~ん」

「ん?」

 なにかの動物の鳴き声が聞こえた。不思議に思って鳴き声の主を探した。テーブルの上には、お惣菜が少し残っているだけ。

 ガサガサ……。何かいる気配がする。

「がう」

 どうやら机の下から聞こえているようだ。しゃがんで机の下を見てみると、黒い毛玉が見えた。


 「毛玉?」

もそもそと動く黒い毛玉はまた「くぅ~ん」と鳴いた。

 「ワンちゃんかな? おいで~」

 僕は動物が好きだ。小動物から大きな動物までみんな可愛い。

「がう……」

 ちょっと警戒しているけれどお腹が空いているのかな? 残っている味付けしていないお肉なら大丈夫かな?


 「お腹空いてるの? これあげるから、おいで~」

机の下で僕は、手にお肉を持ってワンちゃんの口元へ近づけた。ワンちゃんはクンクンと匂いを嗅いでから、お肉を咥えた。

 僕の手から離れてワンちゃんは、背を向けて肉を食べた。机の下に道具を置いてあるので、ワンちゃんの姿がよく見えない。

 ハグハグと、美味しそうに食べている咀嚼音が聞こえている。よっぽどお腹が空いているんだな。

 

 「ワンちゃん、もっと食べるかい?」

調理前の肉がまだ残っているので、ワンちゃんにあげようとした。

 「がう!」

 僕がそう言うと返事をしたようだ。お腹が減っているようだし、お肉をあげよう。

お皿にお肉を乗せて、僕の足元に置いた。


 フスフス……と匂いを嗅いでワンちゃんは、机の下から出てきて僕の足元へ歩いてきた。

 「あれ? フード付きの洋服を着ているぞ?」

擦り切れて薄汚れてはいたけれど、フードのついた布の洋服らしきものを着ていた。ちゃんと前足二本にそでを通してるから、着せられたのか。なんだかサイズが合っていないのかモコモコしている。


 お肉の乗ったお皿をワンちゃんの近くに寄せた。

「全部食べていいよ」

僕はしゃがんで怖がらせないように、ワンちゃんに優しく言った。

 「がう」

「がうう!」

 「グルル……」


 「えっ」

ワンちゃんが返事をした。したけど、声が三つ聞こえた。ワンちゃんはよほどお腹が空いていたのか、夢中でお肉にかぶりついていた。

 フード付きの洋服から、モゾモゾして頭がもう二つ出てきた。全部で三つの頭。

「うそ……だろ?」

 ガツガツ、お肉を美味しそうに食べる三つの顔。一つの体に三つの顔。


 「け……ケルベロス、って言ったかな……?」


 まだ小さい黒い毛玉のワンちゃん……かと思った。でもこれは……。

「魔獣……、なのかい?」

 ガツガツ食べているうちの一匹? が顔をあげた。つぶらな金色の目で僕を見た。

チラッと体を見ると、ガリガリに痩せていた。もしかして、しばらく食べてなかったのかもしれない。 

 「あ――。たくさん食べなよ。お腹、空いてるんだろ?」

いくら魔獣でも、お腹を空かせている仔のご飯を取り上げるなんてできない。


 「がうう!」

僕を見ていた一匹が鳴いて、またお肉を食べだした。それでいい。


 ケルベロスの子供だと思うけど、なぜこんなところにいるのだろう? 迷い込んだのかな?

 あらかたお肉を食べ終わったようなので、お水も深いお皿に入れてワンちゃん(ケルベロスの子供)にあげた。

 「くぅ~ん」

「それを食べ終わったら、お家へお帰り」

 ここに長居してもいいことはない。魔獣と人は共存できないのだから。


「がう!」 

一匹が鳴いて、あとの二匹はぺろぺろと毛づくろいをしていた。人間の言葉がわかっているのかな?

 最後に食べてお肉のなくなったお皿を舐めて、ワンちゃん達? は注意深く周りを警戒して帰っていった。

「まさか……、ねぇ」

 まだ小さいからかな? 怖くはなかった。間違いなく、魔獣のケルベロスの子供だった。他の村人に見つかったら、大変なことになっていた。


 とんでもないお客様がいらっしゃった、初日だった。

 


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