47 岩石砂漠の中のダンジョン
「次の場所へ移動します」
ミレーヌが水晶タブレットを手に持って、場所を見せてくれた。今度は村からだいぶ遠い所だ。
「私に掴まってください。飛びます」
飛びます? 空中へ? わけわからずにミレーヌの腕へ掴まった。
「西へ行きます」
勢いよい魔力の流れを感じたと思ったら、目の前の景色がグニャリと歪んだ。気持ちが悪くて瞼を閉じた。移動魔法!?
「……大丈夫ですか? マオ様。あんまり移動魔法は得意じゃないので、歪みが生じてしまいました」
ミレーヌが話しかけてきて、僕は瞼を開けた。
「えっ!? ここは!?」
一瞬で周りの景色が変わった。ゴツゴツとした、大小の岩山がある険しい乾燥した地域に移動したようだ。辺境のリール村と全く違う景色、気温さえも違って戸惑った。ダンジョンの地下一階の場所に少し似ているけど、規模が違った。
「大丈夫だけど、ここは……」
「ここは岩石砂漠と呼ばれている地域で、砂は少なく岩肌がゴツゴツしているのが特徴ですわ」
岩石砂漠か……何かで見たことがある。前世で地球の乾燥地帯にある『月の谷』みたいな所かな。
「こちらです」
サウスさんの後をついて行くと、ぽっかりと開いた穴があった。そこから魔物のうめき声が聞こえていた。
「世界中のダンジョンは魔界とつながっていて、ダンジョンは魔物の住処になっております。低層へ行くほど強力な魔族が住んでますの」
ふふ……と、ミレーヌは微笑んだ。つまり逆タワーマンションみたいなものか?
「このダンジョンは上級者向けの、フリーダンジョンです。入場料は取ってないので中へ入ってケガをしても、HPがゼロになっても、自己責任になっておりますの」
「うわぁ……」
冷たいように聞こえるけれど、これが普通のダンジョンだよな……と思った。危険な魔物のテリトリーに入って魔物を退治したりお宝を奪うのは、人間側へ置き換えると強盗まがいのことをしてるようなものだ。
「このダンジョンの中へ入って調査します。かなりの魔力の乱れが感じられますが、私たちに魔物は向かっては来ません。けれど足元にお気を付けください」
サウスさんは僕達の前に、魔法で明かりを灯してダンジョンの中へ進んだ。
「ここは大きな岩山からできた、ダンジョンです。砂漠にすむ魔物たちが住んでいますね」
坂道になっている道を下へ進んで行くと、カサカサと魔物の動く音が聞こえてきた。
「大サソリだ……。やはり毒を持っているか……」
遠巻きにこちらをうかがっていた。尻尾の先は毒を持っている。
どのくらい下ったのだろうか? 魔物の気配はあちこちから感じるが、僕達へ襲ってこない。うじゃうじゃいるけど姿を現さないのは不気味だ。
鍾乳洞の気温のように寒さはないけど、この岩山のダンジョンの景色はそれに似ている。ゴツゴツしてるかツルツルしてるかの違いだ。ここはゴツゴツしている。
「マオ様、ミレーヌ。止まってください」
サウスさん、ミレーヌ、僕という順番で進んでいた。一番前にいたサウスさんが腕を横に出して僕達をとめた。
「いるわね」
ミレーヌが前を睨んで言った。前方はサウスさんが魔法で出した明かりでも、暗くてよく見えなかった。
「なにが……」
かすかに聞こえた息づかい。その主はゆらりと僕達の前に姿を現した。
白い長い毛並み。それは大きく三つの頭を持っていた。
「ケルベロスの、親!?」
舌を出して荒く息を吐き、毛艶が悪く尻尾は垂れていた。明らかにおかしい。
「マオ様……。このケルベロスの親は、何かされたと思います。気を付けてください」
サウスさんも、ケルベロスの親の姿を見ておかしいと判断した。ゼイゼイとずいぶん苦しそうだ。
「ケルベロスの親! 大丈夫か!?」
僕は心配になって声をかけた。
「ぐ、くぅぅ……ん。くぅうん!」
こちらに気が付いて、一匹の頭が首を下げた。気のせいか? 首のうしろに何かが見えたような……?
「サウスさん、明かりを上の方へお願いします」
「はい」
サウスさんの魔法で出した明かりが、ゆっくりと上へ登っていく。
「えっ?」
僕達はその明かりで見えたものが信じられなかった。自分が見たものを嘘だと思いたかった。
ケルベロス親の三つの首に、輪っかがはまっていた。飼い犬のように誰かがはめた、切れない皮でできた首輪。その後ろには長い鎖が繋がっていて、先が見えなかった。
「ひどい! ケルベロスをこんな風に繋ぐなんて!」
そう言って僕は、誰がケルベロス親をどのように捕まえたのかゾッとした。ケルベロスほどの大きさの、強い魔物を捕まえた人間。
悪い人間……。
「どうやら魔法で束縛したようですわ。……ケルベロス親をこんな風にするなんて、ゆるせません……!」
ミレーヌの怒ったところは初めて見た。サウスさんからも殺気を感じる。
「とにかくケルベロス親の首輪を外してあげよう!」
「ええ!」
僕は魔法で、はめられている首輪を順番に外してあげた。ケルベロス親に魔法をかけた、この魔力の主は覚えがあった。
「ケルベロス親、痛かっただろう……。可哀そうに。もう外したから大丈夫だよ」
このケルベロス親にかけられた魔法は、かけられた本体の魔力をどんどん吸い取るという嫌な魔法だ。魔物にとって死に至る魔法。
「よしよし。もう大丈夫だよ……」
伏せてもらって僕は自分の魔力を、ケルベロス親に分けてあげた。体の力が抜けるように魔力が吸収されていったけれど、ケルベロス親が元気になるならばいい。
「マオ様、ほどほどになさって下さいね」
ミレーヌ達には、僕が魔力をケルベロス親に与えていることが見えるのだろう。だいぶ吸収されたけれどまだ大丈夫だった。
「がるぅぅぅぅ……」
頭を撫でると気持ちいいのか目を細めた。
「魔王様の魔力は、極上ですから美味しかったでしょう」
ちょっとそれは僕からしたら複雑だった。
「マオ様! 近くの町で魔物が暴れているそうです!」
サウスさんが、誰からか連絡を受けて教えてくれた。
「すぐ行こう!」




