48 西の村
ケルベロスの親に、寝床へ帰るように言ったがなかなか帰ろうとしなかった。ミレーヌに、ケルベロス親へ話を聞いてもらうと胸が悪くなるようなことを知った。
「どうやらケルベロス……。ケルガ、ベロン、スーグは親を盾に、命令を聞くように連れ出されたみたいですわ」
ケルベロス親は心配そうに項垂れた。魔物も、人間も子を思う気持ちは一緒だ。
「ケルベロス、ケルガ、ベロン、スーグを迎えに行ってくるよ。心配しないで寝床に帰って、帰りを待ってて!」
僕は、ケルベロス親に元気を出してもらうように伝えた。
「ガウ!」
「必ず、一緒に帰ってくるから……」
もふもふの首の毛皮に顔を埋めた。
もふもふな毛皮は、名残惜しいけどポンポンと三匹の顔を撫でた。
「寝床で、子ケルベロスを待ってて。ちゃんと休んでいるんだぞ?」
「ガウ」
返事をした。やはりこちらからの言葉は、ちゃんとわかっている。
ケルベロス親の後姿を見送って、僕たちは岩山のダンジョンを出た。元気になってくれればいいけど。
「それで、ケルベロスはどこに?」
僕は怒りを抑えてミレーヌに聞いた。
「転移魔法で移動します。また私に掴まって下さい」
三人で円陣を組んで、転移魔法で移動した。
「あちこちで魔物に危害を加えてるなんて、許さない」
「必ず見つけましょう」
僕とミレーヌは一緒に頷いた。サウスさんは僕達を待っていた魔族の方を見つけると、近寄って状況確認していた。
転移魔法で移動したから、辺境の村リールからどのくらい離れているのか難しいけど、ここから海か湖か水面が見えた。
「あれは湖ですわ。ここは湖の町 サザルといって静かな避暑地になってます」
「何もなかったら遊びに来たいね」
今はケルベロスのことが先だ。
「ま、魔王様! 町はずれの林の中で、町の自警団とケルベロスが対峙してます! どうかどちらもケガのないようにお願いします……!」
村で姿を変えて人間に紛れて暮らしている魔族の方だそうだ。人間から正体を隠して技術を教わっているらしい。純粋に技術を教わりたくて姿を変えて暮らしていると言った。
どちらもケガのないように心配していた。
「ミレーヌ、サウスさん。何とかしよう」
「ですわね」
「はい」
「あそこです」
ケルベロスが暴れている場所へ案内してもらうと、町の自警団の人とケルベロスが対面して睨みあっていた。
ケルベロスはいつもの様子と違い、目は血走って毛を逆立てていた。
「ケル……「お待ち下さい」」
名前を呼ぼうとしたらサウスさんに、とめられた。
「なぜ?」
僕は早く、人間とケルベロスのにらみ合いをやめさせたかった。
「ガァァァァ!」
ケルベロスは自警団の人達を威嚇している。十人くらいの人じゃ、ケルベロスをとめられないだろう。
「うわっ――!」
ケルベロスは前足で引き裂くくらいの威力で、激しく自警団の人達のすぐそばを通り過ぎた。
「とめないと……!」
いてもたってもいられなくて、サウスさんのほうに振り返って言った。サウスさんを見ると目が赤くなっていて、広範囲を探るような魔力を感じた。
「あそこに異常な魔力を感じました! きっとその者が、ケルベロスを操っています!」
「行こう!」
サウスさんは近くでケルベロスを操っている者がいると思い、広範囲を探る魔法を使ったと言った。
「私達に気がついてないかしら?」
走りながらミレーヌはサウスさんに聞いた。
「まだ動いてはいないので、気がついてないはず」
サウスさんのあとについて、走った。
林の中を走って行くと、すぐに怪しげな魔法を使っている者の姿が見えた。
立ち止まらず僕はそのままケルベロスに酷いことをした男に、風の攻撃魔法 風弾を撃った。
「やめろ!」
「うわぁあ!」
男は僕の風魔法で吹き飛ばされて、地面へゴロゴロと転がった。そこにミレーヌとサウスさんが、すごい速さで男の両腕を掴んで拘束した。
「魔王様! 操っている者を捕まえましたから、ケルベロスを!」
ミレーヌは僕に大声で伝えてきた。
「わかった!」
もと来た道を走って、自警団の人達とケルベロスが対峙している場所へ戻った。
「自警団の方! 僕がケルベロスをとめますから安全な所まで下がって下さい!」
腕を振って、安全な所まで下がるように促した。
「ケルベロスをとめる!? 正気か!?」
自警団の人達はお互い顔を見合わせて言った。魔族の人がオロオロしながら、頑張って自警団の人達へ大声で伝えた。
「この人に任せて私達は下がりましょう!」
「あの控えめなタロスが、あんな大声を出すなんて! ……俺達はいったん下がろう。それでだめだったら、騎士団に連絡しよう!」
自警団のリーダーらしき人が皆へ話した。
「了解です!」
自警団の人達が、魔族のタロスさんの言葉を聞いて下がり始めてくれた。僕は自警団の人達が安全な距離を離れたのを確認してから、ケルベロスの方へ歩いていった。
「ケルベロス……。ケルガ、ベロン、スーグ。君たちのお母さんは解放したよ。もう暴れなくても、命令を聞かなくても大丈夫だから、おとなしく寝床へ帰ろう……? お母さんが待っているよ」
僕はケルベロスの目の前へ立った。ケルベロスの子は2年の間成長したので、こうしてみると見上げるくらい大きな木のようだ。どんなに冒険者レベルが高くても怯むくらい、ケルベロスは強敵だと肌で感じる。
僕がケルベロスをとめなければ、国の騎士団や勇者レベルの人達がきてしまう。そうなったらケルベロスも本気を出さざるをないし、人間側の人達も本気を出すだろう。その前に、命をかけても……とめる。
僕は普段の様子とは違うケルベロスに、近寄っていった。




