終焉
「……さ、さぶぅ!?」
巴は全身を擦りながら雪道を歩く。
「……人一人いないわね」
「……ええそうね。 二、三年前は普通に色んな人達がいたのに」
「早くアウラの所に行こうぜ!」
「分かりました。 あに様」
こうして一行は誰の障害も無しにヴァレスト帝国にある王宮を目指して歩いた。
「……はぁ。 手が焼けるわね本当に」
そんな巴達を背後から剣を握った女性が優しい微笑みを向けている事には気づかずに。
「……着いたぜ!」
巴達はヴァレスト帝国の王都に着くとそのまま扉を開けてそのまま中に入った。
「おう待ってたぜ? 愉快な一行様。 そして愛しの姫様はこの部屋の奥で眠っているぜ?」
「っ!? ラグナル!」
巴は見つけた妖霊の姿を見るとその目を今にでも殺しそうなぐらいに睨んだ。
「……やれやれ。 俺も弱くなったもんだぜ。 既に精霊の体から人間へと変化しちまっているんだからよ」
「……どういう事だ?」
巴は首を傾げて睨んだ。
「……そう言う事ね。 あなたどれほどの人間を犠牲にしたのよ!?」
するとドミエラが何か気づいたらしくラグナルを見て睨んだ。
「そうだ。 俺はラグナルじゃない。 俺の名前はアザイアそして、この国の人間達の命と魂を犠牲にしなければこの世に留まる事が出来ない体になっちまっているさ」
「……どう言う事だ?」
「お前とおんなじだよ。 仲条巴。 俺とお前はおんなじ偽物だ。 俺は人間のアザイアでも妖霊のラグナルでもない何かになっちまったんだよ」
「……意味が分からねぇ」
「わからなくてもいいさ。 ここにいるのはただの亡霊。 そしてアウラを攫ったのはその魂と肉体が欲しいからだ」
そう言いながらラグナルいやアザイアが笑う。
「さぁ最後の決戦だ! 仲条巴!」
「行くぞみんな!」
「「「おう!」」」
「おっと部外者は引っ込んでいろよ!」
「「「ぐっ!?」」」
するとラグナルが見えない空気の玉を発射し、クロナ、ミエル、ドミエラを吹き飛ばして皆が壁に激突して気絶した。
「みんな!」
巴はクロナ達を心配して目線を逸らしてしまいそのままラグナルに殴られて地面を転がった。
「フハハ! 弱いな!」
「まだまだ!」
巴は五歳の体でそのままラグナルの体を殴り、打撃を斬撃に変える異能でその鎧の様に固いからだを体を殴りまくった。
「ははっ! 効かねぇなぁ!」
しかしラグナルには全くダメージを与えられずにそのまま巴は殴られて続けてついに膝をついた。
「ぐ、ぼうぇ」
意識が遠のいていくのを感じた。
だがせめて一撃与えなければ後のクロナ達に申し訳が立たない。
「うおぉぉぉぉ!」
巴はそのままラグナルに突っ込んで顔面を思いっきり殴って異能を発動したがそれと同時に巴の胸はラグナルの手で貫かれていた。
「ごふぁ?」
「あばよ仲条巴」
巴が書いた言葉はそれで最後だった。
「んあ?」
ミエルが目を覚ますと衝撃の光景が目に映った。
「えっ? 巴?」
ミエルが目にしたのはラグナルに胸を貫かれてそのまま膝から崩れ落ちる巴だった。
「……嘘。 嘘よ!」
ミエルは思わず叫び声を上げた。
「んあ? あぁゾズマの妹の方が目を覚ましちまったかぁめんどぐべぇぁ!?」
そんな愚痴の様な発言をしているラグナルの頬をミエルはぶち抜いた。
「ふざけんじゃないわよこのクズ! あんた何をしたか分かってんの!?」
ミエルは激昂した。
アウラの愛しい人をこの男は二度も奪った。
その事実がミエルの逆鱗に触れた。
「おいおい。 別にいいじゃねぇか。 クローンだぜ? また作ればいいじゃねぇか?」
「あんたねぇ!」
ミエルは拳を強く握ってそのまま走り出した。
連続で拳を振り抜いてその憎たらしい顔面をボコボコにしようと何度も顔面をぶち抜くが全くラグナルは応えてなさそうだった。
「はっは! 無駄だぜ!?」
「なら」
「腕を斬りましょう」
すると背後からドミエラとクロナの声がしてドミエラは薙刀でラグナルの左腕を、クロナはチェンソーでその右腕を見事同時に斬り落とした。
「はぁ?」
突然の出来事で呆けた声を出すラグナル。
その隙をミエルは逃さなかった。
「終わりよこのクズ」
そう言ってミエルはラグナルの胸に手を突っ込んでそのままラグナルの心臓を握り潰した。
「がはぁ?」
こうしてヴァレスト帝国を脅かした悪の狩猟は呆気ない死を迎えた。
「ドミエラ、お姉ちゃんを」
「分かった」
「クロナは巴を」
「……わかりました」
そう言ってクロナとドミエラはアウラと巴を回収してそのまま精霊国へと帰った。
「……まぁ別殺されてもクローンの技術があるから心配ないの」
「そうですなぁ」
とある暗い施設で二人の老人が培養液に浸かったラグナル達を見ながら笑う。
「まぁラグナルの一号はあっさりと負けましたなぁ」
「まぁ仕方ないでしょうアザイアは呪いから解放されようとラグナルと混ざったはいいですがそのまま寿命で死んでしまうとは」
「でもまぁよいではないですか? 我らサタ族の血と厳格様のクローン技術のおかげで素晴らしい出来になりましたなぁ」
「いやいや。 サタ族の長老様こそ!」
実は刀国も滅んでいたのだ。
今から二十年前にサタ族の長老は突然異能の分身体でやって来た厳格と友人となりそのまま刀国を滅ぼした。
そしてヴァレスト帝国に赴き、老人となったラグナルの肉体を乗っ取ったアザイアと出会いラグナルのクローンを制作していたのだが、試しとして自身の浅儀の血筋で試したいと厳格は自身の娘である葵とその旦那の翔太、そしてその息子のトモエを材料にたくさんのクローンを作りそのまま帝国を手に納め、精霊国アラディスを乗っ取った。
「ふふ。 まだまだ我らは支配しないといけませぬな」
「そうですなぁ」
そう言った時だ。
厳格の首が床に転がった。
「な、なんだ!? ご、護衛は何をしている!?」
長老は驚いて思わず立ち上がった。
「な、何者だ!?」
コツンコツンと足音が響く。
「お、お前ま、まさか! レイメル・ラーシャ!? な、何故ここに!?」
「……あら? シフォルの民を虐殺したクソ野郎じゃない。 久しぶりね?」
バーテンダー服を着た女性が怒りを込めた笑みを浮かべていた。
「ま、待て! わ、私は何も悪くない! ただ一族の繁栄を願ってだな! そ、それよりも護衛のサタ族どもはどうした!?」
「……うるさいわよそんなの私が全部斬り殺したに決まっているじゃない? 私のディアを殺した挙句にシフォルの民を虐殺し、さらに私の娘であるアウラにまで手を伸ばしてこの外道! 死になさい」
「ま、待て! ゆ、ゆる!」
「許さない」
冷淡な声でレイメルはサタ族の長老の首を刎ねた。
それはサタ族の持つ斬撃に対する異常な耐性を無視してその命を奪った。
「……さようなら。 昔、血を分けた血族よ」
これがサタ族とヴァレスト帝国の終焉だった。




