37 地下四階のもう一人の魔物
「久しぶりにトラブルか……」
ケガ人が出たのは、よくない。多少のケガはある程度仕方がないけど、教会へ転送されるケガは見過ごせない。
神父さんに怒られたし、また原因解明のためにダンジョンへ行く。
「またダンジョンの中を調べてくるよ」
2度も行くなんて……。朝に最終点検したのに見逃したかな?
「お願いします」
「お気をつけて……」
サウスさんとミレーヌは、心配そうに僕を見送った。
地下三階までざっとフロアを通り、特に異常はなかった。解放された地下四階で、何かあったのだろうか。
地下四階は、海水が入り混んでいるほぼ水のフロア。
他のフロアは炎系魔法を禁止しているけど、ここは解禁している。ただし、雷系を禁止にした(感電防止のため)
このダンジョンのルールは独自で初心者のために、いくつか決めさせてもらった。
水の上の一本道を進んで行くと、何かの音が聞こえてきた。
「ん? なんの音だろう……」
食いついてくる人喰い魚を、ぺちぺちと叩いて払いながら中央の陸地までついた。
「だんだん音が大きく聞こえてきた……?」
このダンジョンは音楽など流していないし、効果音もつけてない。じゃあ何の音だろう?
不思議に思いながら、キョロキョロと周りを見ていた。
ザバッ……! 波が立ってクラーケンの『タコスケ』が現れた。水しぶきを上げて陸地に足を二本、乗り上げた。
「やあ、タコスケ。朝ぶりだね!」
「ア!」
僕が挨拶すると、足……か、手なのか区別つかないけど上げて答えてくれた。
「なんか冒険者のけが人が続出してるけど、知ってる?」
「ア……、ウ!」
たぶん……ここのフロアで起こっているはず。タコスケが暴れすぎないように、サウスさんかミレーヌから注意してもらってるはずなので、タコスケではないはず。
「ダバダ――! ダバ、ダバダ――♪ ヴァ、アアアア――ッ♪」
その時、大きな破壊音が聞こえてきた。
「な、に? この耳を切り裂くような音は!」
たまらず僕は耳を塞いだ。それでも聞こえてくる。
「ダバダ――ア! ダバ、ダバダ――ア♪ ヴァ、アアアア――アッ♪」
バサササッ! と大きな鳥の羽ばたく音が聞こえてきて、僕のいる中央の陸地に何かが舞い降りてきた。
「もう! 『切り裂くような音』なんて、失礼ね! 魔王様!」
目の前にいたのは、下半身が鳥の脚の背中に羽がある女の子だった。僕が魔王……じゃないけど、魔王なのを知っているようだった。
「君は……?」
初めて会う、魔族だった。女の子は上品にお辞儀をして、僕と視線を合わせた。
「私は、セイレーン。まだ名前はありませんわ」
首をかしげて微笑んだ。
「セイレーン? あの?」
海の魔物のセイレーン。美しい歌声で船乗りを魅了し、船を難破させるという?
「ア! ア!」
タコスケが何かを訴えていた。セイレーンを指さしている。指……? 足をさしてるというか、手をさしているというか……。
「まあ! クラーケン! 私が音痴なんて! ひどい――っ!」
「ウ! アア!」
タコスケとセイレーンは喧嘩を始めた。ええ……。あの騒音はセイレーンの歌だったのか。
「ん? ということは」
このフロアに来た冒険者が、セイレーンの歌に耐えられず水の中へ飛び込んだのか!
音痴なセイレーンって聞いたことないけど。それにしても、なぜこのフロアにいるんだろう?
「ねえ、セイレーン! なんでこのフロアにいるの? もともとの住処だった?」
口喧嘩している二人をさえぎるように、大声で聞いた。二人はピタッと口喧嘩をやめて、僕の方に体を向けた。
「いいえ、違います」
セイレーンが答えた。――じゃ、なんでだろう? 口喧嘩していたクラーケンが急にウネウネし始めた。
「クラーケンの『タコスケ』さんとは恋人同士ですの」
セイレーンは恥ずかしそうに羽で顔を隠した。タコスケも恥ずかしそうに赤くなった。大丈夫か。
「ソウナンダ」
クラーケンとセイレーンが恋人同士なんて、初めて聞いた。僕は棒読みで返事をした。
だから一緒にいたのか……。
「いや、まて!」
だからといって冒険者をこれ以上ケガをさせて、教会へ転移させるのは避けたい。神父さん怖い。
「ここにいる理由は分かった。無理やり引き裂くことをしない」
「魔王様、理解あるぅ――!」
「ウ! ウ――!」
クラーケンとセイレーンは手を取り合って喜んでいた。――なんだか疲れてきた。
さて、どうしよう?
「……セイレーン。冒険者がこのフロアにいるときは、歌わないことできるかい?」
考えてセイレーンに言ってみた。どちらにしてもセイレーンの歌は冒険者を惑わすもの。またトラブルになっては困る。
「え――」
セイレーンはちょっと戸惑っていた。しかしクラーケンが説得してくれているようだ。
「ウ――、ウ!」
「でも!」
頑張れ、タコスケ。
「……分かった。冒険者がいないときに歌うわ」
セイレーンは仕方がない、というようなしぐさをして約束してくれた。
「ありがとう!」
何とかこれで、ケガをする冒険者が減ってくれればいいけど。
「じゃあ、解決かな? 口喧嘩しないようにね」
喧嘩するほど仲が良いと言うけど、冒険者を巻き添えにしないようにして欲しい。
「あ――、魔王様! 私もタコスケさんみたいな、イケてる名前が欲しいで――す!」
セイレーンが帰ろうとした僕を引き止めて、お願いしてきた。
幼馴染達にネーミングセンスがない! と散々言われてきたけれど、良いのかな……?
「う――ん。いいのかい?」
『タコスケ』の名前がイケてると言ってくれて、ちょっと自信がついた。
タコスケが手を、ブンブンと左右に振っているのは見なかったことにしよう。
「ぜひ、お願いします!」
セイレーンは、羽をパタパタ動かして期待していた。
女の子だから……。え――と。
「セ、」
「「セ?」」
「セイル……という名は、どうかな~?」
何となく、イメージで考えてみた。タコスケをチラリと見てみたけど、タコの表情は分かりにくかった。
「まああ……! 素敵な名前! 気に入りましたわ――!」
セイレーンが名前を気に入ってくれたようだ。
「わ!」
ピカ――ン! と眩しいくらいに周りが光った。
「……あ。テイムしちゃった」
人間型もテイムできると初めて知った。
「みんなに自慢しちゃお!」
「ウ! ウ!」
二人でイチャイチャし始めたので、僕はとっとと帰ることにした。
「じゃ、よろしく!」




