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鑑定の結果、適職の欄に「魔王」がありましたが興味ないので美味しい料理を出す宿屋のオヤジを目指します  作者: 厘


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50 マオと魔王 ②


 


  『おい』


 誰かに呼ばれている。

でも眠くて、起きたくない。


  『起きろ』


 誰? 眠い……。起こさないで欲しい。


 『起きなければ、ケルベロスの子は勇者に倒されるぞ。それでもいいのか?』

 

「えっ!?」

それはダメだ! 僕は慌てて飛び起きた。

 「なに? ここは……?」

 周りが真っ黒だ。上半身だけ起こして座っている状態の、自分の周りだけが薄ぼんやり光っていた。


『やっと起きたか』

 「ひっ……!」

うしろから声がして振り返ると、そっくりな自分が立っていた。いや……。人相は僕より、きつめの顔をしている。というか、怖い顔だ。

 「き、君は……」

体の向きを変えて、立ち上がった。……なんだか体が軽い。



『俺は、魔王。()()()()()()()()()()()()

 魔王と名乗った、そっくりな僕は表情を変えずに言った。()でもあり、魔王でもある? 


『まだ思い出せないのか。……ん? ああ、自分に封印魔法をかけているようだな。無意識の自己防衛か』

 魔王は、くっ! と笑った。凶悪な笑い顔だ。自分の顔だけど、自分ではない。不思議な気分で見ていた。


 「ケルベロスは!? 皆、どうなった!?」

ふと思い出してケルベロスや皆のことが心配になった。目の前にいる魔王へ聞いた。


 『自分の姿をまず、見てみろ』

「は……?」

 なんで? と思ったけれど、自分の姿……手のひらを見てみた。手のひらには赤いものがべったりとついていた。

 「なにこれ……、血? え、うわ!」


 手のひらから下の方へ視線を下ろしていくと、体の所々が血だらけだった。

「そうだった……! 僕はケルベロスに? え、もしかして。……死んだ?」

体をひねって、ふくらはぎの辺りを見た。小さな傷はあったけど大きな傷はなかった。


『死んではいない……。今、魂は体から離れているが』

 「それって、死んでるって言うよね!?」

 思わず僕は魔王に突っ込んでしまった。ハッと気が付いて、魔王から目をそらした。


 「それで、ここはどこなの?」

首を左右に動かして、どこを見ても真っ暗だ。魔王は腕組みをして、ふん……! と言って横を向いた。

『ここは俺が作った亜空間だ』

 「なにそれ?」


 魔王はムッとしたが、なんで僕がここにいるか知りたかったし、ケルベロスや皆が心配だった。

『今、体へ戻れば全身激痛におそわれるだろう。ミレーヌが回復魔法をかけているから少し待て』

 「全身激痛? やっぱり死にかけているじゃないか……」

 僕はブツブツと文句を言った。


『……呑気だな。まだ記憶が戻らないか?』

さっきから魔王は、僕の記憶が戻ることを気にしている。――封印魔法と無意識の自己防衛?

 そんなものを自分はやった覚えが……。

 「痛っ!」

 また頭痛が! ズキズキ……ガンガン! とひどくなっていく……! 両手で頭を抱えてうづくまった。


 『……解除』

「ああああああああ――!」

頭の中に知らない記憶が次々と、本のページをめくるように流れてきた。


 「一回目の……転生で、僕は攫われて辺境の村ダンジョン地下へ連れてこられた……? そこは盗賊の住処で、攫われてきた人々はひどい扱いをされていた。僕はたびたび暴力を受けて、()()()そこを滅ぼした」

 だんだん記憶を思い出してきた。あふれる記憶。恐ろしいけれど、思い出さなくてはいけない、なにかがある。


 「逃げ出した僕は、辺境の村リールにたどり着いて村の人に保護された。――ここから、思い出したくないけど。思い出さなきゃ……」

 ズキズキとした頭痛はまだ続いている。魔王は淡々と僕の話を聞いている。


「……ああ。リール村で、いじめられていたんだっけ。その時は、ルルンやジーンもいなかったし助けもなかったんだ」 

 滅ぼした地下の盗賊の町。そして……、いじめがひどくなって暴力を受けて。いじめっ子ごとリール村まで()()()()()()()()


 「そう、だ。僕はその時、魔王になった」

正確には体を乗っ取られた。僕なのに僕じゃなくなった。


『やっと思い出したか』

魔王はニヤリと笑った。不気味で僕は、ブルりと震えた。

 「……また、体を乗っ取るの?」

今度も乗っ取られたら、どうなるかわからない。魔王を睨んで僕は()()覚悟を決めた。


 『待て。最後の記憶は思い出してないのか?』

魔王は僕に探るように言った。最後の記憶……?


