表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

咲血の儀式




ヘムヨック村の外れ。


「………あッ……ううっ。」


納屋とおぼしい薄暗い建物の中、少女の声がする。

声は、弱々しく苦しそうだ。


家畜の寝床となる藁を布いた土の上に、人が横たわっている。

だが人の面影は、ほとんどない。


二目と見られぬ凄惨な拷問の形跡が頭から爪先まで隈なく覆い尽くしていた。

火傷や傷痕のない場所は、何処にもない。

少女の全身に刻まれた傷は、人間の悪意そのものだった。


今、少女を中心に更なる野蛮な光景が広がっていた。


斬り落とされた鶏の首、馬の陰部、牛の血が入った木桶。

釘に刺された222本の人間の指は、まだ新鮮な血を溢している。

そして黒魔術と思しい邪悪な秘文字、図形が地面に書き殴られていた。


「……くッ。」


納屋には、少女のほかに動くものがある。

12~13歳ぐらいの少年で自分の右腕を自分のナイフで傷つけていた。

この黒魔術の儀式も彼が行っているのだろう。


少年の腕には、生傷でまじないの図形が刻まれている。

恐らく地面の図形と霊的な結び付きを得るためのものだった。


「はあ、はあ、はあ……。

 いつぅ……。」


少年は、図形を刻み終えると震える手でナイフを取り落とした。


「………やったよ。

 できたよ。」


少年は、傷痕で真っ黒になった少女に声をかける。

藁の上で仰向けになったまま少女は、弱々しく返事をした。


「本……当……?」


「待って確かめる。」


少年は、そう言って血塗れの指で古々(ふるぶる)しい本を調べる。

不思議なことに血の着いた指でページをめくっても血痕は、残らない。

まるで本が少年の血をすするように血の跡は、消えていく。


「………本当に今、確かめてるだけ?」


少女の声がした。

少年は、少し苛立ったようにページを覗き込む。


「ちょっと待って。」


「もういい。」


少女は、少年にきつい語勢で言った。


「早く終わらせて。」


「ダメだよ。

 ちゃんと確かめないと。」


「本当にもう終わらせて欲しいの。」


少女の声が切実に訴えた。


恐らく傷の痛みは、想像を超えるほど彼女を苦しめているハズだ。

何よりもこの傷を受けた地獄のような体験が彼女の心に圧し掛かっている。


何度でも思い起こす苦痛の記憶。

それから逃れる術は、この世との決別しかない。


彼女は、終わることを望んでいる。


「………なら殺してやるよ。」


少年は、そう言ってナイフを掴む。

左腕を振り上げ、少女に近づいた。


だが少女は、ナイフを事もなさげに少年から奪い取った。


「それじゃダメ。」


少女は、ナイフを少年から奪って言った。

彼女の目は、少年の右腕に注がれている。


「早く、それを私に。」


「…こんなことしても何にもならない…。」


少年は、そういって抵抗する。

だが少女は、かすれた声で答える。

そこには、恐ろしい決意と悪意が潜んでいるような気がした。


「貴方には無理でも私にはできる。」


少年は、その言葉に唇を噛んだ。

彼女の言う通りだ。


「そこまでして……どうなるっていうの?」


「……だって。」


瞼を切り取られ、剥き出しになった眼球が少年を見た。

痛ましい姿の少女が自分の感情を吐露する。


「………あいつらのこと………。

 ………殺したいよ?」


少年は、真っ青になった。

だが彼女の願いは、もう他にない。

彼にできることも、もう他にない。


少年は、右拳を握り締める。

赤黒い血が腕全体から零れ落ちた。


少女は、再び魔法陣の指定の位置に着く。

そこで仰向けになり、両膝を開いた。

丁度、出産する時の母親の体勢である。


彼女の両足は、二つの真っ赤なレンガの上に置かれた。

古代ザトランで出産の時に妊婦が踏み締めた”誕生レンガ”である。


やがて納屋の外に悲鳴が漏れだした。


「があッ!!

 えぎゃあッッ!?

 ああッ―――■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