 

 リール村で僕は体を乗っ取られて、魔王になった。その後は……。



『ルルンとジーンを見て、何か思い出さないか?』

なんでこんな時に、ルルンとジーンの名を出すのだろう。一回目の時はルルンとジーンとは会ってない……はず。


 いや、会っていた。ルルンは勇者として。

ジーンはルルンを支える騎士として。――魔王()を倒しに、来た。


 そうだ。なぜ忘れていた? 幼馴染として二回目の転生時に会ったのに。子供だったから? 敵対する魔王と勇者が幼馴染で一緒に育ったなんて……!

震えがとまらない。僕はまた倒されるのだろうか? 今度は幼馴染のルルンとジーンに……!


『ちゃんと思い出してこい。……体の治療が終わったようだ。もう二度と体に傷をつけるな』

魔王はそう言って、後ろを向いて歩き出した。

「あっ! 待って、魔王!」

 僕は引き留めたけれど、魔王の体の輪郭が徐々に薄くなって消えていった。


 「うわっ!」

暗い亜空間がグラリと揺れて、底がふっと消えた。

「え……、うわああああ!」

 僕は足元から落ちていった。




 「マオ様! マオ様!」


 ミレーヌとサウスさん、その他の人の呼びかけが聞こえた。僕は重たいまぶたを開けた。

「ミレーヌとサウスさん……。ケルベロスは?」

どのくらい気を失ってたのだろう? 僕はケルベロスの姿を探した。

 「ガウウ!」

 「うわっ!」

 ケルベロスは心配そうに僕を上から覗き込んでいた。びっくりした。


 「魔王様の作った薬丸のおかげで、ケルベロスは正気を取り戻しましたわ!」

ミレーヌは涙を拭って、ケルベロスの無事を教えてくれた。

 「そうか……。良かった」


 よいしょ……と僕は体を起こした。

「あっ! 魔王様、まだ動かないでください! 回復魔法をかけましたが、まだ完ぺきに治ってません。全治約一週間です」

 ミレーヌは回復魔法をかけてくれていた。だから僕は戻って来られた。そう実感した。


 「そこまで勇者のルルンと騎士のジーンが、来てる。僕はルルンと話をするからミレーヌは下がって。サウスさんはケルベロスを操っていた男を連れてきて」

 「は、はい!」

 「承知しました」

 ふらふらするけど、頑張って立ち上がった。そしてケルベロスに話しかけた。


 「ケルガ、ベロン、スーグ!」

「ガウ!」

 いい返事だ。もう操られてないし薬の影響はなさそうだ。

「ケルベロスのお母さんが心配して待っているよ。早く寝床へお帰り。あとは大丈夫だから」

 ケルベロスの頭を順番に撫でてあげた。ぐるるる……と喉を鳴らして喜んでいた。


 「さ、行って」

「ガウウ!」

 一度振り返ったけれど、林の中へ走っていった。この町の、どこかにあるダンジョンから魔界へ帰れるだろう。


 ケルベロス達を見送った後、町の自警団の人達やお城の騎士団が大勢やってきた。ケルベロスがいなくなったので、残っている僕に事情を聴きにきた。

 「マオ!? どうしてここへ!?」


 騎士団の先頭にいたのはルルンとジーン。すっかり王都の騎士団に馴染んでいるようだ。

「ケルベロスが暴れていると聞いて。ここへ来た」

 到着した皆は、有名でもない冒険者の僕がなぜ? というような顔をしていた。


 「マオが強くなったのはわかる。でもケルベロスのような第一級の強さの魔物を、どうやって? 退治したとしてもケルベロスの姿がないし、林の中へ消えていったという証言がある」

 ルルンは僕に早口で言ってきた。勇者として、町の人の安全を脅かす魔物は見過ごせないだろう。


 「ケルベロスは自ら、帰っていったよ」


 


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